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【消えた作品】  作者: 風花
第4章【狩人という仕事】
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第48話【最後の街巡り②】

「さてと……次はどこ行くんだ?」


 裏路地を抜けて、光ある表通りに出たところでレーゲンが嬉々として話しかけてきた。そんなレーゲンを、スピカは奇妙な生き物でも見つめるかのような目で見つめる。


「やけにやる気だな……まあいい。次はリエット達が居る宿屋、最後に鍛冶屋に寄るつもりだ」

「あのー俺の用事は?」

「……最後に寄ってやる、心配するな鬱陶しい」

「ねぇ、レーゲン。レーゲンの用事って何?」


 やたら自分の用事の事を気にするレーゲンを、涼太は不思議に思い、問いかけながら見つめる。真顔のレーゲンと視線がぶつかり合い……やがて、レーゲンはニヤリと笑うと涼太の頭をくしゃりと撫でた。


「なーに、久しぶりに会う弟に土産を買ってやろうと思ってな」

「ん、そっか……って痛い!痛いよレーゲン」

「おっと悪い」


 涼太が髪を引っ張られる痛みを訴えれば、レーゲンは驚いたようにぱっと手を離す。そんな光景をスピカは呆れたように見つめていた。






 その後も様々な話を重ねながら、涼太達はリエット達が居る宿屋へとたどり着いた。ナナのはしゃぐ声と、レーゲンの宿屋に対する感嘆の声が聞こえたような気がしたが、涼太の心はそんな事よりも、別の事でいっぱいだった。


(考えないようにしながらここまで来ちゃったけど……どうしよう)


 そう、涼太は(ホルン)との戦いで、ルルから借りた槍を壊してしまったのだ。実際の所、槍に止めを刺したのはスピカの炎魔法だが、壊れる直接の原因を作ったのは涼太であり、責任大部分は涼太にあると言える。


 宿屋に入って早々、何やら3人が話しているがとても混ざる気分にはなれない。それよりもルルに槍を壊したことをどう説明するのか悶々と考え……


「涼太」


 はっとした表情で前を見れば、スピカが不審そうにこちらを見ている事に気がつく。どうやら涼太は、先ほどから呼ばれていたことに全く気がつかなかったらしい。


「……大丈夫か?」

「う、うん……大丈夫だよ」


 涼太の表情は明らかに固い。スピカは少しだけ悩むような仕草をしたが……やがて涼太の言葉を信じる事にしたのか、そのまま話を続けた。


「……そうか。先程から話をして居たのだが、ナナとあれはロビーに残るらしい。お前は」

「僕は行くよ」


 本当は行きたくないが、涼太はルルに説明する必要がある。怒られることを覚悟し、共に行く決意を固めた。


「……体調が良くないなら無理はするなよ」


 スピカは、先程からの涼太の反応の悪さの原因は体調不良にあると勘違いしたらしく、涼太に優しい言葉をかけると、守るように先を歩き出した。






 ギシッ、ギシッと木の床がゆっくり軋む音が耳に入る度に、緊張のボルテージが上がる。涼太達が止まった宿屋より、少しだけ良い宿と言っても小さい宿屋のため、ほんの少しの移動だけですぐにリエット達が泊まる部屋へとたどり着いてしまう。


 トントン、とスピカのノック音が聞こえる頃には、涼太の心臓も高鳴り、緊張も最高峰に達した。


「リエット、居るか?」


 スピカの声に答えるように、はーいと元気な声が聞こえてくる。やがてガチャリと扉が開けば、そこには生々しく包帯だらけとなったリエットが居た。


「……いらっしゃいっす、姐さん、涼太君」

「また随分とみっともない姿になったな」

「それは、狩人の間では言わない約束っすよ。あ、こんな所で話すのもあれなんで、入って下さいっす」


 リエットに通され、涼太はスピカと共に部屋へと入る。再び荷物だらけとなったその部屋は前に見た時よりもごちゃごちゃとしており、足の踏み場すら無く2人は入り口で立ち尽くすこととなってしまった。


 仕方ないので目線だけを動かせば、リエットと同じく包帯だらけとなったルルがベッドの上でこちらをじっと見つめていた。


 呆然と部屋を見つめる2人に、リエットは後頭部を掻きながら乾いた笑いを見せる。


「あはは……俺もルルもこんな状態っすから……」

「……むー」


 リエットが笑えば、ルルが余程悔しいのか頬を膨らませる。2人で居た時のルルは非常に大人びた印象を受けたが、リエットと一緒に居る時のルルはやはり、自分と同じぐらいの年の子なのだと涼太が感じるほど棘が無い。


 最も、そんな事を思ってる暇は無い。意を決して、涼太はルルに話しかけようと口を開く。


「リエット、話が……」

「ルル、話が……」


 スピカとタイミングが被ってしまった。お互いに顔を見合わせれば、お互いに何とも言えない表情が見え、視界の端リエットは、笑いをこらえるように体を震わせている。


「……涼太、先に話せば良いぞ」

「う、うん」


 息を整え、改めて覚悟を決める。


「あの、ルル。借りてた槍の事なんだけど……実は」

「別にいい」

「……へ?」


 その答えは、拍子抜けするほど意外なもので……ぽかんと、ルルの方を見つめれば、ルルはいつもの無表情で見つめ返す。


「あの槍は拾い物だから、いい」

「……本当?」


 念を押すように聞けば、ルルはこくんと頷く。その仕草を見て、ようやく彼女が本当に怒っていないのだと言うことを涼太は悟った。


「あ、ありがとう!ルル」

「でも」


 涼太の声を遮る様に、ルルの小さな、でも通る声が通る。


「槍は、槍使いにとって大切な相棒。貴方に相棒が出来たら、その子は大切にしてあげて」


 その表情は先程と同じ無表情だが、目には何か熱いものが秘められているような気がして。


 威圧感を感じた涼太は何度か頷く事しか出来ず、それを見たルルはすっと涼太から目をそらした。


「話は終わったか、涼太」


 一連のやり取りを見て、そう判断したのだろう。スピカが話しかけてきた。正直、ルルの態度からではどうなのか涼太には判断がつかない。


「た、多分……? ごめん、スピカさん」

「お前の用事なら構わん」


 首をかしげながらも謝罪する涼太にスピカは優しく返すと、そのまま涼太から目線を外し、こんどはリエットの方を見た。


「リエット話がある」

「急に改まって……どうしたっすか、姐さん」


 スピカは鞄から、何か麻袋のような物を取り出すとそれを机に置いた。ドン、と鈍く重い音が部屋に響く。


「ここに銀貨が50枚入っている。受け取って欲しい」

「……そ、それって……俺達(ホルン)に傷一つつけられなかったのに、そんなの受け取れないっすよ」

「そこで話がある。……これをやるから、角を倒したのはお前達だと言う事にしてくれないか?」


 スピカがそう言えば、しんと部屋が静まり返った。皆、スピカが何の話をしているのかがわからず、その場で固まってしまったのだ。


 そんな中、口を開いたのはリエットだった。


「き、急にどうしたんすか……姐さん」


 スピカの表情の変化や、突飛な発言に、流石に状況を飲み込め無いのか、リエットも、思わず真顔になってしまう。


「理由を話すことは出来ない」

「……姐さん? まさか追われてるんすか?」

「……まだ、わからんが……ほぼそうだろうと予想している」


 慎重に、言葉と、リエットに与える情報を選びながらそう言うスピカの表情は、固く、暗い。自分の旅に付き合わせているせいで、スピカ達も危険で不自由な目に会っているのだと思うと涼太の心もぎゅっと痛くなってきて……思わず、胸に手を当てる。


 そんな2人を見たからだろうか。リエットは少しだけ困った様に、でも、全てを悟ったようにただ一言「わかったっす」と答えた。


「……引き受けてくれるのか、嘘かもしれんと言うのに」

「俺は姐さんを、涼太君を……命の恩人を信じる事にしたっす。誰にも話さないんで安心して旅を続けてほしいっすよ」


 リエットは、答えを口にすると同時に明るい笑顔を見せる。まるで太陽の様な笑顔だと涼太はふと思った。


「……すまないな、用事はそれだけだ」

「いいっすよ。これぐらいお安い御用っす」


 心からその言葉通りに思っているのかは不明だが、涼太は何故か、リエットのこの言葉は安心できる気がした。それはスピカも同じなのか、ふと、優しく笑う。


「涼太、行くぞ」

「うん」


 スピカが部屋を出ようとするので、涼太も後に続く中、ふと、リエットの声が部屋に響いた。


「またいつか会おうっす!約束っすよ!」

(……うん、またいつか)


 リエットの言葉を背に、涼太達は部屋を後にした。

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