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第一話 はじまり

 その日は異様に蒸し暑い日であった。ここ何日か雨が続いたからだ。

 ようやく晴れたと思ったらこれだ。

 

 このすっきりと物が少ないワンルームの家は片桐徹(かたぎりとおる)という名の今年大学に入学した少年が住んでいる。初めての一人暮らしで入学当時は戸惑っていたが、今ではすっかり一人に慣れてしまっている。

 しかし、ひとつ問題がある。

 そう、この徹という人物は貧乏だ。今でも三十度超えてくるような部屋でエアコンもつけず、扇風機一台で生活しているのだ。熱中症にならないか心配なくらいだ。


「せっかくの夏休み、バイトもまだ入れてない。今日はゆっくり過ごそうかと思ったのに……」


 徹は床のフローリングに突っ伏した。それは冷たく気持ちいいのだ。

 なるべくフローリングに面している面積が大きくなるようにと、もそもそ動いている。頬はペタッと床にくっつけているほどにだ。

 

 ふう、と一息吐き、そして動かなくなった。

 ワンルームの家。テレビがついていなければ、節電ということで照明もついていない。薄暗い家で床に突っ伏した男が一人。……異様な光景だ。

 だがそんな徹にも限界がある。このまま本当に熱中症で倒れてしまっては、誰も助けてくれないのだ。普段家に来る人もいない。これはこれで寂しいが徹は気にしていない。


「どっか冷房が効いているとこにでも、避難しよっかな……」


 コンビニでも冷房が効いているし、少し自転車を走らせれば図書館だってあるしショッピングモールもある。この辺りは不自由しない。涼むという意味でも。

 とりあえずコンビニでもいって、冷たい飲み物でも買ってこようかと、突っ伏した状態からよっこらっせと、ようやく起き上がる。

 最近腰が痛い。姿勢が悪いせいだろうか。徹自身、姿勢は気にしている。直そうとしているがこれがなかなか直らない。

 軽く体をほぐし、背筋を伸ばす。


「よし! んじゃ行こうかね」


 気持ちを切り替え、顔もシャキッとし玄関に向かう。

 

 玄関にある靴箱の上には一つの写真立てが置かれている。いつ撮ったものかはあまり覚えていない。そこに写っているのは、一人の小柄な少女だ。

 少女は少々幼さが残っており、髪は肩のあたりで綺麗に整えられている。これは好きな女の子の写真などではない。この女の子は妹だ。徹よりも四歳離れている。昔から体が弱く学校にもあまり行けていない。

 よく見ると病院で撮られたものだ。

 徹にとって妹は大切な存在である。学校での出来事を話すと、楽しそうに聞いてくれる。


「そろそろ顔、見に行ってやらないとな」


 大学やバイトで忙しく最近はあまり見舞いに行けてなかった。今は夏休みだし時間はいくらでもある。

 今日行こうかと、考えながら靴を履き家の外に出る。

 蒸し暑いだけあって、日差しが突き刺さる。ドアの鍵を閉めようかとすると、隣にあるポストに何か投函されていることに気が付いた。

 徹はポストを開け、それを取り出す。入っていたものは白い手紙のようなものだった。


「手紙? 俺宛だよな……」


 住所は書いていないが、宛名には片桐徹としっかりと書かれている。

 手紙なんて滅多に来るようなものじゃない。何かと緊張してきた。

 とりあえず中身を確認しようと再度ドアを開け家に戻る。手紙を開けるのに、びりびりと開けるのも申し訳ないので、カッターを持ってくる。レターナイフなんて洒落たものは置いていない。

 とりあえず封に刃を入れ開ける。

 

 中から出てきたものは、綺麗な字で書かれた紙と一枚の大きな屋敷の絵であった。

 書かれていた内容はというと、徹を屋敷へ招待するといった主旨だった。


「ん? なんだこれ? 招待状ってことでいいいのかな?」


 正直戸惑った。どうやら招待状らしいが、徹には招待される覚えがない。つまりこの招待状はかなり気味が悪いのだ。

 この現状にすっかり暑さを忘れている徹は重大なことに気付いた。

 

 そう、この招待状には、具体的な日時や場所が記されていないのだ。

 これに気が付いた徹は、イタズラなのだと判断した。


「くだらないな」


 溜息をつき少し乱雑に短い四つ足のテーブルに投げるように置いた。すると、一枚の絵が目に入る。

 そういえば、大きな屋敷が描かれている絵が入っていたなと、徹はその絵を手に取る。はがき程度の大きさの少し厚い紙にその絵は描かれていた。よく見ると、印刷した類のものではなく、実際にその厚紙に描かれているのだ。

 これはイタズラにしては手が凝りすぎている。なんといってもその絵は子供の落書き程度ではなく、かなり上手いことが素人の徹からしても一目瞭然だった。

 この手の込んだイタズラには何か秘密があるのではないかと、絵をひっくり返したり透かしたりと、試したが変化はない。

 しかし、徹が何気なくその絵に触れてみると……


「――!?」


 何かに吸い込まれるような感覚に陥った。何が起こったかは分からない。しばらくぼうっとしていた徹だったが、二、三秒くらいたったあたりで意識がはっきりとする。


「は!? な、なんだ!? 今のは何なんだ!?」


 徹は混乱していた。何が起こったのか理解できず先ほどの吸い込まれるような感覚に混乱し続けていた。

 そして考えても無駄だと判断し、辺りを見回した。足元はフワフワ、辺りは薄暗い。屋内だということは分かる。しかし見覚えがない。あまりに薄暗く状況が掴めないので、ズボンのポケットからスマホを取り出し辺りを照らしてみる。この空間がかなり広いことが分かる。徹が住んでいるワンルームの家なんか比じゃない。

 

 足元のフワフワの正体は何かと照らしてみると、それは熊の毛皮だった。カーペットにしている様だ。しかも頭の方までついている。これで熊だと分かった。これには徹も声を上げそうになった。

 壁には鹿の頭がついていたり、名前が分からない動物の剥製が置いてあったりと、狩りが趣味なのだろう。長物のライフルまで飾ってあるから恐らくそうだ。

 この空間の雰囲気に押し殺されそうになっていると……


「ようこそ、お越しになりました。心から歓迎致します」


 そんな少し年老いた男性の声が後ろから聞こえた。

初めて小説を書きますが、拙い文章ながら頑張っていきます。

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