第52話【魔女の誘い】
不思議な風貌のメイドの登場により、妖魔達の間には動揺の色が広がっていく。それぞれを相手するように対峙していた妖魔達は、皆その場を離れ、彼女の前に対峙するように集合する。
それを停戦の合図だと認めたメイドは、ふわりと微笑みすっと、妖魔達の方を見た。
「城下町に住まう愛しの妖魔の皆さん。この方々はご主人様が招いた大切なお客様です。手出しするのであれば例え皆さんであったとしても……容赦致しません 」
声のトーンはふわりとした明るい音なのに、言葉で武装した今のそれは、氷の様に鋭く尖り、冷たい。落とした槍を広いながらその光景をみた涼太は、背中に何か冷たいものが流れる感覚を感じた。
一方の妖魔達は何やら相談をし、やがて最初に襲ってきた妖魔が何やらメイドと話始めた。その表情は先程の獣のような表情では無く、理性がある人間の表情だ。
メイドと小声で何言か会話をした後、妖魔達はこくんと頷き、そのまま次々と霧の中へと消えていく。スピカと戦っていた妖魔は、先程の戦いに決着がつかないことに納得がいかないのか何やら喚いていたが、しぶしぶ霧の中へと消えた。
「……ふう、どうにか納得していただけたようです。改めまして、お久しぶりです涼太様。ナナ様も、星の魔女様も、御元気そうでなによりでございます」
「えっと……」
メイドはその場で一礼してふわりと微笑んだが、涼太には過去に彼女に会った記憶がない。それはナナも同じらしく、不思議そうに首をかしげている。
その様子を見たメイドは口に手を当て、少々驚いたような表情を見せた。
「まさか……お忘れになられたのですか? 土神の森でお会いしたでは御座いませんか」
「土神の……森で?」
土神の森、その言葉を頭に何度も響かせる。なにか見落として居ることはないかと、おぼろげな記憶のページを何度も捲り……やがて、ある事項が頭の中によぎった。それは、ナナと2人で遊んでいた時に見かけた、あの虹色の羽を持つ蝶の事だ。
驚いたように彼女の羽をみれば、その模様は間違いなくあの時見た蝶の模様や特徴と一致する。
「……まさか!あの時の虹色の蝶!?」
「まぁ!やはり覚えていて下さったのですね!」
涼太の答えに、メイドはきらきりと目を輝かせながら涼太の手を取ろうとし……スピカに腕を捕まれて阻止された。
「その話は後だ。用件を言え」
話好きなメイドの長い話に苛立ちを覚えたのか、スピカがギラリとメイドを睨み付ければ、彼女はあわあわと慌てながらもしっかり答える。
「は、はい!私が仕える愛しの主にて魅惑の妖花、花の魔女様から、皆さんを妖魔城にお呼びするようにとの命を受けて参りました!」
「はぁ……やはりか、どうせこの霧も花の魔女の物なのだろう?」
「はい!」
スピカの呆れた様な声と、ため息が聞こえるが涼太達にはスピカが何の話をしているのかがよくわからない。
「なぁ、あのメイドさんも妖魔なのか?何か怪しいよなぁ……」
「妖魔……どうなんだろう」
メイドに対し、レーゲンは警戒しているようだ。確かに怪しいか怪しくないかと聞かれれば……助けてくれた事は嬉しいが、正直怪しいと言わざる終えないだろう。
やがて、メイドとスピカは話を終えたらしく、こちらを手招きしていた。スピカは3人が自身の近くに寄るのを確認した後、話始めた。
「あのメイドは知り合いの魔女の使い魔だ。どうやらこのブルイヤールも、その魔女が偶然ここを通りかかった私達を気まぐれに招くために撒いたもの……らしい。実際は、私達がここを通る事を計算した上だろうな」
「え、でもブルイヤールは妖魔の魔法で……」
涼太の疑問も想定内だったのか、スピカは表情ひとつ変えずにすぐに答える。
「花の魔女は元妖魔だ。魔女になる上で必要になるのは魔法を操る才能のみ、元の種族は関係ない……ともかく、この魔法が彼女のものなら破る手だては無い……ここは大人しく従うべきだろう」
「……本当に大丈夫なんだよな?」
「花の魔女がこちらに喧嘩を売るならわざわざ使い魔なぞ寄越さず、出向いているだろう」
レーゲンの疑問も切り捨て、スピカはすっとメイドの方を見つめる。それは準備が整ったという合図だ。
「そろそろ、道案内をしても宜しいでしょうか?」
「ああ、待たせてすまなかったな」
「わかりました。では、くれぐれもはぐれませんようにお願いします」
メイドはそう言うと、深い霧の中を迷わずに歩き出す。その後ろをスピカが、そしてその後ろを残りの3人がつき、歩き始めた。
深い霧の中、5人の足音だけが静かに響く。先程と景色はほぼ変わらないはずなのだが、何故か涼太にはきちんと前に進めているという謎の確信があった。
それは、魔女の使い魔だと言うメイドの彼女を信用しているから、という訳でもない。ただ、本当に何となくでしか無く、涼太自身も不思議に思うほどだ。
「ねぇ、涼太君」
「ナナ、どうしたの?」
「妖魔のお城ってどんな所なのかな」
「……どんなところだろう?」
正直な所、涼太は妖魔が1つの国を作るような存在だとは思っていなかった。エスプリといい、襲ってきた妖魔といい、妖魔は群れを好まない様に思えたのだ。
そんな事を考えている内に、辺りの景色が森から、重々しい雰囲気の町にへと、すっかり変わってきていることに涼太は気がついた。それは涼太だけでなく、他のメンバーも同じ様に感じたのか辺りを見渡している。
「ようこそ、皆様。ここが私達の故郷、妖魔の国で御座います」
そう言うメイドは歩きながらこちらを振り返り……にこりと笑った。




