第21話【古代の森―Ancient forest―】
暖かな気配が包む中、涼太は目を覚ました。既に日の光で辺りは明るく照らされている。硬い地面で寝たせいで痛む体を起こし周囲を見るが仲間たちの姿以外は見当たらない。
そんな中、スピカが涼太が起きた事に気がついたらしく涼太の方へと歩んできた。
「起きたか、涼太」
「おはよう、スピカさん」
スピカと涼太のやりとりに気がついたのかナナも涼太の元に駆け寄ってきた。
「涼太君おはよー!」
「ナナもおはよう」
ドスン、とナナは涼太に体当たりをしてくる。ナナの固い毛の感触を感じながら、ふと周囲にレーゲンの姿が見えないことに涼太は気がついた。
「あれ、レーゲンは……」
「あいつなら私のナイフを勝手に使った罰として、周囲の見回りに出した」
「そ、そうなんだ……」
あれだけスピカにはバレないとレーゲンは豪語していたのにも関わらず、結局バレてしまったようだ。涼太は乾いた笑いしか出てこなかった。
「……?」
ふと、ナナが首をかしげた。
「どうした?ナナ」
「何か来る」
ナナがそう言うと、突然ガサガサと茂みが揺れた。3人は音に反応し、揺れる茂みを警戒する。
すると、茂みの中から慌てた様子でレーゲンが飛び出してきた。
「なんだ、お前か」
スピカは警戒して損したと言わんばかりの、げんなりとした表情を見せたが涼太はレーゲンの慌てぶりから何かを見つけたのではと思った。
「どうしたの?レーゲン」
「そ、それが……」
レーゲンが何かを言おうとしたその時、再び草むらが激しく揺れ……
「ギィィ!」
小さな生き物が雄叫びと共に勢いよく飛び出してきた。
それは、中型犬ぐらいの大きさの生き物だった。緑色の鱗に覆われた4足歩行の体はトカゲを彷彿とさせるものの、その体には赤色の奇妙な模様があり、背中には大きな黄色い背鰭がある。
トカゲのような生き物はギョロりと黄色い爬虫類の目でこちらを睨み付けてた。
「げ、もう追い付いたのかよ!」
「お前……あんなものをよくも連れてきてくれたな」
スピカは、レーゲンへの怒りもそのままにトカゲの方を見る。トカゲは一切緊張しておらず、そのままスピカを睨み返している。
一方レーゲンはスピカとトカゲが睨みあっている間にこっそりとスピカの後ろへ移動した。
「スピカさん、あの生き物は……」
「知らん、あんな生き物は見たことない」
涼太の質問に対しスピカの回答は意外なもので、涼太は驚いた。今まで沢山の事を教えてくれたスピカにもわからないことがこの大陸にはあるらしい。
「あの様子では、どのみち倒すしか無いだろうな」
「……ギィ」
スピカが杖を構えるとトカゲもこちらを敵と認識し、戦闘態勢に入る。
周囲が緊張に包まれた次の瞬間
ヒュンと風を切る音が聞こえ
「ギィィィィ!」
ドスンと、1本の粗末な槍がトカゲの体を貫く。
体を貫かれたトカゲは断末魔をあげると涼太達の目の前ですぐに絶命した。
あっという間の出来事に、涼太達は呆然と立ち尽くすことしか出来ない。
「いったい何が……」
「涼太、ナナ!上だ!」
スピカは素早く、槍の主の存在に気がつき上を見ている。涼太達も確認するように上を見るとそこにいたのは人間に近い姿の存在だった。
「な、なぁあれってもしかして……」
レーゲンが何かを言おうとした次の瞬間、バサリ、とそれが羽ばたく音が聞こえ……それはトカゲと涼太達の間に割り込むように地に降りた。
一見するとそれは人間の姿をしているように見える。だが腕があるはずの場所と腰の辺りには茶色の羽が、人間の足がある場所には鳥の足、そしてそれの顔つきは険しいながらも、どことなく柔らかさがあり顔だけ見れば女性の様にも見える。
そして何よりも特徴的なのは葉を編んで作られたと思われる最低限しか隠されていない原始的な服だ。羽の動きが阻害されないように出来ている様に思える。
その姿を、涼太は言葉に表せないほどに美しいと感じた。
不思議な存在はトカゲを貫いた槍を鳥の足で器用に引き抜き、そこでようやく涼太達の存在に気がついたのか動きを止め、こちらを見つめた。
「ハーピー族? まさかこの森に住んでいるのか?」
「やっぱあれハーピーか? ……街に居る奴等よりずっと野生っぽいんだな」
「鳥さん? それとも人間?」
「ハーピー……?」
スピカとレーゲンはハーピーの存在を知っているようたが、ナナは首をかしげ、涼太もハーピーの名前すら聞いたことが無い。
「ハーピーってのは……まぁあんな風な奴らだな。俺もエウペルに来てからしか見たことないけど」
「そうなんだ……」
「私、あんな人たちはじめて!挨拶してくる!」
ナナが嬉しそうにハーピーに近づいた次の瞬間、彼女はこちらを強く睨みつけてきた。その表情の変わりようにナナは驚き、慌てて涼太の後ろへと隠れる。
「歓迎はしてくれないらしいな」
スピカがそう呟くと、ハーピーはこちらを睨み付けたままバサリ、と空へ舞い上がり……
「ピイイイイィィィィィィ!」
鳥と人の声が混ざったような、奇妙で耳障りなハーピーの声が森中に響き渡った。
「な、何だ!?」
「ちっ……」
レーゲンは驚いて周囲を見渡し、スピカは舌打ちをした後、来るべき敵に備え武器を構えた。
「な、何が起こってるの?」
涼太が困惑する中、ナナが涼太をじっと見つめ、話しかけてきた。
「……ねぇ、涼太君」
「な、何?」
「森が怒ってる」
「……へ?」
森がハーピーの声に反応するようにざわざわと揺れ始める。急激に訪れた森の異変に4人が警戒すると、森のざわめきに紛れるように、遠くから鳥の羽ばたきのような音が聞こえてきた。
「な、な……何だよこれ!」
レーゲンが驚くのも無理はない、この羽ばたきはこちらへ向かってくるハーピー達の物。1人、また1人とハーピー達がこの場所へ集まってくる。
やってきたハーピー達は性別も歳もバラバラだったが、皆原始的な服を身に纏い、足には粗末な槍が握られていた。
「……やはりか」
「やはりかって……まさか……」
「どうやら排除するべき敵と判断されたらしい。何があっても気を緩めるな」
「うん……」
正に一触即発の危機に落ちいってしまった中、1人のハーピーがこの場所へやってきた。
そのハーピーは男で、他のハーピーとは違い、爪や牙で装飾を施している。
彼は他のハーピー達のように敵意を見せず、ただこちらをじっと、見つめていた。




