第47話【最後の街巡り①】
トラルの街での用事を済ませる為に、まずは情報屋へと足を運んだ涼太達は、その建物の中にいる見たこともないような人の群れの熱気に圧倒されてしまう。
「……今日はまた多いな、昨日まではほぼ居なかったのだが」
そう呟くスピカに合わせ、涼太も辺りを見渡す。集まった人間の中には武器を背負った恐ろしげな風貌の人間も居て……涼太は思わず、隣にいたレーゲンに隠れるようにして歩く。何を思ったのか、レーゲンはそっと涼太の頭を撫でてくれた。
「こっちだ」
スピカに先導され、受付カウンターらしき場所にたどり着く。それと同時に、何やら作業をして居た受付嬢らしき女性はこちらに気がつき、作業を中断して営業スマイルを見せた。
「おはようございます。何かお探しですか?」
「昨日の角討伐の件で話がある」
角の討伐、その単語をしっかりと聞き取った受付嬢の表情は、はっとした表情に変わり……やがて満面の笑みを浮かべる。
「あの……お名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「ルルだ」
スピカは何故かルルの名前を答えた。
何故スピカがルルの名前を騙ったのかがわからず、涼太は思わず表情を疑問で歪ませたが、それとは反対に受付嬢は笑顔のまま、納得したように頷いた。
「ありがとうございます、昨日角の角を届けて下さったご本人様で間違いありませんね。はい、賞金は用意してありますよ。受け取り方はエウペル銀貨50枚ずつの袋2つで宜しかったでしょうか?」
「それでいい。わざわざすまなかったな」
「いえいえ、これも私達の仕事ですので。討伐、お疲れ様でした」
「ああ」
椅子から立ち上がり、深々と、それこそまるで見本のように美しい礼をする受付嬢を背にし、4人はそのまま情報屋を後にした。
「はぁ……」
息が詰まるような情報屋を出て、しばらく歩けばようやく少し安心できたのか、ため息をついてしまう。
「酷ぇ顔してるけど……大丈夫か?」
レーゲンに心配されるほど酷い表情をしているのだろうかと、ふと思ってしまう。元気を出さねばと少し無理気味に涼太は笑顔を作った。
「うん、もう大丈夫だよ」
「……すまなかったな。本当は昨日情報屋での用事を済ませたかったのだが、受付の人間が丁度不在でな」
そんなやり取りを横目で見ていたスピカが、何処か申し訳なさそうに、そう言うので涼太はそうではないのだと伝えるために慌ててフォローを入れる。
「ぼ、僕はもう大丈夫だよ。それよりもスピカさん、さっきのやり取りってどういう意味があるの?というか情報屋って……」
「気になるのか?」
スピカの言葉にこくんと頷けば、スピカは話すか少し悩み……やがて答えを口にし出した。
「そうだな……まず、情報屋はグランバース中の情報を扱う大きな組織だ。エウペル王国各地に支部があり、このトラルにあるのも支部の一つでしかない……ちなみに、他の国にあるかは知らん」
「あー、確かにチュラではあんなの見たことねぇかもなぁ」
スピカの言葉に対し、レーゲンが自由に呟く。一瞬、スピカの言葉が止まったが、スピカはすぐに続きを話始めた。
「……そして、情報屋の仕事として情報集めの他に、狩人に仕事を紹介する仕事というものもある。どのような獣害があり、どのような生物の討伐依頼があるのか、報酬はいくらか、場所はどこか……などの情報を集めて狩人と仕事を引き合わせるのだ」
「狩人……じゃあ角角も」
「あぁ、角もまた、討伐依頼が上がっていたというわけだ」
確かに、あれだけ人間を殺せば討伐依頼も上がってしまうだろうと思えば、ふと、昨日の光景をそのまま思い出してしまう。
あの時は涼太自身も、戦いの場の熱気で興奮しきっていたのか、あまりショックを受けなかったが、今思い出すとおぞましさで頭がクラクラしそうになる。
「報酬も情報屋で受けとることになっている……つまり、個人情報が情報屋に渡ることになる。偽名を名乗るのも足取りを掴ませたく無いときには必要な手口だ」
「……大変なんだね」
「まあな。大変だがその分、情報屋の腕を頼る者も多い。どうにか上手いこと付き合えば、いい道具になるだろう」
スピカはそう言うと、情報屋についてはそれ以上話さなかった。何とも言えない表情をしている辺り、情報屋と何か過去にあったのだろうかと思ったが、何度見つめても、問いかけても、それ以上知ることは出来なかった。
レーゲンやナナと他愛もない話をしながら、涼太達は入り組んだ裏路地の辺りを通り……その時ふと、涼太は森で彼と交わした約束を思い出し、彼の名前を思わず叫んだ。
「……あ!ログ!」
「ログ?」
叫び声を聞いた仲間達は何事かと、不審そうに涼太の方を見る。
不本意に視線を集めてしまい、羞恥心を覚えた涼太は、顔を少しだけ下に向けた。
「あ……えっと、ガラクタ屋の子の事何だけど……僕、ちょっとガラクタ屋に用事があるんだ」
「用事か、私は構わんぞ」
スピカから許可を貰い、皆で裏路地の方へと移動する。最初は静かで不気味だと感じた裏路地も、今では対して気にならず、すっとガラクタ屋の前まで足を運ぶことができた。
トントン、と扉をノックし、入る。静かな裏路地にちりんと鈴の、この場になんとも不釣り合いな侵入を知らせる音が響けば、店の奥からバタバタと慌てる音と共にログが姿を表した。
「来たよ、ログ」
「む、お主……生きておったんじゃな!運のいい奴じゃ」
そう言うログの言葉は棘があるものの、表情はふわりと柔らかで……言葉の音も、どこか安心している物のようにも聞こえてくる。
「……所で、何で来たんじゃ?」
「ログが呼んだんだよ?」
すっとぼけたように、わざとらしく。おどけたようにログはそう言ったが残念な事に、涼太の中にはノリに乗るという言葉が存在しない。
ぼーっとしたごく普通の反応を返せば、ログの表情はすっと、すり替わるようにつまらなさそうな物に変わる。
「つまらん反応じゃな、そっちの道化の男の方がいい反応をしそうじゃ」
「道化じゃねーっての、こう見えても人形遣いで」
「まあよい、ほらこれを持っていけ」
「おい、話聞けよ」
レーゲンの発言を遮り、ログが差し出したのは1枚の綺麗なエウペル銀貨だった。
何か変なものを渡されるのでは、と少しだけ警戒していたのだが、まさかお金を渡してくるとは思わず。涼太はその場で固まった。
「どうした、要らんのか?」
「そ、そうじゃなくて!……本当にいいの?これ……」
「人を助ければ対価を得る。ごく当たり前じゃろ。本来であればあの大きさのコルヌは銀貨1枚の価値もないが……助けてくれたお礼じゃ」
どこか気恥ずかしそうに言いながら、ログはエウペル銀貨を、半ば無理矢理押し付けるように涼太の手の中にねじ込んだ。
「……あ、ありがとう」
「用はこれで全部じゃ、では、よき生活を」
そう言い、ログはすぐに涼太に背を向けてしまう。
「よ、よき生活を……?」
意味もわからず、涼太がオウムの様に言葉を返せば面白かったのかログは少しだけ笑う姿が見える。
涼太は少しだけむっとなりながらも、もうガラクタ屋に特に用事もないので、4人はそのままガラクタ屋を後にした。




