第15話【水晶の洞窟へ】
「私の事は悪魔とでも何とでも言えば良い。ただ、先に余計なことを言い出したのはお前だということは覚えておけ」
「ぐっ……言い返せねぇ……」
レーゲンとスピカの間に変な関係ができてしまっている。涼太は子どもながら世の中とは複雑なものなのだと感じた。
「……ませいめいぞくで何かダメなの?」
ナナは先ほどからの話がイマイチ理解できず、耳をピーンと立てて音を拾いつつ首をかしげている。
「多分レーゲンは魔生命族だって事を隠したかったんじゃないかな?」
「ふーん……変なの。人間じゃなくてもレーゲンはレーゲンなのに」
涼太の言葉でも今一つ理解ができなかったナナは、その場にまるで犬のようにお座りをした後、くわぁと大口を開けてあくびをした。
しばらくして、スピカとレーゲンの話し合いは終わりを迎えた。
「涼太よ、突然だがこいつを監視する事になった。」
「監視って何だよ……まぁどのみち付いて行くつもりだったし良いけどさ。というかスピカも約束守れよ?」
「安心しろ、約束は破らん」
お互いにお互いが隠していたことを知ってしまった以上、お互いに監視するのが望ましいのだろうか?涼太にはよくわからなかった。
話し合いを終えた4人は鞄を持ち逃げしたアイアイが進んでいった方向を進んでいく。入り口の方は木も疎らだったのにも関わらず中に入っていけば鬱蒼としてきた。足を下ろす度にぬかるんだ地面がグチャリと音を立てる。
「何か嫌な感じのする森だな」
「確かに、何だか締め付けられるみたいな感じがする……」
レーゲンがそう思うのも無理はないだろう、先程から何者かの気配がこの森全体に漂っているのだ。あまりこの大陸に詳しくない涼太でも、その緊張感は伝わってきた。
「……この森に大型の生物は居ないと思うのだが、この気配は何だろうな。……ナナ、何か匂うか?」
「うーん……森と普通の動物達の匂いしかしないよ。」
ナナも首をかしげている。ならこの気配はどこから来るのだろうかと皆が思い始めた頃、奴は再び現れた。
「キキッ」
突然猿の声が聞こえたと思ったら、木の上からアイアイが降りてきた。アイアイはこちらを待っていたと言わんばかりにわざと姿を見せ、笑っている。
「あ!鞄持ちの猿!」
「キャッキャ」
レーゲンの怒り顔を見て楽しいのか、アイアイは鞄をすぐに抱えると、再び木を登り逃げ出した。
「くそっ!待て!」
アイアイに挑発されたレーゲンは周りの事など気にせず、すぐにアイアイを追いかけていってしまった。
「迷子になられても困る、早く追うぞ」
「うん!」
スピカに急かされ、涼太達も慌てて後を追うもレーゲンもアイアイも足が速く、見失ってしまった。
「あいつ、妙に足が速いと思ったが……肉体が生身じゃないから疲れ知らずなのか」
スピカは少し感心したように呟いたが、涼太はそれよりもレーゲンがまた森の獣に追われたりしていないかが心配だった。
「そんな事より、早く見つけないと……そうだ! ナナ、匂いで追えないかな?」
「レーゲンの匂いはわからないよ?」
ナナは不思議そうに首をかしげる、言い方が悪かったかと涼太は言い直した。
「そうじゃなくて、アイアイの方の匂いだよ。きっとレーゲンもそこにいるはずだ」
「うーん……わかった!アイアイの匂いわかるかな?」
ナナは地面に鼻を当てるとそのまま匂いを嗅ぎ始めた。…が、しばらくすると首を横に振った。
「うーん、嗅いだことの無い色んな匂いがしてよくわからないや。ごめんね」
ナナはクゥンと悲しそうな声を出している。レーゲンの事は心配だがこればかりは仕方ない。
「そっか……ありがとう」
涼太が優しくナナの頭を撫でた次の瞬間
「ぎゃああぁぁぁ!!」
レーゲンの声らしき叫び声が遠くから聞こえた
「へ、今の……レーゲン!?」
「向かうぞ」
「うん!」
3人は慌てて、レーゲンの声がした方へと向かった。
涼太達が幾つもの茂みを抜けて、ようやくたどり着いた場所は森の中の地面に大穴が開いた場所だった。
「レーゲン、無事?」
涼太達がレーゲンの姿を探すも、その姿は何処にもない。それどころかまだ森の中なのに獣達の声すら聞こえず、ただぽっかりと地面に穴が空いているだけだ。
「まさか……落ちたのか?」
「えっ、嘘!?」
スピカと涼太は地面に開いた穴を覗いた。
穴の中は何かが鈍く光っており穴の奥が見える。ただ、穴は人が十分に下りれる大きさではあるものの、一度降りたらそう簡単に上がれそうな物では無かった。
「レーゲン!」
「おい!聞こえるか!」
2人で穴に向かって必死に呼び掛ける。すると、奥から声が聞こえてきた。
「聞こえてるー!全然無事だけど上がれねぇ!」
それは間違いなくレーゲンの声だった。どうやら本当に穴に落ちたらしい。
「間抜けな……おい、そこで待ってろ。今縄を降ろす」
スピカはそう言うと鞄から細い縄を取り出し、穴のすぐ近くに有ったしっかりとした木に縄を結びつけ、縄を下ろした。
「後は何とかしろ」
「わりぃな、助かる」
レーゲンはそう言うと細い縄を上ってきた。涼太には真似できそうにない。
「助かった。本当ありがとな」
縄を上りきり開口一番、レーゲンはそう言った。
「レーゲンが無事でよかったよ」
「よかった!」
涼太とナナは素直にレーゲンが無事戻れた事を喜んだが、スピカはそうでもないようで微妙な表情だ。
「お前、まさかアイアイに落とされたのか?」
「違うって。実は猿がこの穴に入って行っちまったんだけど、流石に穴に入れなくてさ。そしたら地面がグラグラって……んで落ちたんだよ」
「地面が?僕達は気がつかなかったけど……」
レーゲンの話が正しければ、地面が揺れたのはレーゲンが叫ぶ少し前ということになる。しかし、あの時涼太達は揺れを全く感じてはいなかった。
「まじか……じゃあ何だったんだ?あれ。」
「知らん」
スピカは答える所か考えるつもりすら無さそうにバッサリとレーゲンの言葉を切り捨てたが、涼太は何故か、この地震に何か意味があるのではないかとふと思った。
「とりあえず、それで行き来出来るだろうし、穴に逃げた猿追いかけて良いよな?」
レーゲンの目は自分をとことんコケにしてくれた猿に対しての怒りで燃えているように見えた。
「勿論だよ。その為に来たんだしさ」
「……構わん」
「うん!」
3人も、特にレーゲンを止める理由はない。ナナは器用に穴の壁の出っ張りを使って降りて行き、3人は縄を使って穴の中へと降りていった。




