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【消えた作品】  作者: 風花
第4章【狩人という仕事】
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第38話【僕らの作戦会議】

「ただいま……」

「おかえり……またずいぶん疲れてるな」

「おかえり!涼太君!」


 一日目の修行を終え、疲れた体を引きずるようにして涼太は何とか宿屋に戻ってこれた。超能力と槍術の組み合わせは誰も行ったことがない為に、その修行内容も試行錯誤するしかない。


 何より辛かったのは、自分の超能力、テレキネシスが予想以上に弱かったという事実だった。平常時ではコントロールもなかなか効かず、人間程度の重さでも持ち上げることができない。あまりの状態にルルに頭を撫でられて慰められてしまった程だ。


 色々ありすぎたからなのか、自分のベッドに倒れ込むことでようやく安全な場所に帰ってこれたという実感を持てた。


「スピカはまだ帰って来ないか。あいつ、何処行ったんだろうなぁ」


 自身の鞄に何かを仕舞いながら、レーゲンはそう呟く。ふと、目線を落として下の方を見ると、ナナが何かを頭に乗せながらこちらへと歩いて来るのが見えた。


「涼太君!」

「……どうしたの、ナナ?」

「これあげる!」


 ナナの頭の上に乗っていた物をのはガラスで出来た淡い緑色の髪飾りだった。残念ながら女物なので、身に付けるには勇気がいるもののナナの優しさは嬉しかった。


「ありがとう、ナナ。でも……これどうしたの?」

「えっとね、レーゲンに買って貰ったの!」

「そうだったんだ……ありがとう、レーゲン」


 レーゲンの方をちらりと見れば、レーゲンはこちらを見てにやけていた。


「いやいや、折角だったしな……ところでよ。修行、どうだった?」

「今日は全然だったよ。槍と超能力を組み合わせられないかなってやってたんだけどね……でもちょっとだけ、何か掴めたような気がする」

「そっか、お前も頑張り屋だな」


 レーゲンはそう言うと、涼太の頭を優しく撫でた。何となく暖かい気分になるが、流石に13歳にもなると頭を撫でられるのは気分のよさ以上に抵抗感がある……何とも言えない表情に変わった涼太を見たレーゲンは、すっと撫でていた手を下ろした。


「わりぃ、涼太。弟みたいに思っちまってよ」

「……弟、居たの?」

「あぁ、チュラに残してきたたった一人の兄弟がな。この体になってから1回も会ってねぇけど」


 レーゲンはそう言うとどこか遠い目をした。魔生命族となったレーゲンの体は人形の体であり、派手ながら露出が少ない服に大きな帽子を被っているのも、その人形の体を隠すためだと言う事をチラリと聞いたことがある。


 本当は弟に会いたいのに、人間で無くなった自分に自信が無いのだろうか?なら、かけてあげるべき言葉はひとつだけだと涼太は思った。


「チュラ公国に付いたら、レーゲンの弟に一緒に会いに行こうよ」

「おいおい……それまじで言ってるのか?」

「私もレーゲンの弟に会いたい!」


 ナナもレーゲンの弟に興味を示したのか、尻尾を激しく振りながら同調してくる。


「たった一人の兄弟なんだよね? なら、きちんと会って話をしないと駄目だよ」

「……」


 レーゲンは何も答えずに苦い表情になると、ふと立ち上がり窓の方へと移動した。少しの間窓の外を見つめてため息をつくと……やがて、窓を背にしてくるりとこちらの方を見た。


 その表情は、先程とは違う。少しにやけたいつものレーゲンの表情だ。


「まさか、涼太にそんな事言われるとはな……だよな、逃げても始まらねぇよな。よし、チュラに付いたらまず俺の用事に付き合ってもらうぜ」

「勿論だよ!」

「レーゲンのお家楽しみー!」






「……全く、騒がしいな。先程から廊下に声が響いていたぞ」


 3人で騒ぎ始めたその時、ふと部屋の入り口から声が聞こえたので見てみればスピカが帰って来ていた。その表情はどこか呆れているように見える。


「おかえり!スピカちゃん!」

「おかえりなさい、スピカさん」

「ただいま、二人とも無事そうだな」


 何かを心配していたのか、2人の姿を見てスピカの表情が和らぐ。


「おう、おかえり。丁度良いタイミングだな」


 スピカの帰りに気がついたレーゲンはそう言うと、すっとスピカに近づき……いきなり手を取ってニヤリと笑った。突然の出来事にスピカの動きが止まる。レーゲンはそのまま、スピカの手に何かを握らせると素早く離れた。


 スピカの方はしばらくボーッとしていたのだが、何をされたのかようやく理解したのだろう。スピカの顔は怒りと羞恥心でみるみる赤くなっていく。


「き、貴様今何を……!」

「手を見てみな」

「……は?」


 スピカがふと手に握らされた物を見ると、そこには星をモチーフにしたネックレスがあった。中心に小さな星のアクセサリーがついただけのシンプルな、でもどこか女性らしいそのネックレスは何となくスピカを連想させる。


「俺からのプレゼントだ」

「……また随分と下らんことをするな」


 そう言いつつもスピカはネックレスを見つめ……そのまま自身の鞄に仕舞った。一応受け取ってくれたと解釈したレーゲンはご機嫌だ。


「……こんなことをしている場合ではない。お前達に今後の旅についての話がある」

「何かあったの?」


 スピカの暗くなる表情を涼太とレーゲンは見逃さなかった。2人の表情も自然と真面目になる。


「……これを見ろ」


 テーブルに広げられたのは、グランバースの物と思わしき1枚の地図だった。皆で地図を覗き込むと、その地図の一ヶ所をスピカが指し示す。その場所には王都マルコシアス、そしてその近くの場所にある建物はスコルの門と示されている。


「最初、私はこのエウペル国王都……マルコシアスとスコルの門を通らないルートで、南側へと抜けることを考えていた」

「このスコルの門って……確か大きな山に隔てられた南と北のエウペルを結ぶ門だよな。俺も通ったことあるけど別に普通の場所だぜ? 何か問題があるのか?」

「スコルの門を通るには、マルコシアスを通る必要がある。マルコシアスはエウペル国の中枢、月の魔女が何かを仕掛けてくるとしたらこの場所になるだろう」


 ごくり、と涼太は唾を飲み込んだ。すっかり忘れていたが自分達は月の魔女に存在を知られている。スピカの予想が全て正しいなら確かにこの場所は危険だ。


 ふと、音が聞こえるのでそちらを見れば話がよくわからないのか、いつの間にかナナがシュヴェ達と遊んでいた。


「他にルートはあるのか?」

「門を通らないルートは昔からいくつか存在していたのだが、全て潰されたらしい。通るには余りにも危険だと言われた遺跡の地下道も念入りに潰したところを見ると余程私達を逃がしたくないと見えるな」

「流石大国、やることがえげつないねぇ」


 レーゲンの言葉にスピカが全くだと言わんばかりにため息をついた。正直涼太も、ここまで追い詰めてくるエウペル王国に威圧感を覚えて何だか吐きそうな気分になっている。


「そこでだ。私達はどうしても南に行く必要があるが……その為には門を突破しなくてはいけない。最悪強行突破になる。……その覚悟はあるか?」

「覚悟ってなぁ……」

「お前が一番覚悟を決める必要があるぞ。最悪国の許可無く南と北を行き来するのだからな。その場合、私達は犯罪者だ。帰るなら今のうちだぞ?」

「んー……まぁ何があってもついてってやるよ」

「……勝手にするがいい」


 犯罪者になる、という言葉に涼太は絶句した。自分の為にここまでするのかと……そう思うと、自然に言葉が出た。


「……ごめん、僕の為に……」


 口が動けば、2人がこちらを驚いたように見つめ……その後に聞こえた言葉はとても優しいものだった。


「気にするな、私は私がやりたいようにやるだけだ」

「俺もやりたい事してるだけだしな。まぁ外の世界に興味があるってのが一番だけどよ」


 レーゲンもスピカも、涼太を安心させるように優しく微笑む。


 まだ出会って1、2週間程しかたっていないのにも関わらず、自分の為にベストを尽くそうとしてくれる皆の優しさが涼太の心に染みる。だからこそ自分は期待に応える必要があるのだと、強くなって皆を守るのだと。涼太は改めて強く決意した。


 その後は、本当に門を通らずに進めそうな場所がないかを確認したり、じゃれついてきたナナに構ったり、晩御飯に干し肉と干し果物を食べたらレーゲンに毎日それで飽きないのかと呆れられたりして、1日を終えた。






 皆が寝静まった夜。既に月は天高く登り月明かりだけが寝息しか聞こえない静か部屋を照らす。皆の寝顔を見ながら、レーゲンは一人の時間を過ごしていた。


 目を閉じても、眠ることは出来ない。


 皆が食事をしていても、お腹が空くことは無い。


 何か衝撃を受けても、体が痛むことは無い……いや、これは少しだけ痛いような気がする時もあるが。


 この静かな時間は自分と暖かい生き物との違いを感じさせる、レーゲンにとって大切な時間だった。自分が人間ではない事をしっかりと認識しなければ、体を隠さねば、と、ずっとそればかりを考えて生きていたが、案外皆簡単に受け入れてくれた。


(俺は化け物扱いされても仕方ねぇのに……感謝しかねぇよな)


 そんな事を思いながら眠る涼太を、眠るナナを、眠る真似をするシュヴェとシルトを順に見て、最後にスピカを見つめた。


(……星みたいに綺麗だよな)


 眠るスピカの顔はいつも疲れている。誰にも頼らず、一人で解決しようと奮闘し疲労してしまうのだ。この疲れた表情は寝ているときにしか見せないので、今のところレーゲンしか知らない。


(たまには頼ってくれよな)


 なんて、思いつつも一度も名前を呼んでくれない彼女を思いながら、寝るフリをする為にベッドに戻ろうとした。






 その時だった。






 シャキン、と金属と木が擦れるような嫌な音がレーゲンの耳に聞こえた。一体何事かと辺りを見渡すが特に何も見えない。


 いや、1つだけ違和感があるものがある事をレーゲンは知っていた。レーゲンはそっとそれを見つめ……そして……


「……っっ!」


 思わず叫びそうになる声を無理矢理噛み殺した。そこにあったのはまるで爪を彷彿とさせる3枚の刃。それが飛び出ている場所は……レーゲン自身の右手の甲であった。


(なんだよ……これ……)


 死んでからの5年間、この体だった。いや、幼い頃からこの人形は自分の家にあった。父が愛情を込めて作ったはずの人形に、まさかこんなものがあるなんて、レーゲンは全く知らなかったのだ。


(とりあえず引っ込めねぇと……!)


 流石に刃を無理矢理押し込めることは出来そうにない。何のからくりがあるのかもわからないが、何度か腕を振っている内に、刃は引っ込んでしまった。


 刃が飛び出た場所は生々しく塗装が取れており、3つの穴が空いてしまっている。


(よ、よし……次はこれを隠さねぇとな)


 レーゲンは急いで、でも音は立てずに自分の鞄を漁り、やがて白い手袋を鞄から取り出した。この手袋は普段人形劇の際に使うもので、汚さないようにするために人形劇の外ではしないのだがこの際手段を選んではいられない。


 手袋を着けて跡を隠し、ようやくレーゲンは一息ついた。


(何なんだったんだよ……さっきの……)


 その問いに答えられる人間は、この場所には居ない。問いはそのまま、月夜の闇ともに消えるのであった。

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