第56話【我儘な王と異形の魔女】
「お茶……会?」
先程の威圧の効果がようやく解け、3人の思考も回り始める。そんな中の涼太の呟きに、シエルは肯定するようにこくんと頷いた。
「君達と楽しく話をしたくてね」
「私達は花の魔女に呼ばれて来たのだが」
「まぁまぁ、良いじゃないか」
スピカの反論にも、シエルは笑うだけでまるで取り合おうとしない。
「なんつーか……相手の事を一切考えない辺り、マジで王様って感じだな」
「あの妖魔苦手……」
シエルの突然の横暴に流石のレーゲンも微妙な表情を見せ、ナナも怯えたようにさっとレーゲンの後ろに隠れる。
「見ての通りだ。私も、こいつらもお前と呑気に茶会をする気分では無い」
「君達はつれないなぁ。僕も一応王様なんだから誘いは断らないものだと思うけど?」
「いい加減しつこいぞ。魔女に命令出来るなど、思い上がりも程々にしろ」
「そうだね。魔女に手を伸ばすのは怖い……でも」
不意に、シエルが腕を伸ばしたかと思えば涼太の腕を掴む。あまりにも素早い動きにスピカも反応が遅れ、腕を払うことすら出来なかった。
「わっ!」
「人間なら……ほら、捕まえた」
それは、その細い腕のどこにそんな力があるのだろうかと思えるほど恐ろしい力で捕まれており、涼太が必死に腕を動かしたぐらいでは解ける様子もない。
「涼太に触れるな!」
「ふふっ、君は冷静そうに見えるのに、そうやってすぐに熱くなる。本当に面白いね」
睨むスピカを物ともせず、心底楽しそうに、シエルは笑う。涼太はシエルが何をしたいのか全く理解できず、ただ玩具にされているのだと言うことだけを理解し、腕を振りほどこうと必死になる。
スピカとシエルの言い合う声を聞きながら必死に、必死に抵抗したが振りほどける気配はない。もうどうしたらいいのか、涼太にはわからなかった。
「我儘は駄目ですよ、シエル」
そんな喧騒の中、バタン、と入り口の扉が開くと同時に、聞き慣れぬ声が王の間に凛と響く。皆が一斉に音のする方へと目を向ければ、彼女はそこに立っていた。
視界に入ったそれが誰なのかなど、考える余裕は無かった。
「な…なに、あれ……」
「何じゃありゃ……」
彼女の姿を見た涼太とレーゲンが、言葉を失うのも無理はない。そこに居たのは、ウエディングドレスの様な純白で清らかな服を身に纏う、薔薇の様な異形の頭をもつ女性だったからだ。
その白い薔薇で作られた頭には、辛うじて、本来口があるべき場所に人間のような口がついているものの、本来あるはずの耳や目、髪の毛といった物は見受けられず、正しく化け物と呼ぶのに相応しい姿をしている。
「花の魔女、来てくれたのか」
「あ、あの人が……花の魔女?」
スピカの少しだけ嬉しそうな声に、彼女がスピカの話していた花の魔女なのだと涼太は何とか理解した。……いや、魔女は皆人間の姿をしているのだと思っていた為に、本当は理解などしたくなかったのだが。
「スピカ、一旦皆さんを連れて下がってください。私がシエルと話をします」
「……色々と言いたいことはあるが助かる。涼太、部屋を出るぞ」
「え……う、うん」
シエルがふと涼太の腕を話した隙を狙い、スピカは涼太を連れ、入り口へと向かう。少し離れた場所にいたレーゲンとナナも状況を理解したのか、先に王の間の外へと出たようだ。
そんな状況の中、部屋を出る直前に涼太が見たのは
「また説教かい? ローゼ」
「えぇ」
向かい合って話す2人の姿だった。
最後に涼太が王の間を後にし、王の間の扉を閉める。静かで薄暗い廊下には4人以外の影は無く、涼太達は一先ず安心することが出来た。
と言っても、レーゲンと涼太はあの花の魔女と呼ばれた異形の存在の事で頭がいっぱいだったのだが。
「花の魔女に借りが出来たな」
「なぁ、スピカ」
「……何だ」
来やすく話しかけるなと言わんばかりにスピカはレーゲンを睨む……が、レーゲンはそれに屈するような男ではない。
「あの花頭って、本当に魔女か? 使い魔とかじゃなくて……」
「私の知り合いを花頭呼ばわりするのか、貴様。まぁいい。そうだ、と答えておこう」
やはり、あのローゼと呼ばれた異形の存在が花の魔女で間違いないらしい。そんな中、ふと涼太が疑問に思ったのはスピカの様な魔女と、ローゼの様な魔女、どちらが一般的な魔女の姿なのだろうか、という事だった。
「……スピカさん、もしかして魔女って人間の姿とは限らないの?」
「そうだな。殆どの魔女が人間の姿と変わらないのだが……花の魔女のような魔女も存在している」
「そっか、ありがとう」
会話をしながらも、魔女と言うのはやはりよくわからない存在だと涼太は思った。しばらくの間共に過ごしたスピカの事なら多少はわかるのに、そのスピカが属している魔女の事はまだ未知の世界だ。
そんな事を考える中、まるで思考を遮るかのようにゆっくりと扉を開くような、軋む音が聞こえてきた。




