第43話【vs鹿の長②】
ナナに続いて草むらから勢いよく飛び出してきた涼太をスピカは口を開き、驚く様に、何かを言いたげに見つめている。正に開いた口が塞がらないと言う感じだ。
「ナナ!」
「ガルルル……」
涼太はナナにギリギリまで近づき必死に呼び掛けたがナナは唸り声を上げるだけで、涼太の声にはほぼ無反応だ。
「涼太!私がナナに呼び掛けるから、お前はナナをつれて逃げろ!」
スピカの必死な呼び掛けが聞こえる。確かに、スピカですらまともに相手出来ない生き物を自分達だけで相手するのは無理だろう。
3人ならドレイクや妖魔の時のように勝てるのではないか、涼太はそう思わずには居られないがスピカに指示されたようにすぐにここを出られるように待機する。
「ナナ、こっちへ来い」
スピカは声色を優しいものへと変え、必死にナナに呼び掛ける。
必死に何度も呼び掛ける内に、ナナはようやく首を動かし後ろにいる2人に気を向ける……が、そこにあったのはあの愛らしく、獣らしさはみじんも感じさせない瞳ではなく……血走った本物の獣の目だった。
「ナナ」
それでもなお、スピカはナナに呼び掛けようとするがそれが今のナナの心を逆撫でした。
「ガルゥ!……グルルル……」
スピカに対し、邪魔をするなと言わんばかりに牙を向けて一度吠えると吠えると、唸りながら再び角と対峙してしまった。
「……ナナ、何故だ」
ナナに拒絶され、強いショックを受けてその場に崩れ落ちたスピカに涼太はそっと寄り添う。その姿は今までに見たこと無いほど弱々しく、彼女にもこんな一面があるのだと、涼太は偶然にも知ることとなった。
「スピカさん、今までああなった事は」
「一度もない……いったいどうしたら……」
すすり泣くようにも聞こえるスピカの悲しげな声ももう耳に入らないのか、ナナは唸り声を上げたまま角へと飛びかかり、角はナナを警戒するように甲高い声を上げながらナナの動きを確実に回避していく。
そんなナナの勇姿を見たスピカは自傷気味に薄く笑うと、その場にゆらりと立ち上がった。
「……こんな事をしている場合ではないな。ナナを援護するぞ、涼太」
スピカの言葉に『ここはナナに任せよう』という意思が込められていることを涼太は自然と読み取り、同意するようにこくんと頷いた。
「……わかった。僕は超能力で足止めしてみるよ」
「出来そうか?」
「ちょっとだけなら、多分」
コルヌ相手だと、押さえ込むぐらいなら出来た。角相手だとどうなるかなんてわからないがやってみなければわからない。
涼太は角を押さえ込むようにイメージし、テレキネシスで捕らえようとする……が、ナナと戦っている角は素早く動き回っており捕らえる前に角が移動してしまう。
「あんな事言っちゃったけど、これ、どうしたら……」
涼太のテレキネシスには命令と発動の間に少しだけラグがある。そのラグの間に対象の位置がずれてしまえば発動できないのだ。
動きを止める為に動きを止める必要がある状態の中、涼太は必死に思考を巡らせる。その間にも、ナナと角の戦いは激しさを増していた。
「グルルル……ガァ!」
知性の欠片も感じない、ただ相手を仕留める為だけにひたすら首を狙うナナの動きはワンパターンで角は既に学習しつつあった。今は最小限の動きでナナの攻撃をかわすことも出来る事もあってか完全に油断している。
その隙を、スピカは見逃さなかった。
「そこだ!アンタレス・ショット!」
「! キュオオオオオ!!」
スピカが放った炎の魔弾は見事角を角怯ませ、体に傷を与える……が傷を与えただけであり、その仕草を見ている限りではダメージは対したことなさそうだ。
「ちっ……当たってもこの程度か」
(……ん?もしかして……!)
ここまでの流れを観察していた涼太はふと、角の動きを止める方法を1つ思い付いた。その方法をすぐに伝えるため、涼太は戦うために前へと出ていたスピカの名を叫びながら、その元へと駆け寄る。
「スピカさん!」
「……何か手は見つかったか?」
「うん、それが……」
涼太が見つけた作戦、それは単純明快に『ナナの動きに会わせて、スピカの魔法を打ち込む』と言うものだった。勿論、今のナナに協力を頼むことは出来ないのでスピカの方から一方的に合わせる必要がある。
「……どうかな?」
「……最早出来るか出来ないかではないな。やらねばやられる」
スピカはそう言うとすっと涼太の前に立った。こちらを一度も振り返ること無く、ずっと前を……ナナの動きだけを見つめている。
(僕の作戦を、信頼してくれてる……?)
妖魔との戦いの時はスピカも同じ作戦を考えていた。
猿の王との戦いの時はレーゲンの作戦で戦った。
自分の考えだけの作戦で仲間が動くのは初めてで……戸惑うようなむず痒いような不思議な感覚を覚えながらもスピカの期待に応えるべく、涼太も前をしっかりと見つめる。
ナナと角の角何度目かの攻防を共に見つめ……
そして、ついにチャンスは訪れた。疲れからなのか角がナナの連撃で怯んだのだ。
「ショット!」
その隙を逃すまいと放たれた魔弾は先程とは違って炎を纏っては居ないが怯ませるには調度いいものだった。魔弾を熱く痛いと記憶していた角は無理に回避せず身を縮ませ痛みを押さえようとする。
「今だ!」
涼太は仕上げとして角をテレキネシスで押さえ込む。そうすれば、あれほど機敏に動いていた角でも動けなくなってしまう。
「一気に仕留めるぞ!エルナト!」
「グルルル……」
スピカは魔法を唱え、そんなスピカの声を聞いたナナもすぐさま攻撃を仕掛ける。2人の攻撃が、戸惑うように鳴く角へと容赦なく降り注いだ。




