第44話【vs鹿の長③】
魔法のすさまじい衝撃で爆煙と共に砂埃が舞い上がり、それが角と、角の背に噛みつきに行ったナナの姿を隠す。
ナナがどうなったのか、角はどうなったのか、超能力を解いた涼太と、詠唱を終えたスピカはは息を飲みじっと砂埃が舞うその先を見つめナナの身を案じる……そんな次の瞬間だった。
ヒュンと、何かが砂煙の中から弾き出される様に飛び出し、鈍い音を立てて2人のが立つ位置から見て後方にある木に激突した。
あまりにも素早過ぎる一瞬の出来事に何が起こったのか分からず、2人が砂煙から目線を外して慌てて後ろを確認すればそこには強く体を打ち付けられぐったりしたナナが居た。
「ナナ!」
まさか、と涼太は思った。スピカが大慌てでナナの元に駆け寄る姿を見つつ、そっと後ろを振り返えれば砂煙は既に落ち着き向こう側が見えるようになっていて……
そして、そこに奴は居た。
背中の大怪我は魔法に焼かれて出来たのか
首元の赤い模様は噛みつかれて出来たのか
肉体は血まみれとなっていながらも、先程と変わらぬ悠然とした態度でこちらを見つめるその姿は正に鹿の長……いや、鹿の王と呼んでも差し支えないほどの美しさだ。
「あ……あぁ……」
3人の力を合わせたのに倒しきれなかった。そんな深い絶望を感じた涼太を嘲笑うかの様に、角は余裕そうに毛繕いをしておりそれが終れば角はすっと涼太を見つめた。
次はお前の番だ、と言わんばかりに。
(ど、どうしたら……)
スピカを呼ぶことは簡単だった。涼太のピンチとあれば優しい彼女は必ず助けに来るだろう。しかし、涼太には一つ気がかりな事があった……そう、ナナだ。
木に体を打ち付けられたナナは恐らく大怪我をしている、スピカと涼太2人が前に立てば角は2人の隙をついて間違いなくナナを狙うだろう。
(僕が……やるしかないのか)
槍を少しだけ強く握る度に、不安が心をすり潰す。武器を持てば大人でも子どもでも一人の戦士となり、もう誰も守ってくれないのだ。
それでも涼太は槍にテレキネシスをかけ、構える。幸いにも先程の一撃で角は俊敏さを失っている……今、角を倒せる存在が居るとしたら、それは自分だけだ。
「うおぉぉぉぉ!」
涼太が威勢のいい雄叫びを上げながら角に攻撃を仕掛けば、角も、やはり来たのかと言わんばかりに鼻を鳴らし、名前の由来ともなったその立派で鋭い角で槍の動きに答えを見せる。
ガキン、と槍と角が弾き合う音が響く。本来であれば槍と超能力を持ってしても涼太が圧倒的に力不足な場面だが大怪我を負った角は、もう既に気力も残らないほどに死にかけるほど弱っているのか、ほぼ涼太と同じ動きを見せている。それは涼太も気がついていた。
(これなら……まだ戦える!)
何度も何度も、要領悪くただひたすらに槍を振り下ろし、角に弾かれながらも決定的な一撃を狙う。腕が負荷によって悲鳴を上げ、体は燃えるように熱を帯始め、頭は割れるような痛みを感じたが休むことは許されない。
獣の匂いと、血の匂い。不調と不快感で吐きそうになりながらも涼太の目はまっすぐに角を捕らえ、角の瞳もまた、涼太の姿を捕らえる。正に一進一退の攻防が続くがやがて、この攻防も終わりを迎えることとなる。
先に勝負に動いたのは、角の方だった。
涼太の槍筋から、彼が槍術において素人であることを見抜いていた角は涼太と互角の戦いをしていると見せかけて、カウンターを行う機会を狙っていたのだ。
そして、その機会が訪れてしまう。
角は、涼太の槍を弾くと見せかけてかわし、そしてその鋭い角で涼太の顔を切り裂こうと構えたのだ。突然の出来事に涼太はギリギリでしか回避できず、左頬を角で切り裂かれた。
「っ……!」
傷みで悲鳴を上げそうになるも舌を噛み、言葉を殺す。そのまま涼太はとっさに槍にテレキネシスで負荷をかけると、そのまま角の顔に深々と刺した。
「キュオオオオオオオン!!」
目から飛び散った血と、叫び声と、そして涼太にはもう気力は残されて居なかった。
何とか角と距離をとるも倒れ、少しずつ狭くなる視界の中角の方をみれば顔に槍が刺さってもなお、こちらを殺す為に嘶く角の姿が映る
(……やっぱり、駄目だったかな……)
自分には荷が重すぎる相手だったか、そう思い目を閉じた次の瞬間、鋭い声と、爆発音と、角の悲鳴と……何かが倒れるが聞こえた。
再び薄目を開ければ、完全に地に伏した角の頭が燃えていた。何故こうなったのかなんて、涼太には見当がつく。
安心感からそのまま意識を失えば、ふと自分の名を呼ぶスピカの声が聞こえたような気がした




