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草の死と木の生1

初投稿です。気長にお付き合いくださいませ。m(__)m

1.


外では蝉が命を燃やして叫ぶ中、何も聞こえない静かな部屋、病床の上で僕――木森きもり 草樹そうき――はその生を終えようとしていた。




現在十六歳。幸せだったと思う。


仲の良い両親に優しい祖父母、学校の友達にも恵まれた。

勉強は好きではなかったけれど、学校で友達と会うのは楽しかったし放課後は一緒に遊んだ。

悪友としょうもないいたずらをして近所のおじさんに怒られたりもしたけれど、今となってはそんな事も良い思い出だ。


休みの日には両親が色々なところに連れて行ってくれた。

僕の家族は祖父の建てた実家に二世帯家族で住んでいる。

祖父母も両親も同じ県内出身の為、僕には所謂田舎というのが無かった。

毎年夏休みになると、友達が遠方の父母の実家へ行くという話を聞いて羨ましい気持ちになったりもしたものだ。

しかしながら決まった行先が無い分、毎年違う場所への二泊ほどの夏休み旅行が家族の恒例となっており、毎年新鮮な景色を見る事は楽しいものだった。


そんな当時は当たり前だと思っていた幸せな日々がこれからも続くのだろうと思っていた十歳の頃、僕は倒れた。



いつもと変わらない平日の朝。

父は出勤し、自分も学校へ行く準備をして部屋から出たところで急に気が遠くなった。

――遠くなる意識の中で、慌てる母と祖父の顔が見えた気がする。


次に草樹が気づいた時には白いベッドの上だった。

まず目に入ったのはいつも見ている家の木天井ではなく一面の白。


霞がかった頭でボヤける目を右に向けると、両親がいた。

「あっ」と思って反射的に体を起こす。


「あれ?」


体が動かなかった。妙に体が重い。


「草樹!」

「あぁ!良かった!気が付いたの?聞こえる?」


目を開けた僕に気づいた父と母の声。


「うん。おはよう。」


蛍光灯の光しかなく、朝か夜かも分からない僕は取り合えず起きた時の挨拶をする。


珍しく強張った顔をして僕を見ていた両親は、そんな僕の声を聞いてふっといつもの優しい顔をしてくれた。




原因不明。


気が付いた僕にお医者さんと両親がしてくれた説明をまとめると、そういうことらしい。

十歳だった僕にもなるべく分かり易く説明しようと努力してくれているのが、子供の僕にも伝わってきた。


急に体の力が抜けて、意識を失ってしまう。体の機能も徐々に衰えていってしまう。

そんな病状。僕が寝ている間に色々と検査をしたみたいだけど、何も分からなかったらしい。因みに二日間意識がなかったそうだ。


そんなこんなで始まった僕の長い入院生活。

最初はいつ死んでしまうのだろうかと、とても怖かったけれど、二、三か月もすると慣れてしまうのは子供の適応力というやつなのだろうか。


症状は続いていたけれど、しばらくすると発作の予兆というか、「来そうだなぁ」というのが分かるようにもなってきた。

調子の良いときは病院の休憩スペースへ行ってみたりして、同じく入院しているおじいちゃんおばあちゃんに可愛がってもらったり、同年代の子と仲良くなったりもした。


時には学校の友達が見舞いに来てくれることもあった。

件の悪友と大声で騒いで看護師さんに怒られた・・・。


一年もすると見舞いは両親や祖父母、時々親戚が顔を見せてくれる程度になった。

けれど、病院内で仲良くなった看護師さんや患者さんがいたので余りさみしくはなかった。


病状は相変わらずで、予兆があるとは言っても発作の時間はマチマチであまり外へ出たりは出来なかった。

両親はそんな僕に色々な本をくれた。

子供向けの小説や漫画。色々な風景の写真集。

ベッドの上でそれらを読みながら空想するのが楽しかった。


そんな風に相変わらず原因が分からないままの病気と付き合いながらもそれなりな入院生活を続けて六年。十六歳の初夏。

病状は急に悪化した。


その日、予兆があってベッドで大人しくしているとふっと意識を失った。これまでも幾度となく経験してきた感覚なのであまり不安も無かった。

――気が付くと僕の周りには両親と祖父母がいて、皆心配そうな顔をして僕を見ていた。母は泣いていた気がする。


いつもは意識が戻ってしばらくすると動かせたはずの体が動かなかった。

目線だけで自分の体を見てみると管がいっぱい繋がっていた。

何か薬が効いているのか、頭はボーっとしたままだ。


「――――」

「――――っ」


周りで父や母が声をかけてくれているようだったけれど、耳に入ってきた声を頭が意味のあるものに変換してくれなかった。


そうしてそのままICUに入り、三週間ほど。



面会時間が終わり、一人になった中。



外では蝉が命を燃やして叫んでいるであろう中、既に聴力を失い何も聞こえない静かな部屋、病床の上で僕――木森きもり 草樹そうき――はその生を終えようとしていた。




――もし、もしも次があるのなら、もっといろんな景色を見てみたいなぁ・・・。

――あの写真集で見た様な景色をこの目で見てみたいなぁ・・。

――あの小説で読んだような冒険をしてみたいなぁ・・・・・・。


家族への感謝を思いつつ、そんなことを考えながら僕の意識は昇って行った。

草樹は優しい子。

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