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世界樹と精霊

―真っ暗な視界の先に小さな白い点が見えた。

その白い点はだんだんと近づき、大きくなっていく。

前の生で幾度となく経験した、意識が戻ってゆく感覚。


その感覚の中で僕は自分が「木森 草樹」から「世界樹」に生まれ変わったのだと理解した。


意識が覚醒した僕はゆっくりと辺りを見回す。

見回すっていうのはおかしいかな。今僕は木だし、当然目も無ければ体を動かすことも出来ない。

でも、今僕には視界があって、人が辺りを見回すように周りを見ることが出来た。

それが当たり前に出来る事だと分かっていたし、不思議だとも思わなかった。


僕はもう人間の木森 草樹ではなくて世界樹になったんだ。

ずっと自分がこの木であったような感覚。ずっと、古から自分がここに存在し続けているのだという実感。

今、意識が戻ったばかりなのに、不思議と僕の中にはそれがあった。


それは木森 草樹の――僕だった――魂が大樹と融合した時にその記憶も一緒になったからなのだろう。



だから僕は目覚めてすぐに彼女を探す。共に生まれ長い長い年月、僕を守り育ててくれた、大事な大事な彼女を。



○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○



―光が収まり、森にはいつもと変わらぬ光景が戻っていた。

泉はその中心部から滾々と水を吐き出し続け、動物たちは思い思いに食事をし、エルフたちは変わらぬ日常を送る。

まるで光のことなど無かったような。それは不自然なくらい変わらぬ日常。


そんな中、彼女だけはいつもと様子が違った。

世界樹を見上げる、精霊の少女だけは。


普段は穏やかで深い光を宿す瞳は熱く潤み、頬には朱が差している。

今まで感じたことの無い緊張に、そわそわと所在なさげに手を動かしながら目の前の世界樹を見上げる彼女の様子は、あるいは幼いその見た目に反してひどく艶やかにも見える。


苦しいくらい高鳴る胸で、余りの高揚感に熱を持ちぽーっとした頭で「彼」を見つめ続け、その時を待つ。



―ふと、目が合った。

当然、見つめる先に目などない。でも、彼女には分かった。

確かに互いの視線が絡み合い、お互いを見つめ合っている。私を見てくれている。


長く、とても長く感じた数秒間。



「おはよう、アルシュ。」



優しい、とても優しい。穏やかでゆったりとして、力強い声が彼女を呼んだ。


生まれて初めて名前を呼ばれて、彼女は―精霊の少女は―アルシュになった。「私」になった。




―名前を呼ばれた瞬間、私の時間が動き出した気がした。私の目に映る美しい風景が彩を増し、より美しくなった気がした。

苦しいくらい高鳴っていた胸が、穏やかになる。高揚しフワフワとした頭の中がスッとクリアになる。


私は落ち着いた気持ちで彼を見上げ、微笑みながら返事をする。



「おはよう、ソーキ。」



―長い長い時を経て。

―五千年の時を経て。



共に生まれた二人は、初めて言葉を交わした。

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