第46話【出発の朝】
涼太が再び目を覚ませば、眩しい朝の光が部屋を包み、照らしていた。
余程疲れていたのか、結局1日の殆どを寝て過ごしてしまった涼太はもぞもぞとベッドから体を起こす。
寝すぎでむしろ働かない頭を動かして、そのまま辺りを見渡せばナナは既に起きており、当たり前だが、スピカも既に戻ってきて何やら作業をして居る。レーゲンは相変わらずだ。
「あ、おはよう!涼太君!」
真っ先にこちらに気がついたナナが、尻尾を降りながら涼太に飛びかかってくる。
血にまみれながら敵に食らいつくナナの姿がフラッシュバックして、思わず身を強ばらせたが、涼太の予想に反して、ナナはぴょんと涼太の足の上に乗って来ただけだった。
「お、おはよう。ナナ」
「どうしたの? 涼太君」
涼太のその微妙な表現から、ナナは不思議そうに涼太を見つめ返す。その時、ふと涼太の頭の中にある予想がよぎった。
「……なにも覚えてないの?」
「覚えてないって、何が?」
「昨日の事だよ」
「昨日?」
ナナは悩むように上の方を見る仕草をする。余程悩んでいるのか尻尾の動きもゆっくりになり、やがてピタリと伏して止まる。
やがてナナはとんでもない事を言い放った。
「うーん……わかんないや!涼太君と一緒に森に行って……気がついたらここに居たの」
平然と、ごく普通の態度で、異常事態を告げた彼女の尾は遮る思考が無くなった為か、再び忙しなく動き出す。
「何も、覚えてないの?」
「うん!涼太君は何か知ってる?」
「え、えっと……」
そう聞かれれば、涼太はどう答えるか悩んでしまう。素直に答えて彼女は傷つかないだろうか。だが、誤魔化したとして納得するだろうか。
あわあわと慌て、何か言葉を紡ごうとしても言葉が出てこない。そんな涼太の様子にナナが不審そうに首をかしげ始めた頃、ようやく助け船が現れた。
「先程から騒がしいと思ったら……起きていたのか、涼太」
「よっ、涼太。おはよーさん」
「「オハヨー」」
「スピカさん、レーゲン」
涼太が困ったようにスピカ達の方を見つめれば、そこにはスピカと、シュヴェ達をそれぞれ肩に乗せたレーゲンが居た。
涼太の表情から、スピカは全てを察したのかこくんと頷き、ナナに目線を会わせるようにしゃがむ。
「ナナ、涼太も起きたことだ。朝食にしよう」
「朝ごはん食べる!」
食べ物に釣られたのか、ナナは嬉しそうに尻尾をばたつかせ、涼太の膝から降りるとテーブルの方へと小走りで駆けていく。
「ありがとう。スピカさん」
「……涼太、後でナナについて話がある」
恐らく、あの事だろう。予想した涼太の緊張感は一気に張りつめていく。
「とりあえず朝食だ、テーブルの方にある」
涼太はこくんと頷き、ベッドからのそのそと抜け出すとナナの後を追う。
そんな、一連のやり取りをじっと見つめていたレーゲンは、そおっと、あくまでも機嫌を損ねないようにスピカに話しかける。
「あのー……ナナの話って俺も聞いていい奴?」
「お前はダメだ。私が話す間、ナナの相手をしていろ」
「ですよねー」
スピカはピシャリとレーゲンの言葉を切り捨てると、そのままテーブルの方へ行ってしまう。
「……俺って、信用されてるのか、信用されてないのか、どっちなのかねぇ……」
「オニイサン、ゲンキダシテ」
「ダイジョウブダヨ、オニイサン」
レーゲンの虚しい呟きは、左右の肩に座るシュヴェとシルトにしか届かず、そのまま空に消えた。
何時もの粗末な食事を終え、荷物も粗方持つ。何だかんだと3日も滞在したのだと思えば少しだけ愛着が沸いてしまい、涼太は粗末な部屋をくるりと見渡す。
そんな事をしていれば、ごほんと、スピカが咳払いをする音が聞こえる。3人がスピカに注目した所でスピカは話を始めた。
「街を出る前にいくつか行くべき場所がある……まずは情報屋に寄り、その後は……」
「あー、実は俺もちょっと寄りたい場所があって……」
「……」
「そんな顔で睨むなって!俺の用事も大切な用なんだよ」
茶々を入れてきたレーゲンに対し、スピカは氷の様な冷たい目を向ける。このような表情をするのはレーゲンを相手にするときだけだなと思いつつ、涼太はこくんと頷き、口を開く。
「僕も行かなきゃいけない場所がいくつかあるから、皆の用事を一つずつこなしていこうよ」
「その分出発が遅れるが、良いのか?」
スピカの確認するような言葉に、涼太はこくんと頷く。
「大切な用事みたいだから」
「……涼太は優しいな。世界は過酷だがその心は、絶対に忘れてはいけないものだな」
スピカは呆れたように……でも、どこか慈しむようにそう言うと、真っ先に部屋の扉を開き、そのまま部屋を後にするので、皆もそれに続く。
涼太はくるりと一度だけ後ろを振り向き……その後、仲間達の後を追った。




