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第三話 屋敷の主

 モーゼスの数歩後ろを歩いている(とおる)は屋敷の広さを心から痛感していた。

 彼の後ろを歩き始めて三分くらい経ったのではないか。学校の教室間を移動する勢いだ。今は綺麗に整えられている焦茶(こげちゃ)のカーペットが敷かれた廊下らしき場所を歩いている。ここも少々薄暗いが窓から入る四角い光芒(こうぼう)が照らしていた。


 いくつも通り過ぎて行った窓から見える景色に見覚えはない。そもそも見える景色は(しば)が敷かれた広い庭であり、その先には木々が生い茂っていた。

 

 ここを歩いているときに見たものは景色だけではない。多くの絵も見た。廊下の壁に飾られているのだ。その絵が有名な絵画なのか、徹には分からなかった。絵には(うと)いのだ。明るい絵から暗い絵、多くが風景画であった。大きさも様々だ。一メートルを超える物まであった。これには目を見開いた。

 そんな飾られている絵を十数枚見たあたりでモーゼスが止まった。


「ここが書斎でございます。旦那様がお待ちですので」


そうですか、とそう小さくつぶやく。階段は最初の玄関ホールにあった大きいものしか上がってないため、ここは恐らく二階のどこかであろう。


 モーゼスは書斎のドアをノックし、「連れてまいりました」というと、「入りたまえ」とすぐ返ってくる。モーゼスはそのドアをゆっくり開けた。


 徹は緊張した面持ちで部屋に入る。ここはしっかりと照明もついており明るかった。後からモーゼスもドアを閉め入って来た。そしてドアの横で止まった。そこが定位置なのだろうか。

 正面を見る。そこには机越しに四十代だろうか、一人の男性が座っていた。皺もあまりないし、茶色の髪色が目立つ。この人が屋敷の主だろう。


「いやあ、待っていたよ。徹くん」


 明るい声でそう言った。微笑んでいるようにも見える。屋敷の主というものだから、もう少し硬い人だと勝手に思っていたがそうとも限らなそうだ。

 なんだか、明るい人だと思った。それが第一印象。


「あ、そこに椅子あるから座っていいよ。硬いかもしれないけど我慢して」


 屋敷の主と対面する形で木製の椅子が置かれていた。徹は「失礼します」と一声かけてから座る。屋敷の主からは「どうぞ」と返って来た。


「さて徹くん。まず自己紹介からいこうか……コホン」


 軽く咳ばらいをした主は、そこから真剣な面持ちになり空気が張り詰めたのを感じた。


「私は、ゲルト・シュタルク。ここの屋敷の主だ」


 先ほどの明るい喋り方から打って変わって、トーンが少し下がっている。真面目モードにスイッチが入ったような感じだ。


「あ、趣味は、週末に近くの森で鹿狩りをすることだね。最近鹿が増え気味でね」


 声色が戻った。面白い人だ。

 少し緊張で体が固まっていたが、今のでほぐれた。


 間が少し空く。どうやら次は徹の番のようだ。


「えっと、片桐徹です。学生やってます」


 我ながら簡単な自己紹介だな、と思った。

 徹にはアウトドアな趣味は一切ない。休日は何をしているのかといえば基本、適当に本を読んでいる。周りの友人からは、それって楽しいのかと聞かれるが、徹からすれば外に出てどこかに遊びに行くより、家でダラダラとのんびりしていた方が有意義だと思っている。休日なのだから休めということだ。


「そうか、片桐徹くんか、うん、まあ知っていたが」


 このゲルト・シュタルクという人物は、名乗ってもいないのに徹の名を知っていたのだ。徹は先ほどから何か違和感を感じていた。その違和感はこれかと気付く。


「えっあの、どうして名前を知っているんです?」


 率直な疑問だった。聞くのが少し遅いくらいだ。


「どうしてか……なんと答えればいいのか……うーん」


 何やら腕を組んで考えている。言葉を整理しているのだろう。


「こう……街ですれ違って、この人だ! みたいな運命的な……」


「街ですれ違いました?」


「いやすれ違ってないが」


 じゃあ何なんだ! と、思ってしまう。徹は唖然とし、口がふさがらない。


「まあ、そんな運命的に君を選んだ。名前はその時セットで来た、みたいな」


「名前はセットでついてきませんよ!!」


 ゲルトは笑いながら「そりゃそうだ」などと言っている。


 このゲルト・シュタルクという人物はいい加減な人間であると、徹はこの時点で判断した。そもそも運命的に選んだということにも引っかかる。しかし、これ以上名前について言及してもまともな答えは返ってこないだろう。


 徹は溜息をつく。この人と会話は成り立つのだろうかと思ってしまう。

 しかし、本題はここからである。徹がここに呼ばれた理由があるのだから。


「名前についてどう知ったかはこの際いいです。それより俺をここに呼んだ理由が知りたいんですが」


 ゲルトは徹に依頼があるとモーゼスが言っていた。依頼とは何かと、聞かされた当初から気になっていた。しかし依頼とはどういったことなのだろうか。徹は何でも屋になった覚えがない。どこにでもいる、いたって普通の学生なのだから。


「そうだったね。とりあえず椅子用意するから座っていいよ」


 ゲルトは執事のモーゼスに目を合わせると、モーゼスは部屋の隅に置かれている、装飾が凝っている木製の椅子を持ってきた。徹は執事の働きぶりを目の当たりにし素直(すなお)に感心する。


 徹の後ろに配置されるように椅子が用意された。


 徹は驚きながらゲルトを見ると、どうぞと、手でサインしている。小さく「失礼します」と一言入れ腰掛ける。


「では君をここへ呼んだ理由から話していこうか」


 ゲルトは軽く指を組み、机に少し前のめりになるよう体勢を変えた。視線はまっすぐ徹を見ている。緊張した空気が流れ、徹は唾を飲み込んだ。

今のところ男しか出てない……

女性キャラもう少しで出ると思います

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