草の死と木の生2
2.
「んんっ?」
そう、昇っている。上昇だ。上へ上へ。浮遊感。
色々な管に繋がれた自分の体を見下ろして、上昇していく視界。
「えっ?あれ?」
上へと目を向けると、迫る壁。天井だ。
「ぶ、ぶつかる!?」
思わず目を瞑る。
しかし、予想していた衝撃はいつまでたっても襲ってこない。
「あら?」
恐る恐る目を開けると、目に飛び込むのは青空。
「えっ!ちょっ」
混乱しながら下に目を向けると大きな建物の屋上が見えた。
少し遅れて病院の屋上だと合点する。
そんなことを考えている間にも視界の中の屋上はどんどん小さくなっていく。
まだ昇っているのだ。
「ええー、ちょっこれ、え、えぇー・・・。」
思いもよらない状況に戸惑いの声しか上げられない。
もちろんそんなことをしている間にも昇っていく。
そんな戸惑いの声を上げてから数分、僕は少しだけ冷静になっていた。
漫画の知識だったけれど素数は偉大だ。
相変わらずどうしてこうなったのかは分からないけれど、昇天なんて言うくらいだし死ぬというのはこういう事なのだろうと半ば強引に自分を納得させる。
そして今までアワアワしていて意識から外れていた視界に注意を向けると、
「わぁ~」
僕の視界には今まで見たことの無い景色が飛び込んできた。
いや、見たことはある。昇ってきた病院を中心にビルや家々。少し視線を動かすと川があり、流れを上流へ辿っていくと山が見える。
反対側へ目を向けると海だろうか。水平線がまだ高い日の光を反射してキラキラと輝いている。
――僕が十六年間過ごしてきた街並みを雲と同じ高さから見ているんだ。
それは入院中に両親から何冊も貰ったどの写真集の風景よりも綺麗に僕の目に映った。
(これが死ぬ前最後に見る景色なら悪くないかなぁ。)
どんどん小さくなっていく景色を眺め、そんなことを考えながら昇っていく。
と、何かが腕に引っかかる感覚。
「ん?」
それを感じてふと自分の腕を見てみると、鈎針が皮膚を貫いて刺さっている。なぜか痛みは感じない。
「な、なんだこれ!?」
思わず反射的に針の刺さった腕を自分の体側にグイっと引き寄せると瞬間!
「ヒィィィィイイイイイイット!!!」
どこからともなく興奮した女の子の叫びが聞こえた。