3話 VS五百体のゴブリン
村の端、入り口付近に俺と彼女はいる。遠くの方からはゴブリンの軍団がゆっくりと迫ってきている。
「今になって思ったがお前の天職なんだ?」
「天職ってなんですか?」
彼女は驚く。
「天職だぞ、天職! 見たことくらいあるだろう」
あ、そういえばシロネさんが言ってたっけ。生きることに必死ですっかり忘れてた。
「あっ、そうでしたね。でも、俺知らないんですよね」
「もしかして町に行きたいと言っていたのはそれが理由か?」
彼女は呆れた表情を浮かべ、ため息をついた。
「はい、一つはそれが理由ですね」
「その言い方、まだ何かありそうだがそろそろ時間だ」
「そうみたいですね」
ゴブリン達が確認できる距離までとうとう来た。ノーマルな棍棒だけでなく剣を持った奴や弓、斧、戦鎚、杖、大小様々な奴がいるがその中でも一際目立った奴がいた。他の奴よりも一回り大きくて横にも縦にも大きいし、また、それに似合わずこれまた大きな斧を持っていた。
「やはりな、奴がいたか」
「なんですか? あのデブ。それにデカすぎでしょあの斧」
「あれはキングゴブリンだ。群れを率いていると予想はしていたが、それよりも魔術師、弓術士少し面倒くさいのもいるな」
いろいろ知らない単語が出てきたが魔術師系に関しては魔法を放ってくるらしい。相手がそんな飛び道具や魔法を使う奴らなのに俺の能力(天職)は分からないときた。はぁ~。ため息しか出ない。
「お前にこれを貸しといてやる」
彼女が渡してきたのは短剣より少し長めの剣だった。
「ありがとうございます」
「勘違いするな。やる以上は少しでも役に立ってもらわないと困るからな。それにお前、何も武器持っていないだろ」
あぁ、そういえば戦うのに武器を何も持っていなかった。奪って戦うことに慣れていたからなぁ。面倒は見れないと言いつつも、意外と根はやさしい人なのかなぁ。その辺は分からないが。
「よし、いくぞ! 風属性付与」
彼女を中心に風が起こりその風が剣に纏わりつく。続いて、
「風靴」
足にも風を纏った。
「よし、俺もいきますか」
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竜は、ゴブリンに向けて駆け出す。狙うは心臓または首、奴らの攻撃を躱しながら一体また一体と葬る。今回とは比べものにもならないがこの前の集団戦を経験していたのが功を奏し、竜はこの数に臆することなく責めていた。前方だけでなく後方にも気を回し、数で劣勢ながらも互角に戦いを繰り広げている。
「ほんと、数が多い! うっとうしい!」
そして、戦闘開始からここまで数時間が経過。数もかなり減り残り百体程。
ここまでの彼女の方はと言うと足に付与した魔法で軽快に動き、また、同じように剣に付与した魔法で風の刃を飛ばし真っ二つにしたり竜巻起こしてゴブリン共を駆逐していた。酷いことに竜巻の中に捕らわれたゴブリンはグチャグチャにミンチされたりとなかなかエグいことになっていた。
竜もその光景を見たときは戦慄を覚えたようだった。
竜が小さなゴブリン共を駆逐していると、
"ヒュー、ヒュー"
火の玉と弓矢が降り注いできた。それも、仲間ものともお構いなしに。
竜は、避けようとするが周りにはゴブリンが密集していて完全に躱しきることは出来なかった。着弾、または、周りに落ちたことにより生じる余波を受けて吹き飛ばされる。
「ぐはっ、……クソが仲間ごとやるかよ」
火の弾を受けた竜の左半身は酷い火傷を負う。
「おい! 大丈夫か!?」
竜の異変に気づた彼女は駆け寄ってきて竜の体を起こす。
「だいじょうぶ……だ」
「そんなこと言っている場合か!」
彼女はポーチから緑色の液体の入った小瓶を取り出し火傷を負った部分に掛ける。すると、少しだが皮膚の熱っぽさがひいてくる。
「これ……は?」
「ポーションだ。これほどになると……気休め程度にしかならないとは思うが」
「すまない……助かった」
竜はお礼を言うと立ち上がり再び剣を握り直す。
「無茶だ! もういい、あとは私がやる」
彼女がやめさせるため説得しようとするがそれでも、
「どうしてそこまでやるんだ!?」
「言っただろ。あなたに助けてもらった命だと後で後悔するならしない方を選ぶ。それにあなたはもう限界がきているんじゃないのか?」
彼女もさすがにこの量に対し余裕で戦えるわけではない。疲労も見え始め彼女が持つ魔力量も限界に近づいてきていた。
「そうだけど、しかし!」
「まだ俺はこんなところで死にたくない。それに一人じゃムリだろ。あの強さであの数は」
ここにきて竜の感覚は驚くほどさらに鋭敏になってきていた。この時、残りのゴブリンはキングゴブリンとハイゴブリンだった。ハイゴブリンはゴブリンが進化ものであり竜は本能で感じ取った圧力から普通のゴブリンではないと思っていたようだ。
「普通この状況なら諦めるところだが、『死にたくない』か」
「そりゃ、誰だって生きたいだろう。あなたは生きたくないのか?」
「私だって生きたいさ! けど、見ろ相手はハイとキングだ」
「誰がムリと決めた? やってみないとわからないだろ」
その時、魔術師系が魔法を放つ準備を始めた。
「ちっ、またか。やるぞ、全部倒して生き残る!」
竜は、再度目の前の敵に集中し始めた。
満身創痍の体で諦めず立ち向かおうとする少年の姿に彼女の心にも何かくるものがあったようだ。彼女も立ち上がり剣を構える。
準備が終わった魔術師系の奴らが再び放ってくる。しかし、今度はさっきのようにはいかない。竜と彼女は炎弾を躱していく。攻撃が止むと、すぐさま残りの奴らに反撃をする。竜は手に持つ剣で的確に攻撃を入れていく。倒したゴブリンの武器も使い次々と苦戦を仕入れられながらも倒していった。彼女の方も足の付与を外し剣にすべてを集中させ倒していく。ここで竜が、
「そっちはあとどのくらいだ?」
「あと三体だ。そっちは?」
「あと五体だ」
それから、三、二、一とすべてのゴブリン、ハイゴブリンを倒し切る。
「後はあいつだけだな」
「ああ」
圧倒的多数で有利だったのにいつの間にか自分だけしかいないことに憤怒の形相を浮かべるキングゴブリン。
「グァーー!」
「使っていた風のやつってまだいけるのか?」
「後一回ぐらいだ」
「なら、それは最後の一撃に取っておくか」
「どうする? 策でもあるのか?」
「ある。簡単なことだ。俺が攻めて最後の一撃をあなたが決めて終わりだ」
「それは策ではないと思うが」
「いや~、だってさ……クッ」
「大丈夫か!?」
「ポーションとやらの効果も効かなくなってきたようだ。まぁ、打てるよう準備しといてくれ」
そう言って竜はキングゴブリンに突っ込んでいった。
「おい! やるしかないか」
彼女は、残りの魔力すべてを使いキングゴブリンを倒すため練り始めた。
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「よっしゃ! いくぞ、デブ野郎」
俺は、キングゴブリンを彼女の一撃で倒しきるため時間稼ぎと弱らせるため攻撃を繰り出す。
「グァッ」
奴も身に合わない大きな斧で反撃してくる。
"ブォーン、ブン"
「ヤバっ」
振るたびに風が起こる。その威力はなかなかのもので立っているのもきついくらいだ。気を抜けば吹き飛ばされそうになる。その中でも俺は躱しながら奴に切り傷を加えていく。
「おらおら!」
奴も斜めから下から振り上げたりと重たい攻撃で反撃してくる。
「グァー!」
「ちっ」
後ろに引きながら躱すが徐々に斧を振る速さが徐々に上がっていく。
「速くなってねぇか」
吹き荒れる嵐のごとく連続攻撃を繰り出す。
"ブン、ブン、ブン"
避けることに精一杯で反撃の隙が作り出せない。
「このままじゃ」
それでも俺は何とか攻撃を与えるため逃げつつその隙を窺う。奴が斧を振り上げた瞬間、そこが隙だと思い、俺はそこを狙う。しかしその時、奴が大きな声を発する。まるで威圧するかのように。
「グァーーーー!」
刹那、俺の体が硬直した。奴は、そこを逃さず、にやついた表情を浮かべ斧でぶっ飛ばした。
「ぐぅっ、ぐぁー!」
硬直は、ほんの一瞬の出来事だったのであたる瞬間に剣で斧の刃から身を守った。だけど、さすがに勢いまでは殺せなかった。立ち上がろうとするが攻撃の衝撃でクラクラする。
「はぁ、はぁ、くっ、剣が折れたか。ちっ、後は素手しかないか」
と、ここで彼女が、
「準備が出来た。いつでもいけるぞ!」
やっときたか。ちょうどもう限界だったしナイスタイミング!
「よしっ! 隙を作る」
「ああ、頼む」
俺は、彼女の攻撃を当てるため隙を作るべく再び攻める。今になって気づいたがどうやら、あの時の感じた力を身に纏っているような感覚だ。もう限界なはずなのに不思議と力が沸いてくる。奴が振るってくる斧をギリギリながらも躱す。
「いい感じだ。何でも出来そう」
普通ならこんなことはしないだろう。でも、なぜか出来そうな気がした俺は、奴が攻撃してきた斧に向かって素手で殴った。すると、斧が砕けたではないか!
キングゴブリンもまさかの事態に困惑しているようだ。
「マジで!? 今だ!」
彼女もそれには驚いたことだろう。
「あっ、あぁ。風竜巻!」
風が吹きあふれる。当たると同時に風の刃がキングゴブリンを切り刻んでいく。威力が凄まじくそんなものに抵抗できるはずもなく。
「グギャーー!」
止んだ頃には無惨に切り刻まれたキングゴブリンが横たわっていた。
「おわったー」
「あぁ」
「だいじょうぶか?」
「それを言うならお前もだろ」
「そうだったな……」
なんとか無事終わったな。とりあえず今はすごく休みたい気分だなぁと思っていたところ急に眠気みたいなものが襲ってきた。
「おい! しっかりしろ!」
まぁ、いいや。戦いも終わったしひとまずは休むことにしよう。そう思いつつ俺は気を失った。
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