第57話【まだまだ遊び足りない】
扉が開く音で、涼太達は一斉に扉を見つめる。その扉からすごすごと出てきたのは……花の魔女だった。そんな彼女に、スピカは真っ先に話しかける。
「花の魔女、無事か?」
「ええ、何とかシエルも納得してくれたようです……皆さん、こんな事に巻き込んでしまってごめんなさいね」
花の魔女の頭には口しかないのに、申し訳なさそうな表情をしているのだと言うことが何故か涼太にはわかった。
今思えば、彼女は最初から自分達を守ろうと動いてくれた。何故、最初彼女を見たときに感謝より、恐怖が先行してしまったのだろう。そう思えば、自然と謝罪の言葉が出てきた。
「ごめんなさい、魔女さん」
「あらあら……気にしなくても良いんですよ。それに魔女さんなんて……うふふ、久しぶりにそう呼ばれたわ。私の事はローゼと呼んでくださいな」
「……わかったよ、ローゼさん」
素直な涼太の表情に、守るのは当たり前だと言わんばかりに、彼女は微笑む。
「それで、何故私達を招いた?」
「……話があったものですから」
「話か、なら場所はいつもの……地下にある薔薇園だな。そこへ行くとしよう」
薔薇園の位置がわかるのだろう。先へと歩こうとするスピカを、ローゼは慌てて止めた。
「待ってください。皆さんで薔薇園に行くのは止めて下さいな」
「どうした?」
「……私はスピカと二人きりで話をするつもりだったので」
「2人きり……話しにくいことか」
スピカがそう言えば、ローゼは肯定するように頷く。
「……だが、ナナと涼太はどうするつもりだ?」
「メイド達に部屋に案内させますわ。どのみち、今日は泊まって貰うつもりだったので用意はしてあります」
涼太達の関与しない所で、何やら話がポンポンと決まっていく。2人共、真剣な表情で話しているのでどうしたものかと考えていたら、レーゲンに肩を叩かれた。
「どうしたの? レーゲン」
「……あのさ、こんな事聞くのあれかも知れねぇんだけど……」
次にレーゲンが発した言葉は、事件の始まりを告げるものだった。
「シュヴェとシエル、見てねぇか?」
「……えっ……ええっ!? 一緒じゃなかったの?」
涼太の驚いたような声でこちらの異変に気がついたのか、スピカ達も会話を止めてこちらを見た。
「何かあるとやべぇからって事でマントの内側に隠してたんだけどよ……王の間でゴタゴタしてる間に逃げ出したっぽいんだよな」
「逃げたって……そんな事、今までにあったの?」
レーゲンはゆっくり首を横に振る。混乱し、どうしていいのかわからずに居るレーゲンの異常事態に気がついたのか、花の魔女が声をかけてきた。
「……何かあったのですか?」
「それが……」
レーゲンは花の魔女に、何があったのかを説明した。どんな姿をしているのか、大体いつ頃までは居たのか等の情報を必死に話し、やがて話が終われば花の魔女は少しだけ表情を歪ませていた。
「少し、危険かもしれません。その小さなお友達がシエルに捕まってしまう可能性も……」
「マジか!? あの大きさだし、遠くには行けねぇハズだ!早く探しに行かねぇと……!」
「少し待ってください」
花の魔女は先走ろうとするレーゲンを制止すると、その手に持っていた白薔薇をモチーフにした杖に言葉を吹き込めば、直ぐにその場に3つの黒い影が姿を表す。
やがて、その影からあの虹色の蝶の羽を持つメイド達が姿を表した。
「この城に迷い子が居ます。大きさは小さめ、それぞれ赤色と青色の騎士を模した2人の魔生命族です。すぐに探してきてください」
「「「了解しました」」」
全く同じ姿、声、動作で彼女達は主の命を受けると、すぐに姿を消す。その姿を見届けた花の魔女はくるりとこちらを見た。
「魔生命族の子達の事は、一応彼女達に任せました。皆さんはこれから……」
「俺は探しに行く、あいつらさ、何なのかさっぱりわかんねぇけど……それでも大切な家族なんだ」
レーゲンの言葉に、涼太は同意するように頷く。
「僕も、レーゲンと一緒に行くよ」
「スピカちゃん、私達も」
「わかっている。あの2人が迷子なのは気が悪いからな」
「……ありがとな、皆」
そう呟くレーゲンの表情は、どこか照れ臭そうだ。
レーゲンはこの時、初めて仲間の絆という物に感謝した。
仲間と話し合った結果、レーゲンは涼太と共に行動することとなった。集合場所は妖魔達が入れない場所……魔女の薔薇園と定め。皆それぞれの場所を探索する。
そして2人は先程とよく似た風景の、まだ見知らぬ廊下を歩いていた。
「おーい、シュヴェー、シルトー」
「居たら返事してくれー」
必死に呼び掛けるが2人の姿は影も形も無い。何度も呼びながらゆっくりと歩き……やがて、廊下も終わりに差し掛かる。
「……ここには居なかったね」
「次の場所に行こうぜ」
次に探すと決めていた場所へ、涼太達が向かおうとしたその時だった。
「みーつけた」
「……へ?」
王の間で散々聞いた中性的な美声が、廊下に響く。辺りを必死に目視するも、対象物の姿を見つけることは出来ず声は幻聴かと涼太が思ったその時、ふとレーゲンが涼太の腕をつかんだ。その目は確かに何かを見つめ、警戒しているように見える。
「レーゲン」
「……やべぇな。涼太、逃げるぞ」
「えっ?」
訳もわからぬまま、涼太はレーゲンに連れられて廊下を逃げるように走り始めた。




