第22話【翼の民、ハーピー族】
明らかに雰囲気が違うハーピーの若い男が姿を表すと、回りのハーピー達が鳥のような声でざわつき始めた。それはこちらを警戒しているというよりも、彼の登場に困惑しているように見える。
その威圧感はハーピーだけでなく、涼太達にも伝わってきた。緊張が走る中、一番最初に口を開いたのはスピカだった。
「……お前が、長か?」
若い男のハーピーはこくんと頷く。
「……外から来た旅人よ、この地に何用だ?」
どうやらハーピーの長は他のハーピーと違い言葉が話せるらしい。
長の言葉にレーゲンは慌てて答えた。
「それが……俺の鞄を猿に取られちまって……見てないか? こんなのなんだけど……」
レーゲンはそう言うと、木の棒を使い慌てて地面に鞄の絵を描いた……が、長は何も答えず、表情は固い。
(このままじゃ、戦闘になっちゃうな……どうしたら……)
涼太はどうにかして、ハーピー達との戦闘を避けたかった。妖魔の時もそうであったが、人に近い形の相手をするのはやはり怖い。
何か回避することはできないか、と思ったその時……涼太は聖蛇の言葉を思い出した。
『それは我が一部、それをこの先の者達に見せよ』
(もしかして……)
涼太が慌てて鞄を漁ると、鞄の奥底で水晶片がキラリと輝いた。涼太は鞄から水晶を取り出すと意を決して、先頭に立つスピカとハーピーの長の間に割って入った。
「涼太!?」
スピカの驚いた声が聞こえたが涼太はその声を無視し、しっかりとハーピーの長と向き合った。
長の鋭い目は鷲を思わせる。涼太はその目に思わず震え上がりそうになったが、ぐっと堪え、長に水晶片を見せた。
彼の表情が、変わった。
「それを、どこで?」
「これは、聖蛇から貰ったものです」
精霊様から……と長は呟いた。何かを酷く悩んでいるようだ。自分の意思を伝えるなら今しかない。
「僕達に戦おうという思いはありません!」
涼太は叫ぶように伝える。長は声に少々驚きつつも、涼太を羽で手招きした。
「……それを、こちらへ」
長の言う事に従い、涼太は水晶片の一つを長に見せる。
彼はしばらく水晶片を見つめ何かを確信したかのように頷いた。
「間違いなく、精霊様のもの。旅人よ、無礼を詫びよう」
「わかってくれてありがとう」
長は口でそう伝えただけだったが、涼太にはしっかりとその気持ちが伝わり、自然と笑顔になった。
「わかったのなら、包囲を解いて貰えないか?私達はこいつの荷物を探さねばならなくてな」
スピカはそう言うと杖でレーゲンを指す。長は言いがたいのか一瞬苦い表情になった。
「旅人よ、それは出来ない。この森は聖なる森。我らの族長の許可がなければ立ち入ることを許されない」
「ならばお前が今すぐ許可を出せばいいだろう」
「それも出来ない。私は若い長。族長から許可をもらう必要がある」
「族長? お前の事じゃないのか?」
「私は、若い長。族長は、私の父親だ」
「な、なぁ! そのお前の親父って何処に行けば会えるんだ?」
聞かれたことしか答えない焦れったい会話にレーゲンが乱入してくる。若長はレーゲンの方を見るとただ「村に」とだけ呟いた。
「それはどこにある?」
若長は今度はスピカの方をしっかりと見つめる。
「今教える。だが、その前にやることがある」
若長はそう言うと空を見上げ、ピィ! と空を裂くような鋭い声で鳴いた。すると近くで待機していたハーピー達がまるで命令されたかのように次々と飛んでいく。
先程、トカゲを仕留めた彼女だけはそそくさとトカゲを回収してから飛び立ったようだ。
「今の、何したの?」
「皆に警戒を解かせた。さあ旅人よ、こちらへ」
ナナの質問に若長は軽く答えると、森の中の道を歩いていく。4人は若長の後をついて行った。
涼太はこの森に深く入って、一つわかったことがある。ここは最初の森や水晶の洞窟の前に入った森と比べとても蒸し暑い。そのせいか、森の植物も日本では見られないような南国風の色鮮やかな植物ばかりだ。
涼太がちらりとスピカを見れば、普段とは違い辺りをかなり警戒しているように見える。
「な、なぁ……村ってどこにあるんだよ……」
「もうすぐだ」
時おり聞こえる聞きなれない奇妙な獣の声にすっかり弱気になってしまったレーゲンは、早く村につかないかと若長を急かしたが彼には通じなかったらしい。
「ここだ、ついたぞ」
やがて、若長が足を止める。この森にある村とは、どんな所なのかと涼太達は周囲を見渡す。
そこにあったのは
家らしき影が何一つ無い、背の高い木が円状に並ぶ場所だった。
木が生えていない場所は広場になっており、そこでは女性のハーピー達が何やらしているようだ。辺りには生臭い臭いが漂っていたがナナは対して気にしていなさそうだ。
「ここが……村?」
さすがのスピカもこんな村は見たことがないのか困惑を隠せない。
「あ、見て!」
ナナがふと、上を見上げ叫ぶ、3人が上を見ると1人のハーピーが木の上へと飛んでいく姿が見えた。
「なるほど……あの木が家の代わり、か。」
「本当に不思議な生活してんな……」
「私達から見たら、地面で暮らす者達は不思議に見える」
「そっか……そうだよね」
ハーピーと人間では常識が違うのだ。涼太はその事を改めて認識し、頷く。
「私の家はあれだ、まずは話がある。たどり着くには木を登るか飛ぶ必要があるが木は登れるか?」
「私は大丈夫だがナナは無理だ。涼太は?」
「え……僕も無理かな」
涼太も木に登ったことは無い。それよりも涼太はスピカが木に登れるという事実に驚いた。
「なら、私一人で行こう」
「木ぐらいなら、俺も登れるけどー?」
「お前はいらん」
「えー……それちょっと酷くない?」
レーゲンとスピカが言い合いをはじめてしまい、若長は困惑したように2人を見つめている。
そんな光景をナナと共に眺めていると、ふと、羽のようなふわふわの何かが後ろから涼太の腕をくすぐった。
「だ、誰?」
涼太が後ろを振り向くと、そこにいたのは
涼太達を好奇心旺盛そうに見つめる、涼太と同い年ぐらいの3人のハーピーだった。




