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第二話 謎の執事

 急だったためにハッとなり、徹はゆっくりと後ろを振り向く。

 そこには白髪の男性が模範とも言えるお辞儀をしていた。徹は慌てて軽くお辞儀を返す。

 

 すると目の前の男性は顔を上げる。薄暗くとも皺が目立っていた。六十代近くだろうか。しかし背筋はピンとしており、何やら年をとってもこうでありたいなという雰囲気を感じさせられる。

 

 よく見ると見慣れない服装であることに気が付いた。

 そう執事服なのだ。となると、ここの関係者だろう。

 すると執事は二言目を発した。


「私はここで執事をやっております。モーゼス・ホフマンと申します」


「あっ自分、片桐徹って言います」


 こう丁寧な言葉使いで話されると逆に緊張してしまう。慌てて名乗り返したのはこういう状況に慣れていないせいだ。

 とりあえず、ここの関係者なら質問しておこうと考えた。


「えっと、ここは誰かのお屋敷ですか?」


 まだこの状況に理解が追いついておらず、恐る恐る尋ねてみた。


「ここはシュタルク家の屋敷で、この場所は屋敷の玄関ホールでございます」


「そうですか……」 


 まずここがシュタルク家の屋敷ということが分かった。そして今いる場所が玄関ホールだということも。自分の住んでいる家よりも玄関ホールが広いことに驚きながらも、冷静でいようと意識する。現状起こっていることが非日常的すぎて、逆に冷静でいられるのが救いであった。

 

 それにしても薄暗い。照明の類はついておらず、壁に備え付けられている蝋燭の火がほのかに揺らめいているだけだ。スマホのライトがつけっぱなしであることに気付いた徹は静かに消した。

 その行動を見たモーゼスは、思い出したかのように申し訳なさそうな表情で


「私としたことが申し訳ありません。長い間外と者がいらっしゃることがありませんでしたので照明を忘れておりました」


 そう謝罪したモーゼスは徹の後ろに位置している玄関ドアまで歩きだした。必然的に徹の横を通ることになる。その時モーゼスの身長が高いことがわかる。なんというかこう、モーゼスのような、年配だが老いを感じさせられない執事というものはかっこよく感じる。

 

 玄関ドアまで近づいたモーゼスは、壁に手を伸ばす。

 すると、カチッと音と共に玄関ホールの照明が一斉についた。薄暗い状況から照明がついたものだから眩しく、徹は一瞬怯んだ。

 

 明るくなって改めて見回すと、広くそして綺麗なものだ。玄関の前には大きな階段があった。途中から左右に分かれているタイプのあれだ。それだけでお屋敷に居るのだと実感させられる。足元の毛皮のカーペットも壁についている剥製も(さま)になっている。いや、やっぱカーペットだけは普通のであってほしい。モフモフだが。


「ここの剥製などは、旦那様の趣味なのですよ。旦那様は狩りがお好きでして」


 モーゼスは人を良く観察していた。徹が見ているものから気になっているであろうことを説明したのだ。


「狩りですか。鹿狩りとかですよね」


 海外ではこういった狩りは趣味として人気がある。狩った鹿なんかは燻製(くんせい)にして仲間たちと食べたりと楽しんでいるという話を聞いたことがあるくらいにだ。しかし、日本ではあまりポピュラーな趣味ではないし、そもそも自分がなぜここに居るかを知りたい。


「あのー、なんでここにいるんですかね?」


 誰が? なんてことは言わなくても分かるだろう。無意識に歩いて入り込んだなんて、自分がそんな危ない人間だとは思いたくない。徹は今まで人様に迷惑を掛けないよう心掛けているのだ。


「そのことに関しては勝手ながらお呼びさせて頂きました。主人に代わりお詫び申し上げます」


 モーゼスは綺麗に頭を下げる。マナー講座でもやってるかのようだ。


「呼んだってことは、あの招待状のことですか?」


「その通りでございます。徹様のもとに届いた招待状は旦那様が送ったものであります」


 モーゼスは頭を上げ、丁寧に説明してくれる。

 なるほど、どうやらイタズラではなかったようだ。だが、徹には呼ばれる覚えもないし、そもそもどうやってここに来たかも分かっていない。色々と謎が多いのだ。


「えっと、色々と分からないことがあるんですけど……とりあえず何の用ですか?」


 恐る恐る訪ねてみた。モーゼスはまっすぐ徹を見つめている。

 この際、あの謎の現象については後回しだ。まずは、なぜ徹が呼ばれたかだ。


「旦那様は徹様にあるご依頼があるのです」


 モーゼスは一呼吸置き、そう言った。目に曇りはない。


「依頼? 頼み事ってことですよね? 俺に?」


 一体何を頼まれるのかと思い、少し驚いた。そもそも徹は何でも屋ではない。学生だ。普通の大学生なのだ。その大学生にここの屋敷に主人は一体何を頼みたいというのか、不思議でならない。


「詳しいことは旦那様から、まずは靴をお渡ししましょう」


 モーゼスはどこからか取り出したスニーカーを渡した。どうやら靴を履いていなかったようだ。

 それはそうであろう。家にいたのだから。

 モーゼスから渡された靴はサイズがぴったりで違和感はあまりなかった。下のモフモフは味わえなくなったが。


「では、旦那様は書斎でお待ちです。ご案内致しますで、私について来てください」


 モーゼスは徹の横を通り、目の前の階段に向かう。徹は黙ってそれについて行った。

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