通りすがりの旅人さん
さて、ある物語を簡単に紹介しよう。
あるとても仲の良い三つ子の三姉妹がいました。
綺麗な花畑に囲まれた大きいとは言えない家で、親子五人だけで暮らしていました。
父と母に愛され、感情豊かにすくすくと育ちました。毎日が幸せで、毎日が最高の日でした。
しかし、それは雨の日。10際を迎える頃、ある日突然父と母はいなくなりました。
三人は雨も気にせず外で泣きました。涙が枯れるまで、いつも自分達が泣いた時にさしのべてくれた温かい救いの手を待ち続けて。
何時間。何十時間。何日間も。
するとそこへ、
「お嬢さん達、大丈夫かい?」
三人は揃ってもう雨か涙か分からないものを拭い、顔を上げると、待ち望んでいた親の姿...は、見えなかった。
代わりに羽の生えた帽子をかぶった見知らぬ男が小さく笑っていた。
しばらくすると男は三人の隣に腰を下ろした。
「雨は好きかい?」
そう言った。三人が答えられずにいると、
「僕は嫌なんだよ、悲しくて泣いている空を見るのが。」
そして男はおもむろに服のポケットから三輪の色違いの花を差し出し、
「でもその雨のお陰でこの美しい命はその輝きを増していくのさ。空は悲しいのに僕達や幾千もの命が嬉しいのはフェアじゃないよね?」
続いて立ち上がり、
「だったらさ、僕達が空を笑わせてあげればいいんじゃないかな?」
「これは僕達も嬉しくて、綺麗な命は成長して、空も嬉しい。一番みんなが笑える方法かな」
三人の姉妹は泣きながら「どうしたらいいの?」と言うと、
男は空を見上げ
「そうだね、そのためにまずは君達が笑ってないといけないのさ、だからさ、顔を上げて下手な笑顔でもいいよ、笑ってみてごらん?」
三人は今度こそしっかり涙を拭い、空を見上げ、五人で遊んだ何気ない記憶を呼び起こす。(誕生日にパパがママと一緒に台所でケーキ作りをしている。でもパパは料理がへたでママに笑われて怒られてばっかり。完成したケーキはあまりに不格好で、だけど甘くて美味しかった......)
思わず顔が緩む。何気ない会話も面白くて、楽しい。
その時、空が光った。
否、見上げていた空の一部の雲が晴れたのだ。見る見るうちに当たりは明かりに包まれ、花畑全体を照らす。雨は止んではいない。
ただ一部太陽が顔を出しただけで、雨は降っている。だがさっきより暖かい雨粒がふっている。
「ほらね、空も笑った。僕は悲しんでいる空は嫌いだよ。でもね、|嬉し泣きしている(今のような)空は嫌いじゃないかな。見てごらん、世界はこんなにも素晴らしい。」
雨雫が残る花達は今までで一番美しく、眩しかった。
「それじゃあ僕は行くよ。」
「ん?僕は誰かって?」
「ただの旅人さ。」
ふっと笑って帽子を深くかぶり去っていく。少女達は顔を合わせて笑い合った。
立ち上がって、地面に置いてあったさっきの色違いの花を持って家に帰る。涙を拭って。過去と現在と未来を背負って。
そしてあの太陽の暖かさはあの救いの手とよく似ていた気がする、と。
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シンはこの物語が好きだった。
みんなが最高ではないが、最良の終わり方をする話。これは異世界英雄譚の五巻目。
シンは、戦いでみんなを守る英雄も好きだったが、人を救う面としてはこの物語はシンの一番好きな物語だ。この物語の英雄は旅人だろう。
ただ気になるのはその後の姉妹達だ。その後何をして、どのような人になるのかが気になって仕方が無い。
生憎その後の話は発売されていない。それを待ち続け、気づけば八度も読んでいた。
稽古が終わってから家に帰り、本を読んでこの物語九度目を読み終わって、大きな伸びをする。
「うぅ〜〜!読み終わった!もうこんな時間だ、寝なきゃ。」
本を閉じて本棚に戻し、なんとなく窓から空を見上げる。日付が変わる頃なので、街からは哄笑が聞こえてくる。
対して空は数限りない空が煌めいている。
しばらくの間眺めていると、キラリ。
「あっ、流れ星だ!明日は何かいいことあるのかな〜」
流れ星を見ると明日は特別な日になるらしい。
夜景を堪能し、最後に流れ星を一つ見て布団に入る。
そして今日を終える。
少年はこの後に流星群が訪れることは知らない。
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シンの意識が|仮想世界(ユメの中)へと移行を始めた頃。
「世界軸"集いし円環の地"を確認。」
仮想世界で、昼間に聞いた無機質な声が響く。
「転移します」
生きているか生きていないかで聞かれると生きている。心は死んでいる。用事で疲れきってしまって更新遅くなってしまいました...( ´ཫ` )
そして読んでくださった方、ありがとうございます!