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【消えた作品】  作者: 風花
第4章【狩人という仕事】
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第49話【最後の街巡り③】

 2人が部屋から出てロビーに降りると、待っているはずの残りの2人の姿が何故か見当たらなかった。


「……一体何処に行ったんだ」


 スピカの苛立つような声は恐らく、またナナを勝手に連れ出したレーゲンに向けられているのだろう。


 時が経てば経つほど、スピカの怒りのボルテージが上昇していく。このまま帰ってこないと不味いと涼太が考えた所で、不意に宿屋の扉が開いた。


「到着!」

「とうちゃーく!」


 聞きなれた声に、涼太が扉の方を見れば、そこにはレーゲンとはぁはぁと舌を出して息をするナナが居た。ここまで戻ってくる際に走ってきたのだろうと言う事が一目でわかる。


 スピカとレーゲンの視線がぶつかり……レーゲンは思わず目をそらしたが、スピカの怒りが収まることはない。


「よくもまあ……のこのこと戻って来れたな、貴様」

「いやー……何と言うか……」


 レーゲンが生身だったら冷や汗が出ていたかも知れないと涼太が思う程、それ程スピカの威圧は凄まじいものだ。隣に居るだけな筈の涼太も緊張からじわりと汗ばむ。


 ふと、涼太が回りを見れば宿屋の従業員や、他の客がこちらを驚いたように見つめているのが見えた。レーゲンもその事に気がついているようで、気が気では無いようだ。


(ど、どうにかしないと……)


 そう思うも、この状況を切り抜ける方法が見つからない。どうしようかと考える中、最初に行動したのはナナだった。


「スピカちゃんただいまー!」


 状況がよく分かっていないのか。舌を出しながらも、のんびりとした声でスピカへすり寄っていく……ふと、スピカが怯んだ。


 思いがけない形だったが、チャンスが巡ってきた。涼太はとっさに、レーゲンに話しかける。


「そ、そうだ。レーゲン、どこに行ってたの?」

「あ? あぁ……前行ったアクセサリー屋だ。俺の弟って結構ファンシーなの好きでさ」

「私が選んだの!」


 そう言い、少し無理をしながらも得意気にレーゲンは笑い、スピカにすり寄るナナも得意気な様子を見せている。


 キラキラと輝くナナの目を見つめれば……スピカも怒る気力を失ってしまったのか、はぁ、とため息を一つついた。


「……もういい、次からは慎重に行動しろ。……行くぞ」

「はーい」


 スピカはそのままレーゲンの横を通って外へと出ていき、ナナはその後をついていく。元凶が居なくなった事により、宿屋の中は徐々に活気を取り戻していった。


 人々がざわめく中、立ち尽くすレーゲンは、同じく立ち尽くしていた涼太に話しかけてきた。


「わりいな、涼太。すぐそこだったから、スピカがここに戻る前に戻る算段だったんだけどよ」

「ううん、気にしないで」


 申し訳なさそうに頭を掻くレーゲンに、涼太はフォローを入れる。


「……ありがとな。よし!スピカにまた怒られる前に行こうぜ」


 先に行ってしまったスピカを追いかけて、レーゲンと涼太は駆け出した。






 無事にスピカ達と合流し、4人で最後に訪れたのは、涼太の槍を預けた鍛冶屋だった。鉄の香りが近くに立っただけでも漂ってくる。人間の鼻では僅にしか感じられないその臭いが余程不快なのか、ナナは鍛冶屋に対して低く唸っていた。


「ナナ、嫌なら俺と一緒に外で待ってるか?」

「……」

「おっと……今度はちゃんと待ってるから安心しろよ、な?」


 スピカの冷たい目線が、レーゲンを刺し、とんでもないと言わんばかりにレーゲンは慌てる。その表情と仕草が滑稽だったのか、スピカは鼻で笑った。


「二度目は無いからな。行くぞ、涼太」

「う……うん」


 ちらりと横目でレーゲンを見れば、懲りていないのか、スピカが見ていないことを良いことに、レーゲンはナナと共にキョロキョロしている。


(次、スピカさんが怒ったらどうなるんだろう……)


 そんな事が起こらないように祈りながら、涼太はスピカの後ろについて鍛冶屋に入った。






 鍛冶屋の中は、一言で言えば熱気に包まれていた。勿論それは鍛冶の熱気だけでなく、この鍛冶屋の中いる人の熱気も含まれている。


「人が多いな、しばらく待つとしよう」

「そうだね……」


 スピカと共に、店の端の方へと移動する。ふと、壁の方に目線を動かせば、そこには人間が持つとは思えないような大きな武器が飾られており、涼太をただただ驚かせる。


「涼太」


 剣、槌、杖、槍……飾られた様々な武器に目を通していると、ふと、スピカの声がそれを遮った。


「どうしたの? スピカさん」

「……話がある」


 その声はあまり通らず、小さい。しっかり耳を済ませないと鍛冶の音や人の声に掻き消されてしまいそうだ。


「話?」

「ナナの事だ」


 ナナの事……それで涼太が思い付いたのは、角との戦いの最中、獣のように豹変したナナの事だった。


「それって、あの時の?」


 涼太の言葉にスピカは頷き、話を続ける。


「涼太、ナナは……何だと思う?」

「何って……ナナは女神で、僕ら仲間だよ」


 スピカの質問の意図が分からずそう答えれば、スピカは「ああ、そうだな」と呟いた。


「涼太の言うことは正しい。ナナは大切な仲間で……そして女神だ……だが、ナナはグランバースに存在する他の女神とは違う。ナナは自然神と呼ばれるグランバース創造の時代より信仰されてきた存在だ」

「自然神?」


 どこかで聞いたことが有るかもしれないが、聞きなれない言葉だ。聞き返して首をかしげると、スピカはゆっくりと説明し始めた。


「自然神は人間の自然に対する感謝と恐れの思いから生まれた。自然は人々に恵みをもたらし……時に、荒々しいその本性を現す。ナナも自然と同じだ。慈悲深く優しい気性も、獣のように牙を剥く姿も、全て等しくナナだ」


 苦しげにそう言うスピカの姿を見て、何となくだが心がぎゅっと痛くなるのを涼太は感じた。何か気の利いた事を言わねば、涼太がそう思っている間にもスピカが話を紡いでいく。


「涼太、聞こう。お前はナナの全てを受け止める覚悟があるか?」


 堂々と、試すように涼太に問いかけるそこに先程の弱さは無かった。むしろ、こちらを試すような、そんな上から目線の気配を感じる。


 涼太の答えは決まっていた。言葉を必死に選び、答えを描き出す。


「勿論だよ。確かに最初は驚いたよ、ナナが悪い生き物に取り憑かれたんじゃないかって……元に戻らなかったらどうしようって……でも、全部ナナなんだよね。なら僕に出来ることは受け入れて上げること、それだけだと思う」

「……そうか」


 涼太の答えに対しスピカはたった一言で、だが安心した表情で答える。涼太に彼女の心の中を知る術は無いが、何となく、これでよかったのだろうと思える。


 そんな中、ふと、スピカが後ろを見た。


「……そろそろ人が少なくなるな」

「へ?」


 確かに、辺りを見れば人の数が一目でわかるほど減っていた。何故、と思いつつも、スピカはこれをチャンスと見たのか職人達に話しかけるべく移動し、涼太もその後を追うようについていった。


「すまない、武器を受け取りに来たのだが……ディンゴは何処に?」


 スピカが話しかけたのは、暇そうにしていた職人風の男だった。男はくるりと首を動かし、スピカの方を見る。


「あん? 嬢ちゃん……ディンゴの知り合いか。待ってな、今呼んできてやるよ」

「助かる」


 そう言い、男は奥へと消える。しばらくして、ディンゴが慌てた様子でこちらへと走ってきた。頭にバンダナを巻いていないせいで、鼠色の鈍い色の髪の毛と、人間の耳の代わりに生える、狼のような鋭く毛深い耳が遠くからでもはっきりと見える。


「魔女さん、それにボウズ!待たせたな」

「ディンゴ、久しぶりだな」

「こんにちは、ディンゴさん。……あの、槍はどうなりましたか?」

「お、そうだったな!悪い悪い!ちょっと待っててくれ!」


 どうやら本気で忘れていたらしい。ディンゴは誤魔化すようにガハハと豪快に笑うと、再び奥へと姿を消し……やがて、風変わりな槍を持ってこちらへと走ってきた。


「ほら、ボウズの槍はこれだ」

「ほう、これは……」

「……へ?」


 ディンゴが持ってきた槍、それは胴の部分を一見すれば何の装飾もない簡素な槍なのだが、注目すべきは穂の部分だ。




 本来、鉄色の輝きを放つはずのそれは深緑のような、一点の深い緑色の輝きを放っていたのだ。




「……間違いないの?」

「ああ、こいつは間違いなくボウズが持ってきたあの錆びだらけの槍だ。穂の部分が酷くやられててな、こりゃ、中も錆びてて駄目かと思ったんだが……磨けば磨くほど、この槍はまるで何かに反応するかのように輝きを取り戻していきやがった」

「これが……」


 森で初めて見た時、この槍に不思議な魅力を感じて、つい持ち出してしまったのだがこの輝きを見れば、あの魅力の正体がこれだったのだと気がつく。


「ボウズ!俺はもう25年も鍛冶屋をやってるが……こんな槍は見たことねぇ!恐らく何かボウズと縁がある槍のはずだ、大切にしてやれよ?」

「……はい!」


 ディンゴの言葉に、涼太は力強く頷くと……そのまま、両手でしっかりと槍を受けとる。が、受け取ってすぐ、違和感に気がついた。


(あれ……この槍……)

「じゃ、渡したからな。元気でなボウズ」


 去っていくディンゴの後ろ姿を見つめながら、涼太は槍の重さを確かめるように、腕を上げ下げする。


「……その槍、何かあるのか、涼太」


 涼太はこくんと頷く。この槍は恐らく、涼太が今まで持った事のある槍の中で一番軽い槍だ。それは、あまりの軽さに違和感を覚える程だ。


「軽い……この槍、とても軽いよ」

「やはりか」

「……やはりって、スピカさん、この槍の事知ってるの!?」


 涼太の言葉に、スピカは頷く。


「ああ、その槍は恐らく……今から何百年も昔、まだこの大陸の国が人と龍の2つしか無かった頃に、龍の国の特殊な技術で作られた物だろう。人の国ではこの技術で剣が作られたと聞いている……最も、遠い昔の話で、私も話を聞いた程度。実物は見たことが無い」

「昔の……武器?」


 涼太は槍をかざし、じっと見つめる。新品のようなその輝きは時代を全く感じさせない。


 ディンゴとその師匠の腕が良いのか、それともこの槍が特殊なものなのか、今の涼太にはわからなかった。






 鍛冶屋の外へ出ると、今度はきちんとレーゲンとナナは待って居てくれた。また居なかったらどうしようかと思ったが、どうやら懲りたらしい。


「今戻った」

「おかえりー!」

「おう、おかえり……って、何だその槍……」


 レーゲンの目線は、涼太が持つ物珍しい槍に釘付けになっている。涼太が事情を説明すれば、レーゲンはただ「ふーん」と呟いた。


「スピカも詳しくは知らない槍、ねぇ……そりゃあ随分とミステリアスだな」

「この槍については、また追々調べるつもりだ」


 スピカはそう言い、話を切り上げると、改めて仲間達の顔を見る。


「これで用事は全て終わった。街を出る準備はいいか?」

「はーい!」

「僕は大丈夫だよ」

「おれは……」

「よし、出発するとしよう」

「人の話は最後まで聞けっての……」


 歩き出すスピカの後ろにナナが、涼太が、納得がいかない表情のレーゲンがついていく。


 こうして、涼太達は期待と不安を胸に、マルコシアスへと向かうべく旅立つのであった。

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