第54話【妖魔の王、その名は】
「お、お邪魔します……」
開いた扉の向こうへと足を踏み入れた4人が、まず最初に目にしたのは、重苦しい城の外見からは想像できないほど、青系統の色にに統一された絢爛豪華な装飾品達だった。壁も、床も、置物も。全てが青に統一され、この城主の趣味をうかがわせるには十分すぎるほどだ。
「青色が好きねぇ……気が合いそうだな」
「相変わらず、この城は趣味が悪いな」
「悪いか? 青色が好きなやつに悪いやつは居ねぇだろー」
冗談っぽく話すレーゲンと、そんなレーゲンを鬱陶しそうに見つめるスピカの会話を耳にしながら、涼太は辺りをぐるりと見渡す。何度みても、青に包まれた城の内装は異質だ。涼太自身、決して青が嫌いと言う訳では無いもののこれは流石にどうなのだろうと考えてしまう。
「真っ青だね、涼太君」
「そうだね……」
「きっと、ここの王様は青が好きなんだね」
楽しそうに話すナナに涼太は頷く。確かに、好意的に捉えるならそうなるだろう。
ふと、視線を動かせば、ここまで涼太達を連れてきたメイドの困惑するような表情が見えた。
「皆様、お話の所申し訳ないのですが……そろそろ主様の元へ御案内しても宜しいでしょうか?」
「……ああ、悪いな。頼む」
「はい、では此方へ」
メイドはそう言うと、複数に別れた通路の1つへと入っていく。4人はその後ろをついて歩いた。
暫く、廊下を歩く。廊下には簡易な装飾しかなく、また窓もないため暗く重々しい雰囲気が漂っている。だが、この廊下には先程のロビーとは違うものがあった。
それは、この青に支配された空間を彩る赤と白の色。日の光が当たらぬこの場所でも美しく咲き誇る薔薇達だ。
最初こそ、この城の中でようやく青以外の色を見ることが出来て内心ほっとしたものの、規則正しく咲き誇る花に、まるで意思のようなものが感じられて不気味に思えてしまう。
「なぁ、スピカ。お前この城の事詳しいんだろ? なんでメイドに案内させてるんだ?」
「無学なお前にいい事を教えてやろう。城の中で外部の者が勝手に城中を歩き回れば、それは敵対行為と見なされる。花の魔女と知り合いの魔女だから許されているだけだ」
「へー……めんどくせぇなそりゃ」
そんな会話を耳にしながら、ふと涼太がナナの方を見れば、ナナは薔薇に興味を示し、匂いを嗅いだり、触ろうとしたりしていた。
危ないよ、そうナナに告げようとしたその時。トントンと、慌ただしい足音が廊下の向こうから聞こえてきた。音に警戒し、じっと見つめれば曲がり角から別のメイドが姿を表した……が、そのメイドの姿に、涼太は驚く事となるだろう。
向こうから現れたメイドと、自分達をここまで案内したメイド。2人の姿がまるで双子、いやコピーのように完全に同じだったのである。
「あ!居た!ちょっと……話が……」
同じ姿のメイドは、やはり同じ色の声を上げてこちらへと慌ただしく近づいてくる。それを、こちら側のメイドは驚いたように見つめ……やがて、2人は小声で話を始めた。
「どうしたの? 職務中よ? ……へ!? それは……そんな……」
小声から、急に叫び声を上げたメイドの表情がみるみる恐怖の色に塗り変わっていく。
「……えぇ……だから……」
「……わかった、私が責任をもって届けるわ」
「お願いね」
何やら不穏な言葉を交わし、向こうからやって来たメイドはそそくさと姿を消す。そして、ここまで自分達を案内したメイドはくるりとこちらを見た。
その目は、表情は、恐怖のあまり怯えているようだ。
「皆様……国王様が、皆様の事をお呼びです」
それだけ告げると、メイドは怯えた様子を隠す事も無く、目を伏せながら歩き始めるので涼太達も後を追った。
「……国王、か。妖魔の王に会うのは私も初めてだな」
メイドの案内で、先程と代わり映えのしない廊下を歩いていると、ふとスピカがそう呟いた。
「へ、会ったこと無かったの?」
「あぁ、お互いに興味がなかった……とでも言おうか。彼方が会いたがらないのに、此方から会いに行く必要はない」
キッパリとそう告げるスピカの表情は、全く緊張していないように見える。一方の涼太は、やはり王様と会うのだと自覚し、実感こそ湧かないものの少しだけ緊張していた。
ちらり、とレーゲンの方を見たがレーゲンも対して緊張して居ないのか、肩に乗ったシュヴェやシルトと何か話をしている。
ナナも呑気なもので王に会えるのが余程嬉しいのか、尻尾をパタパタと振っている。どうやら、緊張しているのは自分だけのようだと涼太は自覚する。
「涼太君、妖魔の王様ともお友だちになれるかな?」
「友達に、なれるのかな……?なれるといいね」
「うん!」
ナナの夢のような話に、涼太の心は少しだけ軽くなった。妖魔と言えどエスプリのように人間好きの可能性もある。そんな事をふと思い、ナナに話しかけようとしたその時、メイドに制止されてしまった。
「王の機嫌を損ねぬ為に、お静かにお願いします」
そう言う彼女の声は、とても必死そうで……確かに震えていた。ただならぬ雰囲気に4人の言葉もピタリと止まる。
4人が静かになったのを確認したメイドはそのまま早歩きで青の廊下を進み……やがて、青く大きな扉の前へとたどり着いたが、そこからメイドの対応が一変した。
「すみません……私が案内出来るのは此処までで御座います……私達はその扉に触れることすら出来ぬ身……では」
メイドはそう言うと走るようにしてその場から去ってしまい、4人はぽつん、と扉の前に取り残されてしまったのだ。
「何だ……? もしかして国王ってヤバい奴って事か?」
「わからん、だが……私にすら怯えなかった使い魔が怯えるとなると、何かあるのかも知れないな」
レーゲンとスピカの話を聞きつつ、涼太は扉に触れた。この先に妖魔の王が居る……少しだけ落ち着く必要があると思い扉に触れただけだったのだが、涼太なその扉に触れた瞬間から変化は始まってしまった。
ギィ、と誰も押していないのに自然と開く扉。そして、それと同時にかかる一つの声。
「やぁ、待っていたよ」
そう言い放ち玉座に座るは、とても美しく、少年とも少女とも取れる姿をした一人の妖魔。
「僕の名前はシエル、一応この国の王さ。……さぁ、中へ入って……君達の名前を教えてよ」
妖魔の王……シエルは怪しくも美しい微笑みを浮かべながらそう言った。




