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【消えた作品】  作者: 風花
第3章【森のお猿にご注意を】
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第19話【新たな場所へ】

 巨大な蛇はゆっくりと体を動かし、頭部をこちらへと向けている。その水晶に覆われた頭部に目はらしきものは無く、こちらの姿を認識しているのかさえ怪しい。


「で、出たぁぁぁ!化け物!」

「こんなのが地下に……地震の原因はこいつか」


 レーゲンの叫び声が響き、スピカは蛇を見据え杖を構えると涼太達を守るように前へと出る。

 そんな中、涼太はこの蛇が自分達をここに呼び寄せたのだと何となく感じ取っていた。


「涼太君、どうしたの?」

「……あの蛇、もしかしたら僕たちの敵じゃないかも知れない。ちょっと近くに行ってみる!」

「な……!待て、涼太!」


 スピカの驚いた声が聞こえたが涼太はその声を無視して蛇へと近づく。

 蛇はゆっくりとした動きで涼太達の方を見た。


「君が、僕たちを呼んだの?」

「……」


 蛇は涼太の問いかけに対し、なにも答えようとしない。


「涼太!」


 そんな中、スピカが慌てて走りよってきた。スピカは即座に涼太と蛇の間に割り込むと杖を構えた。


「無事か? 相手は正体がわからない、気を緩めるな」

「す、スピカさん……」


 涼太は驚いたようにスピカと蛇を交互に見つめる。スピカは蛇を警戒しているが、その蛇は神々し過ぎて大人し過ぎるような気がした。


『……魔女よ、我は人の子に害を与えぬ』


 スピカの言葉に答えるように、あの声が響いてきた。やはりあの蛇が謎の声の正体だったのだと涼太は確信した。


『我が名は聖蛇(せいじゃ)、この先の聖域を守護せし精霊だ』

「……精霊だと?」


 スピカは驚いたように聖蛇を見つめる。その目は有り得ないものを見たと言わんばかりだが、それでも警戒は緩めていないようで涼太を庇うように立ったままだ。

 聖蛇はスピカには興味がないと言わんばかりに語り始めた。


『外から来た人の子よ、我が聖域に何用だ』

「えっと……」


 涼太はチラリと後ろに居るレーゲンを見た。本当ならばレーゲンが説明するべきなのだろうがレーゲンは恐怖のあまり固まっていて話せる状態ではない。


「僕の名前は風祭涼太、僕の仲間、レーゲンの鞄をアイアイに盗られてしまって……それでアイアイを追ってここまで来ました」

『その言葉、嘘偽りは有るまい?』


 それは、圧倒的な威圧感だった。聖蛇には目が無いのだがまるで睨まれているような感覚を覚えたる。


「……はい」


 それでも涼太は怯まずに聖蛇を真っ直ぐ見つめた。心を込めて伝えれば、必ず伝わると思ったから。聖蛇は涼太をしばらく見つめた後、理解したように頷いた。


『その言葉偽り無し、この先を通ると良い』


 聖蛇はそう言うと体を動かし道を空けた。聖蛇の体の向こうに新しい道がある。


「……何故嘘をついていないとわかった」

『この地に光る水晶こそ、我が目の代わり』

「悪趣味な、最初から監視していたと言うわけか」

「水晶が目って、僕達水晶を……大丈夫だったんですか!?」


 スピカと聖蛇の会話を聞いた涼太は不味いことをしてしまったのではと冷や汗を流したが、聖蛇は全く動じてはおらず、ただ


『目の代わりは目に非ず』


 とだけ告げた。涼太がその言葉の意味を理解する前に聖蛇は突然、頭部の水晶を逆立てた。水晶同士が擦れ、激しい音が鳴り響く。


『人の子よ、お主にこれを授けよう』


 そう言うと、涼太の目の前に何かがふわふわと光に包まれ落ちてきた。涼太はそれを両手で受け止める。

落ちてきたのは、完全に透明な小さな4つの水晶片だった。


「これは……」

『それは我が一部、それをこの先の者達に見せよ』

「あ、ありがとうございます……」


 涼太は鞄に水晶片をしまい込む。その間に、スピカは聖蛇を真っ直ぐ見つめ問いかけた。


「……精霊よ、お前はいつからこの世界に居る?」

『我に時の流れは無意味、無価値』

「……そうか、聞いて悪かったな」


 スピカの問に聖蛇は歌うように答える。涼太にはその言葉の意味がわからなかったが、スピカにはその答えで十分だったようだ。


「涼太君!蛇さんとのお話終わった?」

「ナナ、うん。もう僕は終わったよ。スピカさんは?」

「……私ももういい、先へ進もう」

「……そう言えば、レーゲンは?」


 涼太達が後ろを見ると、レーゲンはまだ聖蛇に対して怯えていた。


「いつまでぼーっとしてるんだ、置いてくぞ」

「そ、そう言ってもだな……こいついきなり襲ってこねーよな……」


 レーゲンはそう言い、立ち上がると恐る恐る聖蛇の横をすり抜け、涼太達の後を追いかけた。







 聖蛇の後ろにあった道を進み、ようやく4人は外へと出ることが出来た。外は洞窟に入る前と同じく森が広がっており、既に日が沈み始めている。


「森、洞窟ときてまた森か。本当森が多い国だな」

「エウペル王国は土神の加護がある国だからな。チュラ公国にも水神の加護があるだろう? それと同じだ」

「……そんなもんか?」

「そんなものだ」


 スピカは話を切るようにそう言うと何かを探すように辺りを見渡しはじめた。涼太はスピカの手伝いをしようとスピカの隣に立つ。


「スピカさん、何を探してるの? 僕も手伝うよ」

「いや……寝れる場所を探そうと思ってな……」

「寝るって……まさか野宿か!?」


 驚くレーゲンに対してスピカは心底呆れたような表情をしている。


「野宿以外何が出来る。有るともわからぬ村を探すつもりか? それとも、夜の森を歩いて獣の餌にでもなるつもりか?」

「……まぁ、仕方ねぇのか……」


 レーゲンはショボくれているが涼太も野宿は初めてなので、少し怖いというのが本音だった。不安そうな涼太に、優しくナナが寄り添った。


「私も野宿は初めてだけど……きっと、一緒に寝れば怖くないよ」

「う、うん……ありがとう、ナナ」


 ナナの顔を見れば、涼太は自然と笑顔になった。それはナナを心配させたくないという思いなのか、それとも別の感情なのか、目の前の事に精一杯な涼太にはよくわからない。


 涼太のモヤモヤとした気持ちとは反して、野宿の準備は淡々と進んでいった。涼太には枝を集める役が与えられ、周囲を警戒しながら火をつける為に乾いた枝を集めた。

 幸いにも、雨は降っていなかったらしく日が当たりそうな位置には乾いた枝が落ちていた。


「アンタレス」


 涼太が集めた枝にスピカが魔法で火を放てば、ぼおっと火の気も無い場所にまるで生命が宿ったかのように炎が点った。


「魔法って本当便利だよな。炎の魔法は嫌いだけど」

「……何かあったの?」


 炎魔法を見て苦い顔をするレーゲンが気になった涼太はレーゲンに質問したが、レーゲンは「まぁ色々とな」とそれだけ返して後はなにも言わなかった。





「ねぇ、涼太君。さっきの綺麗な水晶、見せてー」


 スピカが家から持って来ていた何とも言えない匂いの干し肉を食べた後、ナナが話しかけてきた。


「これの事?」


 涼太は聖蛇から貰った水晶の内の1つを鞄から取り出した。炎の光を浴びてキラキラと輝いている。


「うん!……凄く綺麗……触ってもいい?」

「いいよ」


 断る理由もない、涼太が水晶をコロンと地面に転がすとナナは前足で調べるようにつつき始めた。

 その時だった、突然水晶が微かに黄色く輝き出したのだ。


「あれ?」

「へ?」

「どうした? ……これは……」


 やがて、水晶は透明な黄色の水晶に変わってしまった。

 完全に変わり終えると水晶の光は消え、水晶の中にはまるで岩のような黄色い何かが閉じ込められているように見えるようになった。


「色が変わっちゃった。変なの」


 ナナは不思議そうに前足で水晶を転がし始める。


「スピカさん、これって……」

「ナナ、貸してくれ」

「いいよー」


 ナナから水晶を借りたスピカはじっと水晶を見つめる。

 レーゲンが興味深そうにスピカの真横で水晶を共に見ていたのだが、それに気がつかないぐらいスピカは真剣だった。

 やがて、スピカは何かを理解したように頷いた。レーゲンはスピカが行動する少し前にスピカからちょっと離れていたので気がつかれずに済んだようだ。


「涼太、この水晶は土の力を宿している。恐らく土神であるナナの力の一部を吸収したのだろう」

「ナナの力を?」


 涼太はスピカから水晶を受けとる。水晶からは、確かに他の水晶とは違う、暖かい気配を感じた。


「私の力で水晶に色がついたの?」

「まぁ、そうなるな」

「……ふーん」


 ナナはよく理解していないのか首をかしげている。そんな中、レーゲンが不意に口を開いた


「しかし綺麗だなこれ……なぁ、ナナが土神だからこうなったんだよな? ならチュラに来たときに水神様に触らせたら青くなるってことか?」

「そうなるが……水神には会えんだろ」


 何を言っているんだと言わんばかりに冷たい目を向けるスピカだったが、レーゲンは気にしていないようだ。


「結構フレンドリーだから会えると思うぜ、面白そうだし触らせればいいんじゃね?」

「……下手に出て、祟られても知らんぞ」



 レーゲンとスピカの会話を聞く涼太の手の中では、黄色の水晶が、これからの期待を象徴するかのようにキラキラと輝いていた。

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