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【消えた作品】  作者: 風花
第4章【狩人という仕事】
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第32話【街を歩いて】

「涼太君、あっち行こ」


 涼太の少し先を歩くナナはキョロキョロと辺りを見渡しながらも先へ先へと進みたがるので、涼太は辺りを見る余裕も殆ど無く、自然と早歩きをしてしまう。


(まるで犬みたいだ……)


 ナナが狼の姿をした土神であることは頭の中で理解しているものの、ナナと共に歩くと何故かはわからないが、まるで犬と散歩しているかのような気分になる。


 そんな考え事をして居ると、不意にナナが服の裾を引っ張った。


「どうしたの?」


 ナナは輝く瞳で涼太の方をじーっと見つめ、何かを訴えかけているように見えるが、辺りには特に目につくものはない。


「何もないよ?」


 涼太がそう告げると、突然ナナはくるりと方向を変えて人混みの中を縫うように走り出した。


「って、ちょっと!」


 ナナが迷子になったら大変だ、突飛な行動に思考が追い付かず、少しだけ反応が遅れたが涼太は慌ててナナを追いかけた。


 道を行き交う人々は子狼が足元を駆けていくのを見て悲鳴をあげている。涼太もナナを追いかける間に何度も人にぶつかり、その度に謝りながらも必死にナナを追いかけて、やがて大きな噴水が目立つ広場にたどり着いた。


 ナナは何処かと辺りを見れば、噴水をじっと見ているナナを見つける事が出来た。


「居た!ナナ、駄目だよあんな事したら……」

「涼太君、見て!」


 ナナは涼太の話も聞かず、じっと噴水を見つめている。ナナの白銀色の毛が噴水の水しぶきによって微かに濡れ、太陽の光りも相まって思わずひれ伏したくなるような美しい輝きを放っていた。


(綺麗だ……)


 その姿に思わず涼太が見とれてしまうほどの美しさだ。ナナがただの狼ではなく、この大陸を守り続けてきた神獣の子であるのだと言うことを改めて実感する。


 最も、当のナナは犬のようにだらしなく尻尾を振りながら真剣に噴水を眺めているのだが。






「2人共、ここに居たのか」


 ふと何処からか声が聞こえ、我に返った涼太がナナ共に後ろを見ればそこにはスピカが居た。その手には何やら紙が握られている。


「スピカちゃん!」

「スピカさん……どうしてここに?」

「少し騒ぎになっていたから、気になってな」


 スピカはそう言いしゃがむとナナの頭を優しく撫でた。ナナは嬉しそうに目を細めている。


 しばらく撫でた後、スピカはナナから手を離し立ち上がると涼太の方を見て、ふと、あること聞いた。


「涼太、どうして外に居たんだ?」

「あ……」


 そうだ、スピカに先ほどの出来事を全て話さなくてはならない。だがスピカは受け入れてくれるだろうか? 勝手なことをして、と怒られるだけなら良いが最悪だと強制的にこの街から出て行かせられる可能性もある。


 緊張して、心臓が痛いぐらいに高鳴る。どう説明して良いのか頭が真っ白になっていくのを感じる。だが、説明しないわけにはいかない。


(悩んでちゃ駄目だ、話さないと……!)


「スピカさん」

「どうした?」

「話があるんだ。どうしても話さないといけない話が」


 涼太は決意を固めると、不審そうにこちらを見つめるスピカにぽつり、ぽつりと何があったのかを話し始めた。


 話の中、スピカの表情は一切変わらない。怒っているのか、呆れているのかすら涼太には見当がつかなかったがそれでも精一杯に自分の意思を伝えた。これで駄目だったのなら仕方ない、全てを伝え終わった心の中でそう思いながらスピカの答えを待つ。


 そんな中、言葉より先にスピカの腕が動いた。殴られるかもしれない、怒られるかもしれないと思い目を閉じた……が、痛みは感じない、だが頭の方に違和感がある。目を再び開けてみれば、スピカが優しく頭を撫でてくれている姿が涼太の目に写った。


「……そうか。そう決めたのなら、私はこれ以上止めることは出来ないな」

「!」


 そう言うスピカの声は、何故かはわからないがどこか震えているような気がした。


「ただ、絶対に私より前には出ないと約束してくれ、それが条件だ。前に出てしまったら…………」

「スピカ、さん……?」


 最後の方の言葉はあまりにも小さな言葉だったので聞き取れなかったが、スピカはもう何も答えない。これで話が終わったと解釈したナナがスピカに優しくすり寄ってきた。


「スピカちゃん悲しい?」

「私が悲しんでいる所を、見たことあるか?」


 ナナはしばらく悩み……やがて無いと答えた。


「だろうな。魔女は悲しんだり、泣いたりはしない。この大陸において絶対的な強者、それが魔女だ」


 スピカの言葉をナナは理解しきれなかったのか不思議そうに首をかしげている。その姿をスピカはふわりと微笑みながら見つめ、その後涼太の方を見た。その顔は最初の方の表情と同じ、凛とした表情の顔だ。


「つまり、しばらくの間リエットの元に通うのだな?あの男の仲間に涼太を預けるのは癪だが……私も槍は飛ばす以外に使い方を知らんのだから仕方ない……涼太、もし危険だと感じたら逃げろ、それもまた賢い判断と言える」

「……ありがとう、スピカさん!」


 涼太はスピカに礼をすると、そのままナナの方を見る。


「ごめんね、ナナ。ちょっとやりたいことが出来たんだ。一緒に散歩は、また別の街でやろう」

「……わかった」


 ナナはどこか不満げだが、わがままは言わなかった。最も、今一番我が儘なのは涼太なのだが、それは涼太自身も理解している。


「リエットさんの所へ行って来るよ」

「もう遅いからなるべく早く帰るようにな」

「いってらっしゃい!」


 2人に見送られ、涼太はリエットから教えてもらった宿屋を目指して歩き出した。






「ここ、かな?」


 日が落ち始めた頃、涼太はリエットが泊まっていると思われる宿屋にたどり着いた。涼太達が泊まっている宿屋よりも少しだけ豪華な宿だ。


「涼太君、もう来てたっすか」


 どうしようかと入り口で悩んでいると不意に声がかけられた。涼太が声のする方を見ればそこには何やら荷物を抱えたリエットが居た。


「リエットさん、あの」

「わかってるっす。今部屋に案内するっすよ」


 リエットに招かれ、涼太は宿屋へと入る。宿屋は外見もさながら中身も立派だ。涼太達が泊まっている古い宿との違いを感じながら、リエットの後をついて行くとやがてひとつの部屋の前へたどり着いた。


「ここっすけど……ちょっと待って欲しいっす」


 リエットはそう言うと一呼吸おき、


「俺っす、友達連れてきたっすから警戒しないで欲しいっすよ……これで大丈夫っす、さ、中にどうぞっす」

「お、お邪魔します……」


 涼太は中に入った後、絶句する事となる。


「お客さん?」


 そう呟き、ベッドに座りながら首をかしげていたのは


 深い森を思わせる緑色の髪に、それと同じ色の瞳。そして髪や瞳の色と決定的に違う、人間とは思えないような薄い緑色の肌を持った14歳ほどに見える少女だった。

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