第60話【vs蒼に染まる妖魔の王】
「久しぶりに楽しませてよ、人間」
玉座から立ち上がり、真っ青な剣身を持つ剣を引き抜いて不敵に笑うシエルに、涼太の警戒心は跳ね上がるように高まっていく。槍を持つ手が少しだけ震えた。
(怖い……でも)
ちらりと後ろを見れば、物陰にこそこそと隠れながらも心配そうにこちらを見るレーゲンの姿が見えた。シエルの目的はわからないが自分だけでなく、彼も守らねばならないと考えるとより緊張感が増してくるが、ここで止まるわけには行かなかった。
「うぉぉぉぉ!」
気合いをいれるために声を出しながら、涼太は槍を構えてシエルの元へと走り、そのまま槍を振い……シエルに避けられてしまった。
(もう一度、もう一度……!)
何度も、何度も、力の限り槍を振るうが一撃もシエルには当たらない。焦る気持ちからか、どんどん槍筋が狂っていく。
「涼太!一回戻れ!」
レーゲンの声が響き、ここで涼太はようやく一旦冷静になれた。すぐ近くにあるシエルの顔に驚き、慌てて後ろに下がる。
「……あれ、終わり? ……じゃあ、次は僕の番だね」
ヒュン、と風を切る音が聞こえたかと思えば瞬間にシエルの姿が目の前に浮かび上がった。
「遅い」
「っ……!」
振り下ろされた剣に対し、涼太は槍を横に持ち、テレキネシスで補助してガードすることしか出来ない。とっさの判断で行動したが何とか防ぐことが出来た。
一方、涼太にその一撃を防がれたシエルは何かを警戒するように、すぐに涼太と距離を取ったが……その直後警戒を解いた。
「……僕の一撃を受け止める力はあるのに、カウンターすら出来ないなんて!僕と戦うって決めたのは君なのに、戦い方を知らないのかい? よく見たらその槍も変わった形をしているけど新品みたいだし、ガッカリだよ」
馬鹿にしたように、挑発的にシエルは鼻で笑う。だが、既に涼太はシエルのある発言から突破口を見つけ出していた。
(受け止める力はある……? ということは、シエルさんは超能力で受け止めた分も、僕の純粋な力だと勘違いしてる? もし、そうなら僕の超能力に気がついてない事になるけど……)
そこまで考えて、もし自分の超能力に気がついているのであればもっと素早くけりをつけに来るはずだ、と涼太は考えたのだ。
(でも、そうだとして、何が出来るだろう)
涼太の超能力、テレキネシスは本来直接相手に作用させるための力でない。ドレイクや角のように、力が強すぎる相手に直接テレキネシスをかけても短時間しか持たない。
そして恐らく、シエルにも上手くはいかないだろう。下手にテレキネシスをかけてシエルに気がつかれてしまえば、今度こそ突破口を完全に失ってしまう。
(今は、様子を見よう)
幸いにもシエルは完全に油断しているのか、つまらなさそうにこちらを見つめている。これなら、いつかチャンスはありそうだと涼太は考えた。
「さっきからだんまりだけど……何考えてるの?それとも……何も答えられないの?」
シエルの言葉にただ、涼太は見つめ返すことしか出来ない。もし自分がスピカだったなら言葉巧みにシエルを誘導することも可能だったかもしれないが、今は黙っていた方がいいと涼太は考えていたのだ。
最も、その行動はシエルの怒りに火をつけるだけだったのだが。
「もういい」
見た目だけでなく怒りの籠ったその声すらも美しい妖魔は、鋭い目でこちらを睨み付けてくる。先程の遊び半分といった気配とは全く違う気配に涼太は思わずたじろいだ。
再びヒュン、と風を切る音と共にシエルが姿を消す。
(さっきより、早い!)
とっさに槍を横に構えるので精一杯で、超能力を発動させる暇はなかった。ほんの一瞬で目の前に現れたシエルは大きく剣を振り下ろす。
その一撃を、涼太の体は押さえきれなかった。激しい音と共に、涼太は後ろへと突き飛ばされてしまった。
「涼太!」
「くっ……!」
打ち付けた衝撃で異常に頭が痛むのを感じながら、涼太は何とか立ち上がる。腕が震え、もう一度受け止めると壊れてしまいそうだ。そんな涼太の様子を不思議そうにシエルは見つめていた。
「……あれ?さっきのは紛れ? 本当……どこまでも期待外れだね、君は。だからさ……」
終わらせてあげるよ、と呟くシエルが涼太との間合いを詰めようとした次の瞬間
パリンと、戦いに水を差すようにして、何かが割れる音が部屋に響いた。
(な、何?)
とっさに、音がしたものを見つめると、それは花瓶らしき物の破片だった。この花瓶はここにあったものではない。何故だろうと辺りを見渡せば、すぐに原因がわかった。
レーゲンだ、彼が自分を守ろうとして物影から動いてくれたのだと涼太は気がついた。そして、それにはシエルも気がついたようでギロリと鋭い目でレーゲンを睨み付けている。
「……戦いに水をさす気かい?」
「戦いに水をさすも何もあるかっての!涼太が頑張ってるのに、俺だけ隠れてるわけには行かねぇんだよ!」
「はぁ、これだから僕は……仲間意識ってのが大っ嫌いなんだよ!」
レーゲンの行動に余程怒りが湧いたのか、殺意剥き出しとなったシエルは勢い良く、辺りのものも破壊しかねない勢いでレーゲンにむかって剣を振るうが、レーゲンは近くにあった古びた小さな机でその一撃を受け止めた。
「おっと!それは当たらないぜ!」
次々と辺りの物を上手く使い、攻撃をかわすレーゲンは余裕そうにしているが、このままでは時間の問題だ。焦る涼太の目に映ったのは、先程レーゲンが投げつけて割れた花瓶の破片だった。
(……破片。そうだ、これを使えば)
シエルはレーゲンを追い、こちらには目も向けていない。武器を振り回せば流石に気がつかれてしまうかもしれないが、超能力を使うなら今がチャンスだ。
辺りの破片達を、テレキネシスでふわりと浮かせる。シエルに対峙しているレーゲンも涼太の能力の発動に気がついたのか、涼太がより一撃を当てやすいように立ち回りを変え始めた。
(今だ!)
頭の中で、破片をシエルの体を刺すようにイメージすれば破片達はまるで個別の意思をもって躍るかの様に動く。
「な……!」
一瞬の風を切り裂く音でシエルはようやく、自分が危険に立たされている事に気づきとっさに体勢を変えたが次の瞬間響いたのは、鋭い破片が服ごと皮膚を切り裂く音だった。




