第23話【翼の友達】
「こ、こんにちは……」
3人のハーピー達は声一つ出さずにこちらをじっと見つめている。
目に傷を持つハーピーは大きな槍を持っており、それに威圧を感じながらも涼太はその目線に対してどうしていいのかわからずとりあえず、挨拶をしてみた。
「どうしたの? ……あ、こんにちは!」
異変に気がついたナナも後ろを見て、ハーピー達の存在に気がついたのか、挨拶をした。
「ピィ」
彼らの中で一番小さく、3人の中で唯一少女のハーピーはナナに目線を会わせるようにしゃがむと挨拶をするように鳴く。
その様子を見ていた少女の後ろにいる傷と、他のハーピーとは違い黒い羽を持つ少年の2人も真似をするように涼太の方を見つめ、ピィと鳴いた後、羽を動かし始めた。
「えっと……」
何かを伝えたいのか、ハーピー達は必死にバサバサと羽を動かしているが、涼太には何がなんだか全くわからかった。
スピカかレーゲンを頼ろうとちらりと後ろを見たが、困った事に2人は言い合いを続けており、とても話しかけられる状態ではない。
煮え切らない涼太の態度に痺れを切らしたのか、黒羽のハーピーは涼太の後ろに回ると、そのまま凄まじい力で涼太の背を押した。涼太は踏ん張りながらも前へと押されてしまう。
「もしかして、ついてきて欲しいのかな?」
「へ? そうなのかな……」
ナナの言うとおりなのか、涼太はじっとハーピー達のしぐさを確認する。彼らは時折こちらを確認しながら先へと歩き出そうとしていた。
「……そうみたいだね」
「ねぇ、ついていってみようよ!」
ナナは一度言い出すと聞かない、スピカに迷惑をかけてしまうかも知れないと思いつつも仕方なく涼太はナナと共にハーピー達の後を追った。
ハーピー達の後ろについて森をしばらく歩けば、やがて開けた花畑にたどり着いた。
「わぁ……!綺麗だね!」
「……うん、僕もこんなの初めて見たよ」
その花畑は、まさに圧巻だった。
熱帯の暖かな気候によって、花は色鮮やかに赤、黄、オレンジ、白のそれぞれの色を誇っており、美しい花が開けた場所一面に咲き誇っている。
ハーピーの少女は嬉しそうに花畑の中へと拙い足取りで駆けていく。黒羽と傷はその後ろ姿を見つめるだけで花畑には入ろうとしなかった。
「入っていいのかな?」
ナナは花畑に入るのが待ち遠しいのかそわそわしている。そんなナナを見た少女は花畑の中央へと移動しており、こちらに手招きした。
「行こ、涼太君!」
「え、ちょ……待って!」
ナナに押され、花畑へと入ってしまう。ハーピーの少年が花畑に入らなかったので、男は入ってはいけなかったのではと涼太は思っていたのたが、彼らは涼太が花畑に入っても無反応だった。
ナナと共に花畑の中央へと歩みを進める。少女は嬉しそうに羽をバタつかせた。
「何して遊ぼっか」
「うーん……そうだ!ちょっと待ってて」
涼太はそう言うと花畑にしゃがみ、よさげな花を1輪ずつ引き抜いてはなにかを作り始めた。
少女とナナの不思議そうな視線を諸ともせず、涼太が作り上げたのは色とりどりの花で出来た花冠だ。その花冠をまずは少女の方へと渡した。少女は受け取った花冠を不思議そうに見つめるだけで、頭にのせようとしない。
「こうやって頭に被るんだよ」
少女は涼太から花冠を頭に乗せてもらい、少女は上機嫌にピィと鳴いた。
(まさか母さんから習った花冠が、こんなに喜んでもらえるなんてなぁ)
微笑ましく少女を見つめていると、ナナが羨ましそうにしていることに気がついた。
「いいなー、涼太君、私のも作って!」
「いいよ」
涼太はそう言い、再び花冠を作り始めようとしたその時だった。
ズシン、ズシンと何やら地響きのような鈍いおとが聞こえてくる。
「揺れてるねぇ」
「地震?ねぇ、だいじょ……」
呑気そうなナナはともかく、少女が無事か涼太が見た時、少女が地響きに明らかに怯えていることに気がついた。
少女だけではない、花畑の外に居た傷と黒羽も地響きを強く警戒しているように見える。
「ピィ!」
慌てたように傷が鋭く鳴いた。少女も慌てて花畑から離れる。これはただ事ではないと涼太達も判断し、5人は急いで村へと戻った。
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涼太達がハーピー達と交流していた頃、スピカは族長の家という名の木の上にに上がっていた。その隣にレーゲンの姿はない。
スピカが上がった後、若長は族長を呼びに行くと言いどこかへ行ってしまった為、今ここに居るのはスピカだけだ。
1人になり、ふとここに来る少し前から姿が見えない涼太とナナの事が気になったが今は自分がこなすべきことをする必要がある、と心を無理矢理落ち着けた。
(鞄を盗んだアイアイの事は勿論……精霊の事、あの文明で鉄製の槍……気になることは山ほどあるな)
そんな思考の中、不意に羽ばたきが聞こえてきた。2人が上を見れば若長と、年老いているものの、力強く羽ばたく族長らしきハーピーが木へと降りてこようとしていた。
「すまない、待たせた」
「ようこそ翼の村へ」
木に降りた二人はそれぞれそう言った。若長は族長をここまで連れてきた後、そのまま話には参加せずに飛び立った。
「わざわざすまないな、私の名はスピカ。スピカ=アークスルツだ」
「スピカか……スピカよ、私達ハーピーには固有の名前が存在しない故に名乗ることが出来ない。たが、名が無いというのは外では不便なのだろう? だから私の事は『鷹』とでも呼んで貰えたら結構だ。昔人間にそう呼ばれたのでね」
まだ言葉使いが拙い若長とは違い族長は外の人間とほぼ変わらない口調で、スピカは思わず感心した。
「ところでスピカ、聖なる森を探索したいと息子から聞いたのだが、理由は何だ?」
「実は……連れがアイアイ……猿に鞄を取られてしまってな。追いかける内にこの森へとたどり着いてしまった」
ふむ……と鷹は呟くとこくんと頷いた。
「確かに、この森には昔から外のものを集める習性がある猿がいる。毎年拠点を変える生き物で、今何処に居るのかはわからないがこの森から離れることはないはずだ。聖なる森への立ち入りを許可しよう」
そう言い、族長はにこりと笑った。強面からは想像もつかないほど人懐っこい笑みだ。
「すまないな」
スピカはそう言うと、ふと自分が聞きたいことを思い出した。この状況で聞くかは悩んだがタイミングを逃せば次はないかもしれない、それなら掴むべきだと判断した。
「ところで、聞きたいことがある」
「何かね?」
「私達をここへと導いた存在……聖蛇はこの地を守る精霊だと聞いた。精霊召喚はこの世界から失われたはずの魔法。ハーピーはまだ精霊召喚が行えるのか?」
皆を守るために少しでも強くなりたい。その為には失われた魔法を知る必要があるとスピカは判断していた。
「……精霊様は私が生まれるずっと昔からこの地を守護し続けてくれた。魔法だとか、召喚だとか、私はそう言うのはさっぱりだ」
鷹は申し訳なさそうにそう答える。スピカの望む答えは得られなかったがその様子に嘘はついていないとスピカは判断した。
「そうか、すまないな」
スピカがそう答えた瞬間、羽ばたく音が聞こえた。辺りを見渡すと若長が再びやって来た。
「旅人、君の小さな仲間が、帰ってきた。何やら慌てているようだ」
「何?」
「行ってあげなさい、話はそれからでもいいだろう」
ナナと涼太に何かあったのだろうかと不安になるスピカの心を察したように鷹は告げる。
スピカは軽く礼をした後、木を器用に降りていった。




