西の妖精
読んでくださりありがとうございますฅ(* ´ ꒳ ` *)ฅ
ある都市の一角、ある部屋の真ん中で、本に囲まれながらスヤスヤと寝ている少年がいる。
読みかけだったのだろうか、開いたまま伏せられている本が頭の近くにある。
題名は異世界英雄譚のようだが...
ここで朝を告げる太陽が登ってくる。
窓から伸びる光が部屋の主、少年を早く起きろと照らす。
対して少年は「ウゥ...ン...」と唸り、180度回転、枕に顔を沈ませる。
さらに掛け布団を大きくかぶり、頭を入れる。これで太陽の光を完全に遮断する。
ニートや引きこもりの必須防御系スキル【天陽断絶障壁】を展開する。
障壁を展開し、完全形態となった少年は生ぬるい光じゃ起きない。
ここから意地でも3時間は寝るというのが少年の睡眠に対する想いだ。
その想いから無意識の中で障壁を展開することができるようになったのだ。
毎日のように繰り返される太陽と少年の攻防。
だが、1年365日ある。
引っ越してから2年間なので730戦するのだが、その中で太陽に軍配が上がったのはわずか4回。
がんばれ、太陽!
そして3時間弱がたった頃、
主が動く。まだ寝ぼけて意識が覚醒していないのか、「ウゥ...ン...」と唸っている。
これは太陽に対する勝利宣言か何かなのだろうか。がんばれ、太陽!
完全形態の主の右手が障壁の中から姿を現す。
次に左手、足、頭...最弱形態へと退化する。
頭が出た頃にはもう意識があったのだろう。
そして部屋を見回し、異常がないことを確認すると、
ここで第一声。「ねむい。」
少年は眠いらしい。だがここで1階から母親、彼女又はお嫁さんが眠気を吹っ飛ばすはず...
しかしこの家にはこの少年1人だけだ。もう少し寝ても文句は言われないであろう。
襲いかかる睡魔に身を任せ、夢の世界へと...
だが少年の本能がそれを止めた。それよりも大切なことがある。
「あ、、、そういえば本読み切ってなかった」
本を読んだまま寝落ちしてたことに気づいたらしい。
そしてまた1時間が過ぎた頃、部屋には寝息が響いていた。
しっかりと閉じられた物語は[異世界英雄譚:アリス]
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本を閉じて2時間がたった頃には完全に眠気から解放されていた。
「んー」っと大きく伸びをし、1階へと降りる。
少年は1人暮らし、田舎に両親を残して「田舎は暇」といい独りでこの街にやってきた。
だから1階にも人はいない。
手早く朝ご飯を作り、着替えを済ませ、剣を腰に携える。玄関の扉を開け、眩しい外へと足を踏み出す。
少年は、[物語の1頁目]をめくる。
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石畳をコツコツと軽快に足を進める。
今日も快晴、いい天気だ。太陽が綺麗に輝いている。朝の宿敵は昼の友というやつだ。
街は活気に溢れていて、野菜を売るおじさんの声、楽器をひく女性、昼間から呑んでいる人達...
みんな楽しそうだ。
樹精霊族、強剛族、強剛族の中でも小人族などもいる。
武婦族、獣人族など、人類族などの様々な種族が和気あいあいと顔に喜色を輝かせている。
誰も種族を気にせず、お年寄りから子供まで...
ここは王都ウォクラス、世界で最も人口が多く、最も活気のある場所だ。
そのため様々な種族の人達、珍しいものが沢山ある。
歩いていると、隣の店からお肉の焼けたいい匂いがし、さっき食べたばっかりなのだがつい足が店の方向へ回れ右をしている。
ふらふらと店につられそうだったのだが、お金がピンチな事を思い出し、なくなく今日の目的地へと歩みを再開させる。
「今日の...目的、は?!忘れるんじゃないぞ、僕!」と自分に言い聞かせる。
今日は剣の練習のために徴兵所の隣にある訓練所で、とある先生に稽古をつけてもらうのだ。
お肉の匂いを忘れられないまま歩く...
「えっと...確かこの道だったような...」
訓練所は家から30分ほどの所にある。
実は行くのは二度目で、さらに道が入り組んだりしていて、迷宮だ。
今もちらほら迷っている人達が見受けられる。
この王都に引っ越してまだ2年、家から500mの範囲は覚えたけどこの広く複雑な王都全部を覚えようと思うと30年はかかりそうだ...
遠い目をしながら歩き、手前の角を左に曲がった。さらにまっすぐこの家と家に挟まれた細い道を進むと、
今までの10倍賑やかで広い、王城へと続くメインストリートに出た。
王都にきて1年、このメインストリートへはまだ5回ほどしか訪れたことがないので、毎回その迫力に圧倒される。
この道の遠く、北の方に王城がうっすら見える。
「相変わらず、すっごい大っきいなぁ」
まさにそのひと言だ。この道と王城は150年かけて作られたもので、とにかく大きい。
そして人が多すぎる...
((お家帰りたい!))
「早く訓練所に行かないと先生に怒られそうだ...」
確か訓練所はこの南北に続くメインストリートの東側だ。
今いるのは西側、この道を渡るくらいなら夏にうるさいミンミンうるさい「ミンミン」の一生を見てるほうがまし。
と言われるくらい渡るのに時間がかかるのだ。
物が行き交い、人が列をなし、道幅は50mほどありそうだ。
普通なら渡るのに長時間かかるのだが、先生によるとここから右に16進んだ黄色の建物に行くと、道の地下を通って東側にある青い建物に行くことが出来るらしい。
この情報はほとんど知られてなく、先生に厳しく口止めされている。
人の流れに逆らい、100mほど歩くと【パンプキン・ガレッシュ】と言う店に着いた。
一見美味しいかぼちゃ料理のお店だが、店員さんに注文ではなく100ヘル払うと関係者以外立ち入り禁止の部屋に案内され、地下へと続く階段へ行くことが出来るらしい。
1度訓練所には行ったことがあるが、その時は朝早くに行ったのでなんとか道を渡ることができた。なので今回は初めてなのである。
僕はお店の扉をそっと開けた。
するとそこは食欲をそそる甘いかぼちゃの匂い、おしゃれな店内、メインストリートと比べて驚くほど静かで、優しい楽器のハーモニーが聞こえる。
店の中で読書をしている人や、友達と喋っている人がいる。
僕は空いていたメインストリート沿いの窓側の席へと腰を下ろす。
何故か少しドキドキしながら店員さんを呼び、ボーっとしながらメインストリートを通る白い色の馬車を適当に数えていると待っていると、、、、
「ご注文をおうかがいします!ちなみに私のオススメは【クリームパンプキンパイ】ですよ!」
衝撃が左胸に走った。
落ち着いた糸のように綺麗な金色の髪。
僕はこの人生が幸せだと思った。
笑顔が比喩抜きで輝いている。
なんて美しく可愛い人なんだろう。
この人は何をしているんだろう、何が好きなのだろう。思わず眺めてしまう。
何秒?何十秒眺めてたかは覚えてない、ただ見とれていた。
店員さんはきょとんとした顔をした後、はっ、と気づき
「あっ、失礼しました、つい癖で自分が気に入ったものを話してしまうんです...ご注文はなんでしょうか?」
少し赤面しつつテヘっとした顔で少し笑いながら謝罪してくる。かわいい。
「えっ.....あっ!えっと、んー」
やばい、何も考えてなかった、何も考えられない。
「じゃ、じゃあそのオススメのパイと、あれ?何だったっけ?」
パイを買うためにここへ来たんじゃない、と脳が叫ぶが考えられない。
すると店員さんが、
「今日はこの後何をするのですか?」
と問いかけてくる。あっ、と声を出してしまいながらもそこで100ヘル払うことを思い出し、慌ててカバンから財布を取り出す。
店員さんいわくこれを言うと地下を通ることを思い出すらしい。
「いいお財布ですね、色んな想いが詰まっています」
と、僕の何年も使ってる愛用の革財布について話しかけてくれた。
「わかるんですか?」
つい尋ねてしまった。
店員さんはクスリと笑い、
「そんなに沢山愛情が詰まっていると誰だって見たらわかりますよ」
「お金も詰まってたら嬉しいんですけどね...」
あははと乾いた笑い声を漏らし、お金の残り少ない中、100ヘルを払う。
「パイ代は150ヘルですね」
パイの存在を忘れてた...あと120ヘルしかない...
帰りの料金が100ヘル。歩いて渡っても、30ヘル足りないじゃないか。
本気で財布の隅々、カバンの奥まで探してる僕に、店員さんが
「もしかしてお金がなかったり...?」
図星を突かれる。そりゃそうか...めっちゃかっこ悪い...
「あはは...パイも食べたいけどまた今度にさせてもらいますね」
店員さんは少し考え、キョロキョロして周りに人がいないことを確認し、小さい声で
「せっかくなんでパイも食べていってください、お代はいらないんで、今回特別ですよっ」
右手の人差し指を立て、鼻に当て方目をつむって笑いかける。可愛すぎる。
「いやいやいや、そんなのダメですって」
頑張って断ろうとするも、
「お願いです、ほんとに美味しいんですよ?」
少し困った顔で言ってくる。断れるわけないじゃん、こんなの。
「じゃ、じゃあお代はまた来た時に返します...」
「返さなくて大丈夫ですよ、そのかわりにこの店の地下を使ってくださったり、常連さんになってくれたら嬉しいな〜なんて」
「ではお言葉に甘えて...」
「毎度ありです!!」
弾ける笑顔をお見舞いしてくれた。
ついでにあったかいパイを渡してくれた。
「それではこちらへ!」
促されるまま店の奥へと進む。意外と距離があるようだ。このお店も広いなと思いながら、僕は店員さんを見る。
少し前を歩く姿、黄色に近い金色の髪を後ろで束ねたお団子ヘア、服は店の制服なのだろう、メイド服のようなつくりだ。
身長は僕より10cmほど小さい。エプロン越しに少し膨らんだ双丘が見える。
時折見せる笑顔はまさに可憐な花のようだ。
眺めていると不意に彼女が話しかけてきた。
「私はリース・ケウデュポと申します。お名前をお尋ねしてもよろしいですか?」
リースさんって言うんだ...
一生忘れないでおこう。後世にも伝えよう。
「僕の名前はシン・パンテノンです。シンって呼んでください」
「シンさんって言うんですね!素敵なお名前ですね、私のこともリースと呼んでくださいね!」
むむっ、リースさんとかなり近づけた気がするぞ!今僕は過去10年間で経験したことのない達成感に満ち溢れている!
「そう言えばさっきの財布、素敵ですね!」
さっき足りなかったお金の話はしたくなかったが、これはギリギリセーフだ。
「おじいちゃんがくれたんです、これを持って大きくなって欲しいって...今はこの世界のどこにももういないんですけどね!今では時々寂しい時もありますが、財布があるから大丈夫ですけどね!」
「あぅっ、し、失礼なことを聞いてしまって申し訳ありません!」
リースさんが歩みを止めて全力で謝罪してくる。
「そんな、気にしなくていいよ」
おじいちゃん、あなたのおかげでリースさんと一言でも多く話すことが出来ました。
あなたを心から尊敬します。リースさんとの会話をありがとう。
少ししんみりした雰囲気になってしまったじゃないか...
やっぱりおじいちゃんを恨もうか?いや、死人にそれはひどいだろう。
「あっ!それより、パイはどうでしたか?」
うつむき加減で歩いていたりーすさんが顔を上げ、笑いながら聞いてくる。
この雰囲気を気を使ってのことだろう。優しいなぁ、かわいいなぁ、、、
「とっても美味しかったよ!あれがかぼちゃだなんて信じられないくらいだよ!」
ほんとのことだ、リースさんに気を使ったわけではない。とりあえずうまい!と叫びたくなるほどだ。
「でしょ!私もあれが毎日3食でてきても飽きない自信あります!濃厚なかぼちゃの味、あの甘味、じっくり焼いたのでパイはモチモチとカリカリ!我ながらいいできです!」
そう、お互いうまく言葉に出来ないが、とても美味しい。
「あれはリースさんが考えたんですか?!あのパイ絶対また買いに来ます!」
接客しかやってないのかなと思ってたからびっくり。お嫁さんにいつでもいけそうだ。
お嫁さんにしたい度か40くらいアップした!
「そうですよ!まいどありです!」
お互い笑いあった。
そして反対側の店に着いた、楽しい時間だった。
次はどんなことを話そうか、僕はどれだけ彼女を笑顔に出来るだろうか...よし、また来よう。また会って、また話そう。
「それではこの階段を上に上がれば反対側のお店です。短い時間でしたが楽しかったです。それでは、また!」
そういって笑いながら微笑んだ。
僕はお辞儀をし、リースさんに背を向け、階段を上がる。そういえば先生の稽古が目的だったっけな?先生の存在感は薄れつつあるのだった。
昨日の夜、ん?今日の朝?はどうやって物語を物語を進めていこうか布団の中で考えて、たぶんいい案が思いついたんだと思います。朝起きると完全に忘れてました。お布団は怖い...
英雄たちがメインだったはず...?
そのうち登場させますので...( ´ཫ` )
そして、使い方がわかりません(切実)
またゆっくり更新していきます(*`艸´)ニシシ