第4話【vsドレイク】
2人が遊びに行った後、スピカは家の片付けをしていた。しばらくの間留守にする以上消耗品などをどうにかして綺麗にしておく必要がある。
(10年か、短いものだったな)
ナナの母親からナナを無理矢理に近い形で預けられ、それ以来スピカはほぼ土神の森の中にあるこの古い家に引きこもるように暮らしてきた。ナナと共に外に用事と言えば近くの町に行く程度だったため今回の旅はスピカにとっても不安な物だ。
そんな不安もそのままに、片付けもある程度終わった頃、ふと窓を見ると虹色の羽を持つ蝶が窓際に止まっていた。スピカはこの蝶が何の役割を持つものか知っている。
「久しぶりだな……そうだな、お前の主人に伝えておけ。庭の花達を任せた、とな」
七色の羽を持つ蝶はスピカの言葉を理解したかのようにヒラヒラと羽を動かした後飛び立ち、スピカはそれを見届ける。このまま無事にたどり着ければ昼頃にはあの使い魔の主に伝令が伝わるだろうとぼんやりと考える。
外から、おぞましい咆哮が響いてきたのはその時だった。
「今の声は……まさか!」
スピカは慌てて外に飛び出し涼太とナナの姿をを探すも2人の姿は何処にも無い。スピカは森の中にある土神の神殿へと続く道を見つめる。嫌な予感が胸を締め付けた。
「無事でいてくれ」
スピカはそう呟くと、近くにあった魔法の杖を握り、森の道を駆けていった。
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「な、何今の!?」
涼太が今までに聞いたことも無いような地響きに近い咆哮。先程までざわついていた森も時が止まったかの様に静かになり、地響きのような足音だけが森を支配する。
「来る」
ナナがそう呟いた次の瞬間、それは現れた。
「ゴガァァァァァ!!」
鼓膜を破かんばかりの大音量で吼えるそれは、偉大で、巨大で、恐ろしげな竜。まさに恐竜という名に相応しい王者の姿。
涼太は日本にいた頃その姿を図鑑で見たことがあった。
「ティラノ……サウルス……」
「やっぱりドレイクだ!スピカちゃんが言ってた……ドレイクはいつもお腹が空いてて何でも食べちゃうんだって」
ドレイク、それがあのティラノサウルスの様な生き物の名前らしい。ドレイクはこちらを認識しており、恐ろしげなトカゲの瞳で睨み付けてきた。
「ナナ!逃げよう!」
「……ドレイクは足が早いってスピカちゃんから聞いた事があるよ。……涼太君隠れてて!私が……私がドレイクを倒す!」
「ナナ!」
涼太の叫び声も虚しく、ナナはそう言うとドレイクに向かって行ってしまった。一方のドレイクは煩い蝿が来たと言わんばかりに不機嫌そうに唸ると尾でナナを叩こうとする。
一方のナナはドレイクの尾の射程をしっかりと把握し、素早い動きで回避するとドレイクの懐へ入ると爪を思い切り振るった……が、ドレイクの固い鱗の前ではナナの爪は全く歯が立たない。
そんなナナの攻撃でナナの位置をつかんだドレイクはナナに一撃を与えるべく体位を変え、今度はナナに噛みつこうと動く、ナナはそのタイミングに合わせてドレイクの足元をすり抜けるように通りドレイクの後ろへ回り、今度は牙で噛みついた……が、ナナが逆に痛みを感じるほど鱗が固くて歯が立たない。
「痛っ……」
「グルルルル……」
「っ!」
ドレイクはナナを見失い周囲を見渡すが、ナナが攻撃すれば再びナナの位置を把握し反撃してくる。ナナは何度も突撃しては回避してを繰り返し、攻撃することしか出来なかった。
(どうしよう、どうしよう。このままじゃナナが……!)
一方の涼太は木の影に隠れていた。ドレイクは目も頭も良く無いのかナナを見失ってばかりだが、ナナの方はいくら攻撃してもドレイクに傷を追わせることすら出来ない。
お互いに決定打を叩き込めないもののナナの方が先に疲れ始めている。明らかにナナが不利の状況だ。このままではナナが危ない。
涼太はどうすればこの状況を返せるか必死に考えたが、自分が応援に行ったところでドレイクを倒す方法が思い付かない。
(僕に、力があったら)
ナナを守る力があったら、敵を倒せなくてもいい。何か出来れば。
(せめて、しばらくの間だけでもあいつの足を止めることが出来れば……)
涼太は願った。
何故かはわからないが、そうすれば叶うと信じたから。
そして……それは現実となる。
「ゴガァァァァァァ!?」
「な、なにこれ!?」
「……へ?」
追い詰められ、動けなくなったナナに大顎で噛みつこうとしたドレイクの体が突然、宙に浮いた。涼太とナナは呆然とし、ドレイクは我が身に起こったことが理解できないのか振りほどこうとと必死にもがいている。
「ガアァァァ! ゴガァァァ!」
ドレイクが口から涎を垂らしながら拘束を振り解こうと必死に暴れるも拘束は解けることはない。
「何が起こってるんだろう」
ナナが呆然と呟いたが涼太にも今一つ、何が起こったのかわからない。
しばらくしてグシャリと音を立てながらドレイクが激しく地面に叩きつけられた。ドレイクは頭の鱗が剥げ落ち足の骨を折る大怪我を負ったものの、王者たる自分を拘束した何者かに対して痛みも忘れ、怒りに身を任せたまま暴れ始めた。
「グオォォォォォ!」
「わわっ!」
ナナは慌ててドレイクから離れる。しかしドレイクは目の前にいたナナを許しはしなかった。己に牙を向いた相手には罰を、そう言わんばかりにナナを叩き潰そうとした次の瞬間だった。
「エルナト!」
場を裂くように鋭い声が響き、魔力で出来た槍がドレイクの鱗が剥げ落ちた頭を貫いた。ドレイクは一瞬の出来事に回避すら出来ずに頭から血を吹き出し、怒りの表情のまま地に倒れ付して絶命した。
「無事か!お前達!」
スピカだ。スピカがいつの間にかこちらへやって来たのだ。
「あ、スピカちゃん……」
「スピカさん……」
2人に気まずい空気が流れる。涼太は確実に怒られるだろうと覚悟していたがその予想は外れ、スピカは優しく2人を抱き寄せた。
「……ごめんなさい」
「ごめんなさい」
抱き寄せられた2人が謝ればスピカは無事ならいい、と優しい言葉で返してくれた。
ドレイクと戦った帰り道、涼太はスピカに魔法の事を聞いていた。
「スピカさん、エルナトって何?」
「エルナトは私の魔法だ。」
私の、と言う言葉が涼太は引っ掛かった。
「私のって……他の人は使えないの?」
「魔法とは個人の所有物で形も効果も個人によって異なる。誰でも再現可能な基礎魔法でも無い限り人から魔法を教わったとしてもその魔法を別の人間が再現するのはほぼ不可能だ。」
涼太には魔法の仕組みは良くわからないがどうもかなり複雑らしい。スピカと同じ魔法を覚えられたらと淡く考えていたがどうにも無理そうだ。
「そうそう!私の魔法もたまにしか使えないんだけど、ユイツムニの魔法なんだって!」
「あはは……」
話を聞いていたナナがえっへんと威張り、涼太が苦笑いをする。そのまま3人は家へ戻ったものの、涼太とナナは疲れきっており、その日は残りの時間をそのままのんびりと過ごす事となった。
最も、涼太はドレイクと遭遇した緊張からなのか、体に気だるさを覚えており、結局その日は対して話もせずに、そのまま早い時間に眠ってしまったのだが、それはまた別の話である。




