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【消えた作品】  作者: 風花
第4章【狩人という仕事】
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第40話【獣の瞳】

 ナナの後を追えば、やはり昨日訪れたあの森にたどり着いた。昨日と比べても辺りは異常な臭いが充満し、まるで血の海の縁に立っているような気分になった。


 そして、それだけでは無い。恐ろしげな気配がそこら中から漂ってくるのだ。この気配の主は確実にこちらを見ている、そんな考えに取り憑かれてしまうほどだ。


「ナナ」


 ふと、どうしようもなく不安になりナナの方を見れば自分と同じ様に何かを感じ取っているらしく、姿勢を低くして唸り声をあげていた。


「……戻ろう、僕らはじゃどうすることも……」


 ルル達の事は心配だが、先へ進む勇気が出ない。そんな時だった。


「わぁぁぁぁ!」


「クォォォォ!」


「!」


 森の奥から子どもの悲鳴らしき声と、その後にいきりたつ様な、異常な声が響いてきたのだ。


「涼太君!」

「うん、行こう!」


 声がする方向へ、涼太達は危険も恐怖も省みずに死臭漂う森を駆け抜けた。






「な、何じゃお主……わ、わしは食べても美味くないぞ!」

「クォォ!クォォォォ!」


 ナナと共に何度か草むらを突き抜けると、そこには涼太の想像通り鹿のような生き物に追われる子どもの姿があった。鹿の方はどんな生き物なのかわからないが、涼太はあの子どもに見覚えがある。


「居た!って……あの子は確か……!」


 追われていた子どもは、町に最初で出会ったガラクタ集めの少年だった。目につけていたゴーグルの様な不思議な装備が今は頭につけられているので最初は気がつかなかったのだが、よく見れば彼で間違いない。


 足を怪我してしまったのか、少年は木の根本に座り込んでしまう。鹿はそんな彼の元へとゆっくり歩んできていた。


「……誰だっけ?」

「ガラクタ集めの子だよ!でもどうしてここに……早く助けないと!」


 首をかしげるナナを急かし、涼太とナナはそのまま戦闘体勢に入る。こちらの存在に気がついたのか、鹿らしき生き物は少年からこちらへと、恐ろしげな角の生えた頭を向けて鼻息を荒上げる。この時、少年もこちらに気がついたようで涙まみれの顔をこちらに向けてきた。


「お、お主らは……」


 どうやら少年側も涼太達の事を覚えていてくれたらしい。


 皆の息が詰まる中……最初に仕掛けたのはナナだった。


「てりゃあ!」


 どこか間抜けな声を上げながら鹿の体を狙ってナナが飛びかかる……が、鹿はその場でステップを踏むようにヒラリとナナの一撃を回避した。


(何て素早さだ……それに、ナナを怖がらないなんて)


 ふと、涼太は最近コルヌという鹿の仲間が凶暴化しているのだと言うルルの話を思い出した。もしあの鹿がそのコルヌならナナを怖がらないのも頷ける。


(近づくのは危険かもしれないけど、下手に様子を見続けたらあの子が襲われるかもしれない……ここは一か八か!)


 涼太は槍を構えると……ナナの攻撃を回避した代わりに、少し怯んだコルヌに向かって槍の一撃を振り下ろした。精一杯の力で叩き込んだからだろうか、振り終わった槍をちらりと見れば、その槍先はしっかりとコルヌの血で濡れていた。


「キョォォン!」


 コルヌは切り裂かれた右前足の痛みを訴えるように鳴くと、そのまま涼太を振り払おうとしてその場で暴れ始めた。


「わっ!」


 涼太はその場でとっさにコルヌの後ろ足から放たれたキックを回避し、その場から離れる。本来なら涼太には回避できない速度で後ろ足を動かすのだが、前足が痛むからなのか速度も遅く、何より僅かながら隙がある。


 その僅な隙をナナの輝く目は見逃さなかった。


「グルルル……ガァァ!」


 ナナは獣のように地を駆け、コルヌの首元目掛けて牙を剥く。先程はその軽やかな足腰で回避されてしまったが涼太によって足を傷つけられた今、コルヌは満足に回避することも出来ない。




 獲物を捉えたナナの瞳がキラリと輝き……そして




 ガブリ、と噛みつく音と共に 何かが裂けるような音がした。




「キョォォォォォン!!」

「グルルル……!」


 ナナに首を噛まれて大出血を起こしながらもコルヌは暴れることを辞めない、むしろ、痛みにより生存本能が活性化したのかナナを振りほどこうと.暴れ具合が先程より酷くなっている。辺りに血を飛び散らせながら暴れるその姿は痛々しいものだ。


 しかし、その抵抗も徐々に弱くなっていき……やがてコルヌはその場に崩れ落ちた。


「もう、いいかな?」


 コルヌから離れたナナはすっかり血塗れになっており、何ともグロテスクな姿へと変貌してしまっている。


 一方の涼太は、血こそ浴びなかったもののルルから借りた槍を盛大に血で汚してしまった。


「ねぇ、大丈夫?」


 コルヌが崩れたのを確認した涼太は素早く少年の元へと駆け寄った。少年の方は先程の戦いの惨劇が頭から離れないのか、ぼーっとしていたのだが涼太が駆け寄ってきた姿を見てすぐにこちらを見つめ返してくれた。


「んー……足が痛いぐらいじゃな」

「足?」


 涼太が少年の足を見ると、確かに少年の足は出血していた。このまま町に戻すわけにも行かない、そう思った涼太は鞄からあの時エスプリ貰った癒の魔女の薬を取り出した。


「足にこれを塗るからどこか水のある場所へ……」


 その時だった。




「グオッ……グ……クォォォォ!」




 何と、先程倒したはずのコルヌが恐ろしげな鳴き声と共に再び立ち上がったのだ。その目は血走り、正気なのかすらわからない。口から血を吐き、鼻息を荒あげながらコルヌは角をこちらへと向けて突進してきた。


 ナナの攻撃も、槍の一撃も間に合わない。ちらりと、後ろに居る少年を見つめる。出来ることなら彼には見せたくはなかったのだが仕方ない。


 涼太はすっと息を吸い、吐くとその場でテレキネシスを働かせるように意識を集中させ、コルヌの動きを封じようと試みる。


「クォォォォ!」

「くっ……なんて……力……!」


 確かにコルヌの動きは失速した……が、テレキネシスの壁のようなものですら押し倒そうとコルヌはものすごい力を働かせ、一歩、また一歩とこちらへと歩んできていた。


 コルヌの鋭い獣の瞳が涼太の視線と重なる。そのあまりの威圧に思わず怯みそうになるが何とか持ちこたえた。ここでテレキネシスを解けば一貫の終わりだ。


「涼太君!」

「ナ、ナ……頼む……!」

「うん!」


 ナナは大地を駆け、再びコルヌの首へと噛みつく。鹿は痛みからなのか、この世のものとは思えないほどの物凄い声を上げ……やがて力尽きたのか、瞳を閉じると今度こそ地に横たわった。

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