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第十一話 昼食後編

 挨拶が終わり、各々料理に手を付け始める。トールはパンを小さくちぎって口に入れる。それは硬いタイプのパンだった。しかもパンだけでも結構ボリュームがある。ソーセージも食べてみるとこれがかなり絶品だ。日本で食べるものより数倍おいしく感じる。数種類のソーセージのグリルが出てきており、それぞれで味を楽しめる形だ。


 パンを頬張っていたエレナがそれを飲み込み、思い出したかのように口を開いた。


「そういえば、トールとカリーナはどうして一緒にいるのですか?」


 不思議そうに尋ねてきた。確かに医者と一緒に食事をすることなんて普通はないだろう。トールもそんなこと想像していなかった。


「あー、それはね。なんかな、道端で苦しんでたおじいさんをカリーナのとこまで運んだんだよ。そしたらお礼してくれるって話になってね」


「そうなのよぉ。トールちゃん、苦しんでたブルーノさんを連れてきてくれてね、その時私ちょうどお昼食

べようと思ってたから誘ったのよぉ。ほんといい子よね」


 カリーナが自慢げに、そして嬉しそうに言いトールの肩をがっちり掴み自身の方へ寄せた。

 突然のことでトールは一瞬頭が真っ白になったが、慌ててすぐに引きはがした。カリーナは「かわいんだからぁ」などと言いながらニコニコしていた。


「そんなことがあったのですか。これに関しては私からもお礼を言わねばなりませんね」


「いやいや、エレナにまでお礼を言ってもらわなくても……」


 トール自身だだカリーナの元まで連れて行っただけで、こんなにお礼を言われるようなことをしたとは思っていないため落ち着かない気持ちになる。

 しかしエレナは気が済まないらしく……


「いえ、民を守るのは騎士の使命でもあり義務です。私からも感謝します」


 エレナは先ほどまでパクパクと食事をしていたが、それを一旦止め深く頭を下げた。この行動にエレナの律義さが窺えた。


「そんな大層なことは、てか顔上げて!」


 いつまでも下げてそうな勢いだったため慌てて顔を上げさせた。エレナが顔を上げると艶のある綺麗な顔

立ちが露わになる。


「それにしても、ブルーノさん心配ですね。この頃体の調子が悪いようですし……」


 そう言い心配事を吐露するかのように困った顔するエレナ。この心配事に関してはカリーナも一緒のよう

だった。


「まあ、もう年だしい、本人も覚悟しているわよぉ。……私としても何もできなくて悔しいけど」


 二人ともかなり心配の様子だ。トール自身、苦しそうなご老人を思い出すと何とかしてあげられないものかと考えてしまう。だが知識も何もないトールには何もしてあげられるはずもなく、見守るしかないのだ。


 各々何か考えているのだろう。沈黙が続いた。


「な、なんだか辛気臭い話になっちゃったわね。トールちゃんにお礼のつもりで誘ったのにぃ。ささ、みんな食べて食べて」


 数秒沈黙が続いた末にカリーナが場を和ませようと明るく振舞った。


「そうですね、食事の時は楽しく過ごすものです。いただきましょう」


 するとエレナは店員に向かって「何か適当なものを三人分頼みます」と淡々と言った。各々の皿にはまだ

何かしら残っている状態だがもう一品頼むらしい。


 しかしカリーナはクスクスと笑いながらこう言った。


「トールちゃんも何か頼んだら? 今の三人分に私たちは含まれてないわよ」


 トールは目を見開き「マジですか?」とつぶやくように言った。カリーナは「もちろん」と答えた。


「なんですか? お二人も何か頼んだらどうですか?」


 エレナにそう言われ、トールはカリーナと同じものを一品頼んだ。もちろんエレナは後に来た三品を完食した。ここで出会ったときには一品すでに頼んであったためエレナだけで五品頼んでいることになる。


 食事中、エレナはずっとパクパクと食べており、トールはカリーナから質問攻めにあっていた。トールの出身国から始まり恋愛話へ持っていかれたりと散々だった。出身国を聞かれた際はある程度本当のことを話し、後はテキトーに答えていた。あまり嘘を言っても矛盾が生じるだけだからだ。しかし恋愛話は勘弁して欲しいものだった。カリーナ相手にどういう顔、気持ちで話せばいいというのだ。その際もずっとエレナはパクパクと食べていた。



 

 食事処を後にしカリーナは仕事があるからと診療所へ向かった。別れ際二人に投げキッスをしたことは見なかったことにした。

 ちなみに支払いはエレナの分も含めてカリーナが払った。太っ腹である。医者とは儲かるのだろうか。


「トール、そういえば探していた人は見つかりましたか?」


 ふと思い出したかのように聞いてきた。

 探していた人とは今回の目的でもある少女のことだ。カリーナには言っていなかったがエレナにはその旨を伝えていたことを今思い出す。


「いや全然見つかんないよ。ほら、鍛冶屋の人いるでしょ? この村の人たちの顔を覚えてるみたいなこと言ってたけど俺が探してる娘については見覚えがないって言ってたし、どうしようかなって困ってるとこ。もしかしたらここにはいないかもしれないし……」


 そう答え頭を掻いた。


「そうですか。それは困りましたね。他の方は何か言ってましたか?」


「うーん……あっ、そういえば! 最初、近くにいた衛兵の人に話を聞いたんだった。その人がな、何か見

覚えがあるって言ってたっけ。でも思い出せないみたいだったけど。分かるかな? 背がすっごく高くて、顔の彫が深くてなんかこうベテラン感がある人」


 トールは今朝のことを思い出しながらたどたどしく説明した。名前を聞くのをすっかり忘れていたため、これでエレナに伝わるだろうか。


「ええと、その方は村の入り口で警備している方でしたか?」


 エレナもじっくり考えこう質問した。

 確かに村に入ってすぐエレナと別れて、それですぐに聞いた衛兵だ。入口付近にいたことは覚えていた。


「そうそう。たぶんその人」


「というと、アーベル衛兵長ですね」


 衛兵長という単語がセットでついてきた。


「あの人衛兵長なの? でも今はエレナが仕切ってるんだよな」


「ええ、私がここへ来る前までアーベル衛兵長が仕切っていました。今でも人望が厚く仕事熱心な方ですよ。ここへ来たばかりの時私に良くしてくれましたし。それにアーベル衛兵長は記憶力が良い方です。アーベル衛兵長が見覚えがあると言ったのなら、この周辺にいるはずですよ。長年この村にいる方ですから」


 なるほど、と熱心に聞いていた。エレナの話からすると絶望するにはまだ早いということだ。


「てことは、この村にはいないとしても周辺にいる可能性があるってこと?」


 期待を込めてエレナに聞いてみた。


「そうですね。この村に来る人はかなり限られていますし……もしかしたらここの領主が知っているかもしれないです」


 心当たりがあるらしいエレナは少女について知っている可能性を秘めている者を挙げた。


「領主?」


「ええ、この村から少し離れたところに大きな屋敷があります。そこでひっそりと暮らしている領主がいる

んです。普段は出歩かない方ですが、ここ周辺のことには詳しいですし、もしかしたら知っているかもしれないです。トールの持っている絵を見る限り、それなりに良いものを着ているようですし、貴族階級に属している可能性もあるので聞いてみるのが一番でしょう」


 エレナは冷静に推測していた。確かにエレナの言う通り綺麗な服装を着ていた。ドレスのような可愛らしいものだ。それによって西洋人形のような美しさを放っているのだろう。


「確かにこの辺りの貴族だとしたらその領主って人に聞けばすぐ分かるかもな。……でも、領主って簡単に会えるもんなのか?」


 領主って言ったらこの辺りの地域を治めている人物だ。そんな人物と身元の分からないトールが簡単に会えるのだろうか。


「確かにトールが直接行っても門前払いされるだけでしょうけど、大丈夫です。私が付いていきますから。ここの領主とは知り合いなのです」


 トールの不安をいとも簡単に吹き飛ばすかのように心強いことを言った。流石貴族というところか。


「でもいいのか? 忙しかったりするんじゃない?」


「今からいきなり行くと衛兵たちが混乱してしまうのですぐには行けませんが、事前に衛兵長に伝えておけ

ば明日には行けると思います」


「そっか。じゃあ、明日頼むよ」


「ええ。それと、夜が兵舎に来てください。よその者がこの村へ来ることがほとんどないためここには宿屋がありません。ですので旅人などには特別に兵舎にある一部屋を貸しているのです」


 言われてみると確かに宿屋はなかった。たまたま宿屋のない道を歩いていただけかと思っていたが、そういうことかと納得する。少し今夜の宿についても考えていたので、これが聞けて良かったと一安心した。


「分かったよ。教えてくれて助かった」


「いえ、私が伝え忘れていただけですから。では、私は仕事に戻ります」


 左腰に携えた剣の柄に撫でるように左手を置きエレナは軽く頭を下げた。


「ありがとな。じゃあまた後で」


「はい。では失礼します」


 簡単に挨拶を交わし、エレナとはここで別れた。彼女は教会がある方角へ長い髪を揺らし歩みを進めていった。


 トールはそれに数秒目を奪われた後に教会へ視線を移した。


「……教会ねえ」


 その教会は時計塔の役割も果たしているのか、高さがあるという意味で目立っており時計もしっかりついている。


 教会と言えば必ず宗教が絡んでくる。日本人のほとんどが無宗教であってトール自身も崇拝しているものはない。

 その教会を眺め、キリスト教だろうかと安直な感想を抱くトール。しかしこの村の雰囲気を見てもヨーロッパ圏の匂いが強くあながち間違っていないかもしれない。

 なんにせよ、明日になるまで特にやることも無くなったので、この世界の時代について勉強するためにも行ってみる価値はありそうだ。


 エレナの後を追うようにトールも歩みを進めた。

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