第31話【新米狩人、リエット再び】
「こんにちはーっす……って、あれ? 君は……」
お互いに顔を見合わせる。特徴的な話し方に、目立つ赤い色の鎧、緑色の瞳。どこかで見たことなあるはずなのだがなかなか思い出せない。それはあちらも同じらしく不思議そうな表情をしていた。
「……変なこと聞いて良いっすか?」
「は、はい」
「俺たち、はじめましてじゃないっすよね。でもどこで会ったのか思い出せない……そうっすよね?」
涼太が頷くとやっぱり、と男も呟いた。
「うーん、まぁ仕方ないっすね。改めて自己紹介をすればいいんすから。俺の名前はリエット、狩人っす」
「僕の名前は風祭涼太です。……今は旅をしています」
「旅っすか、偉いっすね……って……涼太?」
リエットは繰り返し、何度か涼太の名前を呟き……そして何かを思い出したかのように、目を見開いた。
「涼太ってもしかして、ハンデルの町で姐さんと一緒にいたあの涼太君っすか!?」
「ハンデル……あ!」
涼太はその時、ハンデルの町で出会ったリエットの事を思い出した。あの時は会話すらできなかったのだが、彼は見た目がとても印象的だった。
「思い出してくれたっすか!……あ、あの時倒れたっすよね、大丈夫だったんすか?」
「あ、あの時は疲れが溜まってたみたいで……」
本当は超能力が原因で倒れたのだが、リエットに超能力の事を話すのは気が引け、涼太は何となく答えをはぐらかせてしまう。
嘘をつく際、涼太の目が少し泳いだがリエットはあまり観察力が高くないのか、全く気がつかずに涼太の言い分をそのまま信じた。
「良かったっす、姐さんの為にもあんまり無茶しないで下さいっすよ?」
「あの、ちょっといいですか? さっきから姐さんって……誰の事ですか?」
涼太の質問に、リエットは意外だと言わんばかりの驚いたような表情を一瞬見せたが、すぐに元に戻った。
「あ、知らないんすね。スピカさんの事っすよ、そう呼んでいいかって聞いたら好きにしろって言ってくれたんで」
スピカらしい回答だと涼太は思った。ただ、この回答のときのスピカは答えを考えるのが面倒な時や、どうでもいいと思っている時がほとんどなのだと言うことも涼太は知っている。
「おーい!ボウズ!」
リエットと何気ない会話をしていたその時、鍛冶屋工房の方から、騒がしい音を掻き消すような響く声が聞こえてくる。慌てて声のする方を見れば笑顔のディンゴがこちらに手を振り、その後歩いてきた。
「ディンゴさん、もしかして……」
「おうよ!今親方と話をつけてきたぜ!それがよ……この槍をじっくりと調べてぇって言うんだ。それを条件にこの槍を直す為に工房を使えるようにしてやるってよ。どうする? ボウズ」
「……槍の事はお任せします。だから、お願いします」
「おう!じゃあそう伝えておくぜ!」
「あ、待ってください!」
ディンゴはそう言うとそのまま工房の方へと姿を消そうとするので、涼太は慌ててディンゴの服の裾を掴み止めた。
「どうした、ボウズ」
「あの……お金……」
何事かと神妙な顔をしていたディンゴは涼太の話を聞いてそんな事かと言い大笑いした。
「金はいい、俺からの奢りだ、ボウズの武器を作るのは俺だってあの日の約束もあるしな!」
「あ……ありがとうございます!」
ディンゴは笑いながら工房の方へと消えていく。その様子をリエットは後ろからじっと見つめ……ディンゴが完全にいなくなった後、口を開いた。
「涼太君、槍を使うんすか?」
「はい。少しでも戦えるようになりたくて」
涼太の答えに対し、リエットの表情は苦い。
「うーん……俺の仲間に槍使いが居るんすけど、槍を使えるようになるまで本当に苦労してたんすよ。本当に大丈夫っすか?」
リエットの仲間に共に旅する槍使いがいるらしい。その人がそう言うのなら、自分が進もうとしている道は間違っているのではないか。そんな事をぼんやりと思いながらも涼太はしっかりとリエットの方を見つめる。
「……それでも、僕はやるつもりです」
間違っていたとしても、突き進む。涼太の決意に満ち溢れた表情を見て、リエットは心配が杞憂だった事を知り、表情も柔らかくなる。
「そうっすか、なら止めないっす。俺達はこの街で仕事があるんでしばらくの間はこの街の入り口に一番近い宿屋に居るっす。何か聞きたいこととかあったらいつでも聞いて欲しいっすよ、じゃ、俺鍛冶屋に用事があるんで」
「あ、ありがとうございます!」
リエットはそう言うと鍛冶屋の奥へと入っていったので、涼太はリエットに礼をして、入れ違いになるように鍛冶屋を出た。
鍛冶屋を出た涼太は宿屋へと戻る道を歩きながら、スピカにどう説明しようか悩んでいた。元々、槍を直すことすら反対だった上に、つい勢いで3日もここで滞在することになってしまった。
(スピカさん、怒るだろうなぁ……)
怒っている姿を見たことはないが、その姿を想像するとまるで鬼のようなスピカが思い浮かび、恐怖で武者震いしてしまう。そんな風に考え事をしていたからか、前から来る存在に涼太は気がつかなかった。
「涼太君!」
「……へ? 痛っ……」
何かが足に体当たりしてきた。涼太が足元を見ると、そこにいたのはナナだった。まるでじゃれつくように足元にまとわりついている。
「あ、ごめんね、涼太君。大丈夫だった?」
「大丈夫だけど……どうしてここに?」
「暇ーってレーゲンに言ったら出してくれたの!」
あのスピカがナナを外に出すとは思えない。ナナはひとりで扉を開けられないのでレーゲンに手助けしてもらったのだろうかと涼太が思っていると案の定そうであった。
ナナは嬉しそうに尻尾を振りながら跳ねるように涼太の周りをくるくると回っている。
「ねぇ涼太君。一緒にお散歩しよ?」
「……うん、いいよ」
予想外の出来事であったが、折角の久しぶりのナナと2人きりの時間を涼太は満喫することにした。




