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【消えた作品】  作者: 風花
第5章【霧の中の妖魔城】
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第59話【諦めてなどいない】

 ガシャン!と花瓶の割れる音が静かな部屋に響く。古びたクローゼットの中に隠れていた2人は、その音でシエルが罠にかかったのだと理解することができた。


「よっしゃ!成功だ!」


 扉を壊しそうな派手な音を立てながら、レーゲンは意気揚々とクローゼットから飛び出す。涼太はレーゲンの行動に慌てたものの、音に反応せず動かないシエルを扉の隙間から見て、ようやくゆっくりと外に出ることが出来た。


「凄い音がしたけど、シエルさん大丈夫かな?」


 シエルが足に引っかけたのは、この部屋にあった赤色の糸だ。


 この作戦は本来、部屋に巡らされたこの糸でシエルを転ばせ、その衝撃で棚の上にある花瓶をシエルの近くに落として気をそらさせた後、超能力で拘束する。という作戦だったのだが偶然に偶然が重なり、シエルは花瓶で頭を強打してしまったらしい。


 結果として、シエルは拘束される前に気絶して動かなくなってしまった。余程強く打ったのか、ターコイズブルーの髪の毛が目立つ頭からは紫色の血が流れ出していた。


「あちゃー……こりゃ酷ぇな。まぁあっちから危害を加えようとしてきたんだしこれぐらい正当だろ」

「そ、そうかな……」


 この傷は人間だったら致命傷だが、シエルは妖魔なので傷の治りは人間よりずっと早い。それでも、涼太の心には何とも言えない罪悪感がちらついた。


「それより、さっさと外に出てシュヴェ達を探そうぜ」

「う、うん」


 シエルさんごめんなさい。涼太は心でそう謝りながらレーゲンの後をついて部屋を出る。その直後、微かにシエルの手が動いた事に二人は気がつかなかった。






 シュヴェとシルトを探して、二人は廊下の扉を片っ端から開けながら歩く。


 どこまで来たのだろう? 気がつけば廊下は青の空間から赤の空間に変わり、廊下に飾られた装飾品も手入れはされているものの、どことなく寂しい雰囲気を漂わせている。


「よし、次はここだな、開けるぜ」

「うん」


 次にレーゲンが手にかけた扉、それは王の間程では無いものの、やたら細かく豪華な装飾が施された赤い両手扉だった。


 ギィ、と古めかしい軋むような音を立てて扉は開く。そのまま二人はその部屋の中へと入ると、辺りを見渡した。


(何だか陰湿な場所だな)


 それが、この部屋の最初の印象だった。明かりも無く、中はがらんとしているものの、少しだけ残っている辺りの物には白い布がかけられている。


 一連のそれらは、この部屋の物達は一体いつ頃から使われていなかったのだろうかと涼太に考えさせた。


「何だこの部屋。倉庫か? にしてはすっからかんだけど……」

「そこは旧王の間。先代王の玉座があった場所で……彼の墓場さ」


 レーゲンの言葉を遮るように、()()()が響く。二人が慌てて入り口の方へと振り向けば、頭から紫の血を流したままのシエルがそこに立っていた。


「お前、気絶してたんじゃ無かったのか?」

「一瞬だけ気絶したさ、だからこそちょっと()()()()()()ね」


 痛ましい姿のシエルを見て、言葉を失う涼太をそっと後ろに下げ、レーゲンはシエルを睨む。その顔を見たシエルは「そんな顔しないでよ」と笑った。


「ここにね、玉座があるんだ」


 立ったままの二人を気に留める事もなく素通りし、シエルは中央にあった、高い山を作っている白い布を取る。


 布の下から現れたのは、紫色の液体付着した赤い玉座だった。


「ここが彼の……先代王の墓場。彼は衰えた古い妖魔でさ。僕が頭を叩き潰したら、そのまま再生せずに死んだんだよ」


シエルはごく当たり前のようにその赤い玉座に座る。その仕草は正に王その物だ。


「知っているかい? 妖魔は死ぬと、生きていた頃の証拠が全て夢か幻のように消えてしまうんだ。なのにこの玉座にはまだ彼の血が付着しているんだよ? ふふっ……何でだろうね?」


 シエルは怪しく笑いながらパチン、と指を鳴らす。


 その直後、開きっぱなしだった筈の扉が勢い良く独りでに閉じてしまった。


「と、扉が勝手に……」

「ねぇ、知ってる? 僕に傷つけた事がある存在は、先代王と君達だけなんだよ」

「……なーにが冷めただ、さっきよりも質が悪いな。逃げるぞ、涼太」

「うん!」


 シエルの言葉を無視し、二人は慌てて扉を開けようとしたが扉は何かに押さえつけられたかのように開こうとしない。


「……だからね、君達を全力で潰してあげる」


 玉座の上から傲慢にそう宣言するシエルの声は、氷のように冷たい。いつ襲って来たとしてもおかしくない雰囲気を持っており、涼太の脳が警鐘を鳴らす。


 迷いは、許されなかった。


「……レーゲン隠れてて。僕、シエルさんと戦ってみるよ」

「隠れててって、お前勝機あるのか!?」


 勿論、勝機など有るわけが無かった。だが、このまま無抵抗に逃げたとしてもこの狭い部屋の中では確実にやられてしまうだろうと涼太は感じていた。


「わからない。でも、やらなきゃ殺られる。」


 殺られる前に、殺るつもりで戦う。それはこの旅からから学んだことだ。槍を握り、構える。風のように軽い涼太の槍は、久しぶりの戦いを望んでいるようにも思えた。


「ふふっ……そうこなくっちゃ」


 対峙するシエルは、涼太の行為に対し期待するような残酷な笑みを浮かべた。

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