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【消えた作品】  作者: 風花
第3章【森のお猿にご注意を】
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第20話【夜の密談】

 夜遅くになって、涼太はふと目を覚ました。

 辺りを見渡せばうずくまり眠るナナと木に寄りかかり浅く眠るスピカ、そして焚き火の明かりを頼りに木の皮らしき破片をナイフで削るレーゲンの姿があった。


(何してるんだろう……)


 こちらの視線に気がついたのかレーゲンは破片を削るのを止め、涼太の方を見た。その表情は申し訳なさそうにしている。


「わりぃ、起こしちまったか」

「……ううん、気にしなくていいよ」


 どのみち、今日はあまり深く眠れなかった。涼太は体を起こし、立ち上がるとレーゲンの隣へと座った。


「何してるの?」

「ん? あぁ、これか。暇だからスピカから勝手にナイフを借りてちょっとな」

「また怒られるんじゃ無いかな……?」

「大丈夫だって」


 俺って器用だからさ、とレーゲンはにかっと晴れた顔で笑った。その笑顔は整った顔立ちからは想像もつかないほど豪快なものだ。


「今レーゲンが作ってたのって何?」

「ん? これか。これはだな、昔からある人形……というか置物のひとつでポプって名前だ」


 レーゲンはそういうと涼太の前に先ほどから彫っていた物を差し出した。


 涼太が受け取った木彫りはまだ彫る途中ではあるものの、まるでトーテムポールの模様のようなものが彫られ、その表情も面白おかしい表情をしている。その木彫りは服のようなものを着ており、それは今のグランバースよりも、もっと古い時代を感じさせた。


 最も涼太には気味の悪い木彫りにしか見えなかったようで、何とも言えない気分になってしまったようだ。


「……あんまり好きじゃ無かったか?」

「あ、ううん。そんな事ないよ。ただ見たこと無い感じだったからさ」

「……あーね、そう言うことか。まぁ俺も小さい頃はそれ怖かったしな、仕方ねぇよ」


 何かを勘違いしたのかレーゲンは悪かったな、と一言言ってポプを涼太から受けとると、そのまま自分の隣に置いた。


「ねぇ、ポプってチュラ公国の?」

「ん? んー……チュラのって言うか、チュラに居る海の民のだな」

「海の民?」


 さっきから質問ばっかりだなとレーゲンは笑ったが、その表情は呆れているというよりも微笑ましいものを見ているときの笑顔のように見える。

 レーゲンはそのまま答え始めた


「海の民ってのはチュラに昔から……それこそ、チュラ公国が出来る前から居る人達だな。海と共に生きて、死ぬ。俺達とは文化も言葉も違う不思議な奴らさ」

「そんな人達が居るんだ……」

「実は俺の母さんも海の民でさ、俺がポプを知ってるのも母さんから習ったからなんだよな」


 そう言い、レーゲンはふわりと得意気に微笑んだ。


「海の民だったお母さんから……」

「まあな、正に海の女って感じでさ、今思うと俺の母さんは気のキツイ人だったな~」


 母親の事を思い出し、懐かしむレーゲンを見てふと、涼太は自身の母親を思い出した。離れて1週間ほどしか経っていない筈なのにこちらで色々とありすぎて、もうずっと前から会えていないような気がする。


 涼太の表情が少し曇ったのをレーゲンは見逃さなかった。とっさに何の話題を出すか考え、ひとつの答えを導きだした。


「なぁ涼太、さっきから俺ばっかり答えてるし……お前にも何か聞いていいか?」

「へ、うん。良いよ」


 涼太が返事をすれば、レーゲンはニヤリと意地悪な笑みを浮かべた





「よし、じゃあ……そうだな。……なぁ涼太、ぶっちゃけお前……ナナの事好きだろ」

「な……!」


 涼太の表情が暗いものから、驚いたような恥ずかしいような、そんな表情に変わっていく


「お、その顔もしかして当たりか!? って……あ、ちょっ……いてっ、いたたた、やめろって」

「……あ、ごめん!」


 涼太は超能力で無意識に周囲の小石をレーゲンに投げつけしまったようで……

 ちょっと意識をすればすぐに超能力はおさまった。


「ったく……気を付けろよな」

 そう言いレーゲンはわざとらしく怒ったそぶりを見せた。これは本心は怒ってないな、と涼太でも何となくわかるぐらいにわざとらしい仕草だ。


 本当に人形とは思えないほど、レーゲンは表情豊かだ。面白くてつい目で追ってしまう。


「……何で俺の顔をじっと見てるんだ?何かついてるか?」


 ふと、レーゲンが不思議そうな表情になる。涼太は彼に、思ってることを素直に伝えることにした。





「さっきから、レーゲンの体が人形とは思えなくて」


 魔命族という言葉の物々しさからは想像つかないほど、レーゲンは人間らしいと、先ほどから涼太は感じていた。常に淡々として冷静なスピカや、どこか浮世離れしたナナとは大違いだ。


「やっぱり? ……この人形って親父の工房にあったやつだからやっぱり親父が作ったんだと思うんだけど、親父にこんな技術あったのかってぐらい精巧な造りなんだよ。一応材質は木だけどな、触ってみればわかるぜ」


 そう言い、レーゲンは涼太の腕をつかむと、無理矢理もう片方の手をを触らせた。手は色が塗られていたために柔らかそうに見えていたが、触れば木のように冷たく固い。


「不思議そうにしてるな」

「うん、あんなに柔らかく動くのに、触ると固い」

「俺も最初はそう思ったけど、後にそういうものなんだって思うことにしたんだよな。この体って飯も食わなくていいし、眠くならねぇから寝る必要もなくて実は結構便利なんだよな」


 そうなんだ、と涼太は返した。レーゲンの指はしなかやかに動くが触ると固い。なんと不思議な現象だろうか。しきりにさわった後、涼太はレーゲンの手を離した。


「ありがとう」

「あのぐらい、お安いご用って事よ」


 そう言い、レーゲンは得意気に笑った。

 涼太から見ればレーゲンは非常に明るくて優しい、兄のような青年だ。そのレーゲンがどうして死んだのか、ふと涼太は気になってしまった。


「ねぇ、レーゲン」

「ん?」

「レーゲンはどうして死んだの?」





 その時、レーゲンの表情が固まった。しばらくの沈黙の後、レーゲンはようやく動き出した。


「あー……わりぃ、実は……忘れた」

「わ、忘れた!?」

「あ、あぁ。死ぬ前の事、実は曖昧なんだよ。考えると何だか頭が……眠くて……」


 レーゲンはそのままその場に倒れるようにして横になった。


「レ、レーゲン? さっきその体は眠くならないって」

「……そうだっけか?……何か久しぶりに寝る気がする……おやすみ」

「お、おやすみ……」


 何か悪いことを聞いてしまったのだろうか。明日になったらレーゲンにきちんと謝ろう。涼太はそう思いながらレーゲンの隣で再び眠りについた。





「……言えるわけ、無いだろ」


 涼太が再び眠りについたのを確認したレーゲンは起き上がった。その表情は正に無表情だ。


「悪いな、教えてやれなくて。でも俺はお前を怖がらせたくないんだよ」


 涼太の頭を優しく撫でる、それは謝罪の意味が込められているようにも見えた。


「さてと……さっきの奴、スピカが起きる前に終わらせるか」


 レーゲンは気合いを入れ直すと、作業へと戻っていった。

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