「お母さんは車イス」
車イスのお母さんを持つ小学生のユリちゃんは、元気な女の子ですが同級生のタツミ君が自分のお母さんのことをバカにしたことが許せません。
そこでお母さんは、あることを想いつきました。それは・・・
「お母さんは車イス」 石橋千晶
ユリちゃんは小学3年生。元気いっぱいの女の子です。
ユリちゃんのお母さんは手足が不自由で車椅子でした。でもユリちゃんはお母さんのことが大好きです。
でも、ユリちゃんのクラスに1人、車イスのお母さんをバカにしている男の子がいました。
タツミ君です。タツミ君は、「や~い、ユリのお母さんは婆ちゃんみたいに車イスに乗ってら!ユリの
お母さんはお婆ちゃん!」 ユリちゃんは負けずに「私のお母さんはお婆ちゃんじゃないもん!優しい
お母さんよ!車イスに乗っているのは生まれた時から手足が不自由だから!」
ユリちゃんやユリちゃんの友達は怒りますが、タツミ君は聞かないふりをしています。
帰ってから、お母さんに言おうとしますが、お母さんが悲しむと思い、なかなか言い出せません。
いつもと様子が違うユリちゃんをお母さんは知っていて聞きました。
「ユリ、何か嫌なことがあったでしょう。何でも言って。」
ユリちゃんはびっくりして「お母さんは、なぜ何でも分かるの?」と言いました。
「お母さんは宇宙人だから。なんて冗談。ハハ!ユリはお母さんの子だから何でも分かるのよ。」
ユリちゃんは安心して、タツミ君のことを話しました。
するとお母さんはニコッとして、「明日でも、そのタツミ君を家に呼ぶわ。」ユリちゃんは不思議に
思いましたが、お母さんのことです。何か良い考えがあるのでしょう。
あくる日、学校の帰りの校門前で、ユリちゃんのお母さんはお母さんを手伝ってくれる人、ヘルパーさん
と一緒にユリちゃんとタツミ君を待っていました。
そしてユリちゃんとタツミ君は嫌々出てきました。
お母さんはタツミ君に、「あなたがタツミ君ね。もし、この後用事がなかったら、家に来ておやつでも
一緒に食べない?とってもおいしいケーキがあるの。それともお母さんがダメって言うかな?」
ニコニコしながら言いました。
タツミ君はぶっきらぼうに「お母さんは仕事で家にいないよ。」
と答えました。
「お母さん、頑張っているのね。では決まり!行くわよ!」
タツミ君はゆっくり後を着いて行きました。
すると途中でユリちゃんのお母さんは、「タツミ君、ちょっと車イスを押してみない?」と言い出し
ました。タツミ君は、びっくり。車イスなんて押したことがなかったのです。
後ろの持ち手をしっかり持って、恐る恐る押しました。
「うわ、上手だね!」タツミ君はまたまたびっくり。今まで人に褒められたことがなかったからです。
ユリちゃんの家に到着して、中に入ると色んな所に手すりがありますし、部屋はとてもキレイに整理整頓
されています。
テーブルにつくと、お母さんはタツミ君に「ありがとうね、学校からここまで来られたのはゆっくり
車イスを押してくれた、タツミ君ののおかげよ。」
タツミ君は、いつも、あれしなさい、これしなさい、ダメダメ!という自分のお母さんと違って、
ユリちゃんのお母さんは体が不自由だけど優しくて自分を褒めてくれるのが嬉しくなってきました。
ケーキとジュースを食べた後、お母さんが「ねぇ、タツミ君、おばちゃんは生まれた時から、この体
なのよ。でもね、おばちゃんはおばちゃんにしか出来ないことがあるし、苦手なこともあるよ。
人ってそれぞれ違うの。タツミ君ののお母さんも、おばちゃんと方法は違うけどタツミ君のことを愛して
いるの。だからあなたの為に一生懸命、働いている。おばちゃん、あなたのお母さんはステキだなと思う
よ。」タツミ君は真面目に聞いていました。
「それから、これからユリの友達になって、おばちゃんのところに、いつでも遊びにおいでよ。」
笑顔のお母さんに、「えっ、いいの?だって僕…」
ユリちゃんの顔をのぞいたら、ユリちゃんも笑顔で手を出しています。タツミ君はそっと手を出して握手
をしました。
それから2人は学校でも大の仲良しになりました。時々ユリちゃんのお母さんの家でも3人楽しく笑顔
いっぱいで過ごすことか多くなりました。
おわり
自分自身、体が不自由で車イスに乗っていて娘がいるので、こんなお母さんなら素敵だろうなぁと思って描きました。