第16話【水晶の洞窟―Cave of the crystal―】
「よっと……これで皆降りれたな」
最後にレーゲンが穴の底へと降り、涼太達は全員無事に降りることが出来た。
「なんだ……妙に明るいな」
スピカがそう思うのも無理はない、外からでも何となくわかってはいたのだが、外から見た時の予想よりもずっと明るい光で洞窟は青白く照らされていたのだ。おかげで洞窟の内部がよく見える。
「何が光ってるんだろう」
涼太はそう呟き、近くの光っている地面を少しだけ掘ってみることにした。ほんの少し掘るだけで光の元はすぐに姿を表す。……それは涼太の片手に乗るほどの大きさしかないにも関わらず、美しい輝きを放つ水晶だった。
「きれー!スピカちゃん、これなぁに?」
ナナは涼太の隣で目を輝かせている。水晶はまるで不思議な力を秘めているようで、ナナも涼太も目を奪われてしまっていた。
「何の力も持たない水晶だな。これが光っていたのか」
「水晶? 水晶綺麗だね!」
ナナは水晶を見て、嬉しそうに尻尾を振っている。
「さっき落ちたときに俺も確認したんだけどさ。この光多分、全部水晶だぜ? 凄いよななぁ……」
「へ、これ全部が?」
涼太は慌てて隣の光る地面もゆっくり掘り起こす。土から出てきたのは先程の物とほぼ同じ、小さな水晶だ。
「本当だ……」
「ふーん……見事なものだな、この光のおかげで迷う可能性が減る。……さっさとアイアイを探すぞ」
「うん、そうだね」
4人は穴の底から横に繋がる、水晶に照らされた道を歩き出した。
「……なぁ、さっきからずーっと歩いてる気がするんだけど。この穴どこまで広がってるんだよ」
「さぁ……?」
水晶の道を歩き出してから随分と時間が経つ気がしたが、未だに景色は殆ど変わらず、音も自分達が立てた音しか聞こえてこない。本当にこの道は通って大丈夫なのだろうか?涼太の不安は積み重なっていく。
ふとナナの方を見ると、ナナも不安そうにしていた。自分達が立てた音にすら驚いてビクビクしているように見える。
涼太はナナの頭を優しく撫でた
「ん、涼太君?」
「大丈夫だよ、大丈夫」
「……うん!」
ナナの表情は読みにくいが、少し明るくなったような気がした。そうだ、怖いのは自分だけじゃない、しっかりしなくては。涼太はそう思い、気合いを入れ直した。
「……待て」
再びしばらく歩くと、突然スピカが1歩前に出て、3人を制止した。
「どうしたの?スピカさん」
「……何か居る」
「へ? ……何の匂いも、音もしないよ?」
スピカの言葉にナナは首をかしげる。前方は涼太の目から見ても何かが居るとは思えない、隠れる場所すら無い一本道だ。
「……そこだっ!」
スピカは、何かの動きを見逃さなかった。素早くショットを撃ち込む……ショットにより何かが壊れるような音が響き、上がった土煙の向こうから一匹の犬ぐらいの大きさの蟹が現れた。蟹は音を立てぬようピタリと体を制止させており、何より特徴的なのは背に水晶が生えていた事だった。
「……随分とでかい蟹だな」
レーゲンはのんびりと呟いたがスピカは険しい表情を見せている。
「ケイブケークラ、群れで行動する人肉食性の蟹だ……魔法が殆ど聞いてないな、背中の水晶のせいか」
ケイブケークラはじーっとこちらを見つめている。その目には生気をあまり感じず、涼太は恐怖を覚えた。
「ど、どうするの?」
「魔法で一撃で仕留めるつもりだったのだが水晶と共生している以上魔法を打ち込んでも効果が期待できないな……逃げるぞ」
「逃げるって、こっちから攻撃しちまったし襲ってくるんじゃ……」
「最初から殺気は感じていた、こちらから手を出さずとも、どのみち襲ってくるつもりだったのだろう」
スピカの言葉が正解だと言わんばかりに、ケイブケークラはカチカチカチッとハサミを鳴らした。
……すぐに別の場所からカチカチッと返事のような音が聞こえ、1匹、また1匹と大小様々な大きさのケイブケークラが姿を表した。
「チッ……仲間を呼ばれたか」
4人の周囲を取り囲むように、ケイブケークラは陣取っている。このままでは一気に襲われてしまうだろう。 どうにかしなければ、涼太は必死に考える。
……ふと、前の方を見た。よく見れば先へと進む道を塞いでいるケイブケークラは日本でよく見かけるような蟹の大きさしかない。
突破するならここしか無かった。
「皆!前の方なら行ける、ここを抜けよう!」
涼太の叫び声を聞いて、3人も行くべき道の方を見た。
「……なるほど、そっちには小型のケイブケークラしかいないのか」
「うん!走ればきっと大丈夫だよね!」
「また走るのかよ……仕方ねぇけど」
4人は一斉に奥へと進む道を走り出した。小さなケイブケークラを踏みつけたり、蹴り飛ばしたりしてしまったような気がするが心の中で軽く謝るぐらいしかできない。チラリと後ろを見ればそこそこの数のケイブケークラが追って来ていた。
「ショット!」
スピカがケイブケークラを怯ませるために魔法を放つ。ケイブケークラは吹き飛ばされはしたものの、ダメージは殆ど受けておらずしばらくしたら再び涼太達を追い始めた。
「お、おい!あんまり強い魔法を使うと道が崩れるぞ!」
「私は魔女だぞ?爆発力は調整出来る」
レーゲンは道が崩れる事を恐れているがスピカは自信があるのか、そんな事はあまり気にして居ない。
「……この先、風の音がする」
「ナナ?」
ケイブケークラを魔法で吹き飛ばしたりしながら騒がしく走る途中でも、ナナは風の音を聞き当てたらしい。涼太はナナの聴力の高さに感心した。
「風……広い場所か、それならケイブケークラ達を思う存分迎撃出来るな。急ぐぞ」
道の遠い先が強く光っている。もしかするとあの場所が広い場所なのだろうか?涼太達は一先ずゴールと思わしき場所へ向けて力の限り走った。
「はぁ……はぁ……ここは……」
涼太達が息も絶え絶えになりながらたどり着いたのは巨大な地底湖だった。高い天井や周囲の壁、水の中にまで水晶が生えており、美しく輝いている。
「なるほど……地底湖か……」
「あはは……はぁはぁ……綺麗な場所」
スピカもナナも、流石に疲れたのか少し息が乱れている。唯一レーゲンだけは元気そうで、地底湖をあちらこちらと見て回っている。
「……蟹、追ってこねーな」
ふと、先程走ってきた道を見たレーゲンはそう呟いた。
「何?」
スピカもレーゲンと同じように来た道を見たがケイブケークラの影は見当たらなかった。
「ケイブケークラの縄張りから抜けたのか。……とりあえず、助かったと言うべきか」
「私疲れちゃった……」
疲れきっているのか、ナナの反応が鈍い。
「スピカさん。ここで休憩しようよ」
「……そうだな、その方がいい」
「ん、じゃあ俺はひとりでここを見る事にするかな」
ナナはこんな様子で涼太も疲れているのが目に見てわかる。
4人はしばらく地底湖のエリアで休むことにした。




