第33話【街の中のドリアード】
「あ……」
「?」
初めて見るような姿の少女に、涼太は思わず固まってしまった。敵意は感じないものの、その明らかに人間ではない見た目と瞬きひとつせず、無表情でじっとこちらを見つめる姿は外から来た少年の恐怖心を煽るのに十分だ。
そんな中、リエットも部屋に入ってきてくれたので涼太は少しだけ安心できた。
「涼太君、紹介するっす。その子はドリアード族のルル、歳はいくつか知らないんすけど凄く大人しい子っすよ。ルル、この子が涼太君っす。前話したから覚えてるっすよね?」
「ドリアード……は、はじめまして」
「うん、はじめまして」
リエットの言葉を耳にしながらも、ルルの目線は涼太に向けられたままだ。じっとこちらを観察するように見ているせいで涼太も居心地が悪く感じてしまう。
不意に、ルルは立ち上がるとこちらに腕を突き出してきた。何をされるのかとびくりと涼太は体を震わせたが、ルルは掌を上に向けて手を突きだすだけで何もしようとしない。
「えっと」
「……木の実、好き?」
「?」
ルルが唐突にそんなことを呟くと、突然ルルの掌が別の生き物のように動き……そこから真っ赤な木の実が生えてきた。あまりにも不思議で、不気味で、理解しがたい現象に涼太の脳は考えることを拒否しようとしている。
「食べる?」
「た、食べれるの!?」
完全に生えた木の実をすっとこちらに差し出してきたので涼太も思わず聞き返してしまう。木の実は、確かに見た目だけならトマトのように綺麗で艶のある美味しそうな見た目なのだが形はまるでハートに近いような、見たこともない形をしている。食べるには勇気が必要だ。
「もう仲良くなったんすね、良かったっす」
買ってきた荷物を整理し終えたリエットはそんな事を呟きながら、笑っているが涼太の心境としては助けて欲しいところだ。
「リエットさん、あの木の実はいったい……」
「木の実? あぁ、それはルル達ドリアードの能力っすよ。仕組みは知らないんすけどね。あ、俺食べたことあるんで知ってるんすけど、木の実に毒は入ってないっすよ」
(あれを食べたんだ……)
リエットも食べたことがあるのなら大丈夫なのだろうか。そんな事を考えると、ふとルルの表情が少しだけ変わった。見ていなければ気がつかないような変化だ。
「いらない?」
なんだか寂しそうな、悲しそうな……そんな表情で呟くルルを見ていると、何だか木の実を受け取らないのは悪い事のような気がして……涼太はルルに近づくと、その掌にある木の実にすっと腕を伸ばして受け取った。
「ううん、貰うよ。ありがとう」
「!……あげる」
木の実を渡したルルは再び表情を変え、少しだけ笑顔になる。ルルを無表情だと思っていたが見ていれば意外と表情の変化が激しいのだということに涼太は気がついた。
微笑ましい時が流れる中、ふと涼太はここに来た理由を思い出した。
「って……そうだ!リエットさん、僕槍の使い方を教えてもらいたくてここに来たんです!あの……槍使いの仲間ってどの人ですか?」
ルルがその仲間だとは思えない、なら早くその人に会いたいと思った涼太はリエットに迫る。一方のリエットはぽけっとした不思議そうな表情をした。
「どの人って……ルルっすよ?」
「……へ?」
「だから、その槍使いってのがルルっす」
「う、嘘!?」
「本当」
涼太が驚いた顔でルルを見れば、ルルは先程の表情でじっとこっちを見つめていた。だが、その目だけは先程とは違う、とても鋭い目だ。
すっと、ルルは緑色の短い髪を揺らして立ち上がると、ベッドの反対側から何かを取り出して戻ってきた。
槍だ。こんな槍があるのかと思うほど、花をモチーフにした美しい装飾が施されている槍がルルの手に握られている。
「これ、私の。持って」
「ルルのを?」
ん、とルルが自身の槍を差し出すので涼太はそれを受け取って……よろけた。持てなくはないがなかなかの重さだ。
「お、重い……」
「返して」
ルルにそう言われたので、ぱっと手を離せば槍はルルの手に戻った。ルルはあんなに重かった槍を片手で軽々と扱っているのだから驚きである。ルルは涼太の一連の動きを見た後、こくんと頷いた。
「この槍はちょっと重い……今日は遅いからまた明日」
「えっと……」
「相変わらずルルはお話が下手っすね……つまりは明日来てくれって事っすよ」
「うん」
リエットの言葉に、ルルは頷く。よくわからないが、先ほどの行動で認めてもらえたのだと涼太は解釈することにした。
「ありがとう、ルル!」
「……どういたしまして 」
「今日はもう帰るっすか?」
「はい、ありがとうございました!」
涼太はリエットを見つめ礼をした後、そのまま部屋を出ようとして……
「待つっす」
リエットに呼び止められた。
「リエットさん、どうしました?」
「……頑張って下さいっす。応援してるっすよ」
「!……はい!」
リエットから応援の言葉を貰い、改めて涼太は宿屋を後にした。
外は日が傾き、既に夕方となっている。遅くなってしまったと少しだけ焦りながら涼太は早歩きで宿を目指す。
だからだろうか、人に気がつかなかったのは。
「痛っ……!」
「きゃっ」
どんっと音を立てて涼太は人と正面衝突してしまい、お互いにその場に尻餅をついてしまう。
「あの、大丈夫ですか?」
「……えぇ、大丈夫よ。ありがとう」
涼太は慌てて立ち、衝突した女性に手を差し出したがその手を使うことなく女性は立ち上がった。
「あの……ご、ごめんなさい!少し急いでいて……」
「……。」
じっと、女性がこちらを見つめている。女性は黒く短い髪に、眼鏡をしているため非常に知的に見えるがその服装は正に魔女といった雰囲気を醸し出しているような気がした。
「貴方、どこから来たの?」
「へ?えっと……」
唐突な質問に一瞬思考が止まった。しかしよくよく考えてみると相手の正体が掴めない以上、素直にグランバースの外から来たのだと答える事ができない。どう答えるかと悩む内に悪いと思ったのか、女性の方から引いてきた。
「……いいわ、引き留めてごめんなさいね」
「あ、はい……」
女性は笑いながらそう言ったが、女性から何とも言えない気配を感じた涼太は、逃げるようにその場を立ち去った。
そんな涼太の様子を見つめる女性は怪しい笑みを浮かべていたのだが、女性に背を向けていた涼太はその事に全く気がつかなかった。




