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【消えた作品】  作者: 風花
第4章【狩人という仕事】
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第45話【戦いの爪痕】

 涼太が目を覚まして、まず一番最初に視界に入ったのは一面に広がる木の天井と、外から射す夕焼けの暖かい光だった。先程の戦いは夢だったのだろうかと思いながらゆっくりと体を起こそうとしたが、どうも力が入らない。


 何故、と思いつつそっと自身の左頬に触れればじんと傷みが広がり、結果として先程の戦いが夢ではなかった事を思い知らされることとなった。


「お、目を覚ましたか」


 起きた時にかなり物音を立てたからだろうか。涼太が起きたことに気がついたのか、レーゲンがひょいと覗き込んできた。


 その表現は、どこか安心したような顔でレーゲンにも心配をかけてしまったことを涼太は心の中で謝りつつも、ふと周囲に2人の姿がないことに気がついた。


「レーゲン、ナナは? スピカさんは?」

「ナナはぐっすり寝てるぜ。スピカはお前らを背負って帰ってきた後、すぐにどっか行っちまった」

「そっか……」


 とりあえず、無事に帰ってこれたのだろう。そう思うと無事に2人を守ることが出来たと言う安心感が涼太の心を満たした。


「スピカの奴さ、柄にもなく涼太の事誉めてたぜ。まぁ

俺はお前が何をしてたのか見てなかったけど……よく頑張ったな」

「……ありがとう」


 ニカッと、太陽が光射す様な明るい笑みで笑うレーゲンを見て何故かはわからないが、心が暖かくなるのを涼太は感じた。


「ねえ、レーゲン」

「どうした、涼太」

「ナナの近くに行ってもいいかな?」

「おう、いいぜ。手貸すか?」

「平気」


 少しだけ痛む体を動かし、立ち上がる。酷く疲れているが歩けないわけでもなく……それよりも気になったのはナナの様子だった。


 あれだけ激しく木に打ち付けられて、目を覚まさないなんて心配するなと言う方が無理がある。


 ナナが眠るベッドの隣に立って目を向ければ、ナナはすぅすぅと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っていた。


「良かった……」


 思わずそう呟かずには居られない程、今のナナは落ち着いている。


 ナナが狂ったように豹変した時、もし、このまま戻らなかったらどうしようとあれこれ考えていたが、やはり杞憂だったようだ。


 ナナの頭を撫でようと、そっと手を伸ばした……その時だった。


「クルルル……」

「!」


 恐らく、ただの寝言か何かなのだろう。だがその声はあの時狂ったように吼えるナナの姿と重なり……涼太は恐怖を感じ、思わず手を引っ込めてしまう。


(ど、どうして……)


 あんなに愛らしいのに、怖いと感じてしまうのは何故だろう、()を感じてしまうのは何故だろう。そう自問する内に差し出そうとした手が震えていることに気がつき、その場に崩れるように座り込んだ。


「おい!大丈夫か?」


 異変に気がついたのかレーゲンがそっと、涼太の隣へとやってきていたようだ。先程は嬉しいと感じた優しい声が、今は逆に涼太の心を削り取っていく。


「……レーゲン……手が……」

「……どっか打ったのか?」


 レーゲンはしゃがんで涼太に問いかけるが、涼太はただただ、振り払うように首を横に振る。レーゲンも涼太のその異常さに気がついたのか、立ち上がるとそっと涼太に手を差し伸べた。


「立てるか?」

「……」


 涼太はそっとレーゲンの手を取り立ち上がる。レーゲンの人間の物ではない、冷たい手が今は心地よい。


 そのままレーゲンに連れられ、自分のベッドに座ったが涼太の気分は落ち込んだままだった。


「んー……よし」


 ふと、レーゲンの声が聞こえたかと思ったらぱっと、涼太の目の前に花が現れた。


「……へ?」


 レーゲンの手から突然現れたそれは、そのまま涼太の目の前でゆらゆらと揺れている。考えが追い付かず、呆然としているとレーゲンと目があった。


「どうだ、驚いたか? ショーを見に来てくれた子ども達に見せてやると結構喜んでくれるんだけど……はい、プレゼント。ちなみにこれ本物じゃなくてチュラで作ってる造花ね」


 レーゲンは悪戯っ子のように無邪気に笑い、そのまま造花をすっと涼太の服の胸ポケットへと入れると、次は銅貨を1枚、マントの内側から取り出す。


「さて、お次はこちら!この何の変哲もない銅貨……実はとんでもない悪戯好きでございます。私の手で握っても、何と3つ数えるだけで手の内側から手の外側へすり抜けてしまうのです。気になる方は銅貨を調べて貰って構いませんよ」


 涼太の初々しい反応を見てレーゲンの中にあるスイッチが入ってしまったのか、先程とがらりと雰囲気を変え、芝居かかった口調ですっと涼太に銅貨を握らせる。手の感触から、確かにこれは本物の銅貨だと確認したところで涼太はレーゲンに銅貨を返した。


「ありがとうございます。……では、この悪戯っ子な銅貨が逃げ出さないよう、()()()()()()()()()()()()()にお願い致します」


 レーゲンはそう言い、開いた左手に銅貨を乗せるとそれを見せつけるようにゆっくりと閉じ、くるりと手の甲を涼太の方に向けるの、その上から右手を重ねた。


 何が起こるのか、期待と疑問で輝く涼太の視線を浴びながら、レーゲンはニヤリと笑う。


「では、今からカウントをしましょう。……1、2、3!」


 3の合図の時に、レーゲンは軽く手を振るう。そのまま右手をどければ……そこには、左手で握っていたはずの銅貨があった。その銅貨を右手で取り、左手の拳を開けば勿論、左手の中に銅貨は無い。


「す、凄い……」

「正に種も仕掛けもない一瞬の変化。これこそが手品の醍醐味でございます」


 レーゲンがその場で優雅にお辞儀をすれば、涼太は思わず拍手を送った。大がかりな仕掛けは一切無く、唐突に始まった手品だったが、近くで見ても仕掛けが全くわからず最後まで楽しめた。その称賛の拍手だ。


 気がついた頃には手の震えも止まっていた。


「レーゲンって手品も出来たんだね。人形遣いって言うより手品師の方がいいんじゃ……」

「劇と劇の合間に来た客に手品見せると喜ぶかと思って頑張って覚えたんだぜ? 人形遣いじゃないって言われるのはさすがに傷つくけどなー」


 何時もの口調で言いながらも、全く傷ついていない様子で笑うレーゲンに、思わずつられて笑う。


「……ようやく笑ってくれたな」


 ふと、レーゲンがそう呟いた事でレーゲンがどうして唐突に手品を見せてくれたのか、涼太はようやく理解した。


「もしかして、笑わせようとしてくれたの?」

「まあな、何か辛そうだったし」


 そう言うと、レーゲンは再び椅子に座った。


「何があったかは全く知らねぇけど……無理に笑えとかは言わねぇから、失敗はすぐに切り替えていけ。ずっと悩んでも答えは出ねぇし、そうしねぇと恐怖に飲まれちまうからな」

「……うん、ありがとう」

「いいって事よ」


 ナナの事も、自分の事も、レーゲンのお陰で少しだけ前向きに見ることが出来る。 肩の荷が降りたことで不意に再び睡魔が襲ってきた。


「眠いなら寝ちまえばいい」

「……うん、そうするよ。おやすみ」

「おやすみ」


 起きたらスピカは戻ってきているだろうか、スピカにたくさん聞きたいことがあるな、何から聞こうか。


 そんな事を考える内に、涼太は自然と再び眠りについた。

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