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第四話 ここは一体……

「コホン、まず君にはお願いがある。徹くんには、絵の中に入って欲しいんだ」


 軽く咳払いし、落ち着いた口調でそう言ってのけた。


「ちょっと待ってくれ、いきなり意味が分からなんですが……」


 それもそうだ。いきなり絵の中に入ってくれと言われても、理解できる者は世界中探しても中々いないだろう。


「こんなに早くに待ったがかかるとはね……まあ、君の言いたいことは分かるよ。いきなり過ぎたかな。急に理解することは難しいかもしれない……でも実際に君は経験しているはずだ。ここに来た時のことを思い出してごらん」


 ゲルトに(さと)され、徹はここへ来た時のことを思い出してみる。


「ここへ来たときは確か……そうだ。あのよく分からない絵はがきみたいなやつを触った瞬間なんだか吸い込まれるような感覚で、気付いたらこの屋敷にいた――もしかして、ここって!?」


 まさかと思いゲルトを見てみる。予期せぬ現状に冷や汗が流れる。


「その通り! ここはある意味絵の中の世界とも呼べるだろう。まあ、厳密には少し違うけどね。だが、 これで絵の中に入るということを少しは理解できたのではないかな?」


 徹が正解に近い答えを導き出し、軽く拍手をしていた。


「確かに、今こうして不思議なことが起こっているから、まあ絵の中に入れるということは分かりました。だけど、仮に向こうの世界? に行ったとして何をすればいいんですか?」


 絵の中に入りました。はい、終わりとはいかないだろう。そんなことは誰にだって予想できることだ。そもそも何の目的があってこんなことをするのかが重要な点だ。


「そうだね、簡単に言ってしまえば作者の思いを遂げて欲しいかな」


 徹の頭の中は疑問でいっぱいになった。作者の思いを遂げるとはいったい。


「あの、作者の思いとは一体?」


「作品には必ず作者がいるだろう。例えば、この小説とか」


 ゲルトは机の引き出しから、一冊の本を取り出した。それほど厚くないものだ。


「この本を書いた作者がいる。その作者はこの作品に情熱を注いで書き上げたかもしれない。しかし当時の心境はとても不安定だったかもしれない。何かの心残りをこの作品に託したかもしれない。もちろん何もなく完結させたかもしれない。そういった強い思いが作品に移れば、その作品には世界、いわば物語が生まれる。完結してしまった物語には私たちが立ち入ることはできないが、何か心残りがあったりと、未完結のものには隙間があるんだ。そういった作品に入り込むことができるんだ。……少し前置きが長くなってしまったが、様々な思いを持って作品が出来ているんだ。私はその作者の未練、心残りを君に遂げて欲しい。世界はその作品、作者をかたどって出来上がっているはず」


 ゲルトは理解しやすいようにと決して早口ではなく、熱が入ったかのように話した。

 なんだか、どっと説明されて頭がパンクしそうである。


 徹は斜め上に頭を(かし)げ、一度頭を整理してみた。

 考え事をするとき、視野の斜め上を見るのは徹の癖だ。


「とりあえず、絵の中に入って、その絵を描いた作者の心残りを探して、それを解決すればいいってことですね」


「その通り」


 実際に自分の言葉にしてみると難しいことは言ってない。思い悩んでいるから助けてこいと言っているのだ。


「ちなみに作品ってことは、その小説にも入ることができるんですか?」


「鋭いね。もちろん絵だけでなくこういった本の中にだって入ることができる。だがこの小説に至っては完結してしまっているから入れないけどね」


 つまり、何かしら欠陥というか、隙間のようなものが無いと入れないということだ。このことについては先ほどの説明にもあった。


「それで、依頼について話を戻そうか……君には絵の中に入って、作者の思いを遂げて欲しい。もちろん報酬は用意している」

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