プロローグ②
今、俺の目の前に神々しい光を放つ幼女がいる。
「あなたは誰ですか?」
「そうですね、地球人が言うところで神という存在にあたりますね」
マジで! そんなことがあり得るのか、というか神様って本当に存在するのか。ということは、やはり俺は死んだということなのだろうか?
「その表情、まぁ無理もありませんね」
「どうして俺はここに、死んだのですか?」
「生きています。貴方にはお願いしたいことがあってこの場に連れてきました」
良かった~、まだ生きてる。でも、お願いかぁ。神様のお願いだからとんでもない内容のような気がする。
「貴方には世界を救ってほしいのです!」
はい、きましたー! 案の定、俺の予想通りすごいのがきたー! 「世界を救ってほしい」と。
「いや、ちょっと意味がわからないんですけど。俺にはできそうにないので別の方でお願いします」
俺は、即座に頭を下げて断った。
「そうですよね。いきなり連れてこられてそんなことを言われたら断りますよね。話だけでも聞いてもらえませんか?」
まぁ、話くらいならいいか。
「話だけなら聞きましょう」
神様は話し始めた。
この世界とは違う異世界で種族も人間だけでなく魔族やエルフなど様々な種族がいるらしい。人間社会では身分も階級にわかれていてこちらの世界では科学が発達しているが、向こうではファンタジー小説では定番である魔法が発達しているらしい。なぜ、この場に俺を呼んだか? ある日を境に魔族が急に暴走し始めて「俺たちこそが最強種族だ!」と言って、まるで何かに取り憑かれている様子で侵略し始めたらしい。このままでは全面戦争が起こるかもしれない。神なんだから神がやればいいじゃんと思ったが、どうやら世界で起きていることに神は大きく干渉できない。元は平和な世界だったはずなのにこんなことになってしまったのは、もしかすると何者かによって操られている可能性があるらしい。だから、神様は俺を送り平和に導いてもらおうと。
「どうでしょうか? 貴方の考えは変わりませんか?」
神様は目をうるうるさせ上目遣いでお願いしてくる。
そんな目で見ないでほしい。心が揺らいでしまう。しかし、
「やっぱり、めんどくさそうなのでいいです」
「そこをなんとか」
言われてもなぁ。
「それよりもさっさと帰してくれません?」
そう、本来であれば俺には道場の手伝いが入っているんだ。こんなところで貴重な時間を使っていられない。
ところが、神の返答は、
「それは無理です」
「どうして?」
「無理だからです」
はぁぁー! なんで無理なんだよ! こっちにも予定があるのに。
何回も言うが神様は無理の一点張り。
さすがにキレてしまった俺は、「さっさと帰らせろやクソ幼女」と心の中で叫んでいたつもりだが。
「貴方、今、私のことを『幼女』と言いましたよね? それも『クソ』と」
あれ? まさかの声に出していた。
「いえ、そのようなことは言ってません」
俺は、シラを切った。
「いいや、絶対に言いました! かすかだけど聞こえました」
ヤバイ、これ絶対に無理だわ。何度も言うが相手はますます不機嫌になっていく。どうしよう、俺は必死に考えるがその必要はない。人ならまだしも神様の逆鱗に触れた、ここで俺の人生も今日ここで終わりを迎えるはずだろう。悲しいかな、まだ俺にはやりたいことがたくさんあったが……。走馬燈のように思い出が浮かんでいるとき、別の人が現れた。
「失礼します。神様、お茶をお持ち致しました」
黒髪ロングでおっとり系美人が来た。おそらく神様の付き人なのだろうか?
「シロネ、こいつ消していいか?」
「いきなり何を言っているのですか!」
完全に終わりましたね。さらば城谷竜。まぁ、最後神様に会えただけでも良かった。
神様はここまでの流れをシロネという人に話している。
「いいのですか? ここで消したらもう助ける機会はなくなると思いますよ」
「でも~、こいつ、私のことを幼女と言ったし」
ん? 助ける機会とはどういうことだろう? 世界救って終わりではないような言い方だなぁ。
「あの~、ちょっといいですか? 世界を救うために呼ばれたのではないのですか?」
「結果的にはそうなると思うのですが、理由は別にありまして……。申し遅れました。私は、シロネと言います」
その後、追加で言われたことは、暴走している魔族の王がどうやら神様の友達らしい。「救ってほしい」とは世界ではなく魔王の方らしい。なんでも向こうの世界では暴走を止めるため魔王を討伐する可能性があるからだそうだ。
「どうしてそれを言わなかったのですか?」
「それは……個人的なお願いではやってくれないと思って……。話を大きくして世界を救い平和に導いてもらうついでに助けてもらおうかと」
確かに普通にみると友達同士がやるようなお願いに近いけど、
「あの言い方だと、もし仮に俺を送った場合俺なら普通に魔王殺してますよ」
神様は面を食らった顔になる。
「そりゃ、世界を救ってくれと言われたらおそらく暴走の元凶である魔王を殺しますよ」
それにしても魔王と友達ですか。やるにしても危険は必ずつきものだしもしかすると死ぬ可能性も大いにある。あのように言ったけど向こうの世界にも少しずつだけど興味が沸いてきてしまっている。どうしたものか。
ここで神様が頭を下げ、
「お願いしますどうか友達を助けてください」
仮にも目の前にいるのは神様だ。が、こんなにも可愛い子に頭を下げられるとなんか断り辛い。ここは覚悟を決めよう。
「わかりました。やってみます。けど、絶対成功するとは思っていないのでもしもの時は最悪の状況も想定しておいてください」
「ありがとうございます。そのことは分かっています。その時は貴方の判断に任せます」
話もまとまりシロネさんが、
「どうやら決まったようですね。では、これから貴方を向こうに送る準備と能力を」
まずは俺の力について、向こうの世界では天職と呼ばれていて誰もが何かしらの能力を持っているらしい。肝心の俺の能力はと言うと、まだはっきりと分からないらしい。ビックリ! 俺を選んだ理由も他とは違う何かがあるらしくもしかすると未知の能力かもしれないからだそうだ。でも、能力については向こうで必ず分かるので心配する必要はないとのこと。本当に大丈夫なのだろうか。
もう一つ、どうやら神様は幼女ではないそうだ。俺をここに呼びそして向こうに召喚するためのと力を与えるためにした結果なんとあのような姿になってしまったらしい。実際はかなり美しいらしい。もちろんさっきの発言については全力で謝りましたよ。無事許してもらえました。
「後は貴方の服装を変えます。向こうではおかしいですから」
シロネさんが何か言葉を発する。すると、俺の身体が光に包まれ、そして輝きが消える。その後、鏡を出し全身を映す。黒のシャツに黒のズボンで側面にはラインが入っていて後は肘、膝、胴当てが装備されている。初期装備って感じ。どうせなら最強装備がほしかったが、余裕がないらしい。一番驚いたのはまさかの目と髪の色が変わっていた。赤目で銀髪、まるでアニメの主人公のような。
「服装はわかりますけど何で目と髪の色が変わっているのですか?」
「私の趣味です! めっちゃ似合いそうでしたから。やってみて正解だったわ。私の好みです」
そんなことできるのですか! さすが神ってところかぁ。やったのは神様ではなくシロネさんだけど。そんなことに貴重な力を使うなら装備に使ってくれても良かったのでは……。というかシロネさんの趣味って……。もしこの場に敦がいたらこういうの分かりそうだけど。
「戻してくれませんか?」
「い~やっ! だめです」
うっとりした表情でずっと俺を見つめている。ダメそうなので俺は諦めた。
ここで余談が入るが、竜は顔立ちはそこそこよかったので以外と似合っていたのもまた事実。
「シロネ、シロネ! そろそろ」
神が呼んだことによりシロネさんは正気に戻る。さっきまでの緩い口調とは違いしっかりとした口調になる。
「あっ、申し訳ございませんでした神様。それでは城谷竜様、今から転移させます」
いよいよだな。どんなところか楽しみだな。だが、気を引き締めていこう。
「城谷竜、細かいことは向こうに行って自分で見て確かめてください。お願いします。そして、頼みを聞いてくれてありがとう」
「ああ、最善を尽くすよ」
自分の足下を中心に魔方陣が広がる。俺、城谷竜は、神様の友達である魔王を救うため異世界に転移した。