転生したら、五千歳でした。2
2.
広大な森の中心、滾々と湧き続ける泉の横にそそり立つ壁。否、大樹。
その隣で精霊の少女はいつになくソワソワしていた。
ここ数日、普段なら楽し気に話すはずのエルフ達との会話も上の空。
泉に水を飲みに来る動物たちも落ち着かない様子の彼女を不思議そうに見て首をかしげる。
きっと今誰かが迷い込んできても、彼女は手を差し伸べる余裕すらないだろう。
周りから見れば、普段は深く優しい光を宿している瞳も今はその見た目相応の落ち着かない様子を見せていた。
この場所に生まれて五千年余り。こんな気持ちは彼女にとって初めてだった。
自らが育て上げた愛おしい木。見る者に圧倒的な存在感と生命力を感じさせるそれにはまだ、魂が無かった。
長い長い、途方もない年月――五千年余り――を経て成樹となったその樹は未だ空っぽだった。
その樹は成長を終えて初めて、相応しい魂を得る。
そうして初めてその大樹は「世界樹」と呼ばれる。
そして共に生まれ、その樹を守り育てた彼女にはその日が近いことが分かっていた。
――やっとお話しできる。
共に生まれた兄弟のような、自分が育てた子供の様な、ずっと恋焦がれてきた恋人のような、ずっと共に生きてきた夫婦のような。
今までに感じたことの無い、心がフワフワするような不思議な高揚感。
―まずは何と声をかけようか。
――どんな話をしようか。
―――どんな声をしているのだろうか。
――――どんな性格なのだろうか。
―――――優しいと良いなぁ。
――――――意地悪だったらどうしよう。
―――――――そんなはずない。ずっと一緒に居るんだもの。
――――――
――――
―――
――
―...。
精霊の少女は自分の考えに一喜一憂しながら、その時を待っている。
ふと、一瞬森が暗くなったような気がした。
大樹に覆われた森には陽光は届かない。
代わりに生命力そのもののような優しく力強い光が大樹自身から発されている。
それが一瞬、消えた気がした。
それに気づいた精霊の少女は大樹に目を向ける。その瞳は少し潤んで熱っぽい。
そして次の瞬間――
大樹全体から優しくて暖かい、とても強い光が辺りを照らす。
その光はどんどん強くなり、森を覆い、大陸を覆い、大陸の外を囲む水を覆い、その世界全てを覆った。
――大樹は「世界樹」に成った。