ないん
「はぁー、疲れた」
長谷雅に送ってもらって、やっと家に着いた。
「大変だったね。俺が一緒に行ってよかったでしょ?」
「別に。」
「素直になりなよ〜。」
「ま、まあ、いてくれて……よかっ、た。」
つい本音が出た。
「ごめんね、怖かったよね」
私を1人にしたことへの謝罪だとしたらしなくていいのに。急に真面目な顔になった長谷雅に少し戸惑ってしまった。
「へ、平気だよあれぐらい、ってわぁっ!」
突然腕を引っ張られて、目の前には長谷雅の胸が。
「ちょっと、何するの」
「びっくりした。夕紀ちゃんのところに戻って来たら変な人たちに絡まれてたから。」
「だったらすぐ来てくれれば良かったのに」
こんな言葉をぶつけたいわけじゃないのに、甘い優しさの包まれる自分が恥ずかしくて言いがかりを付けてしまった。
更に強く抱き締められて少し苦しくなった。
「ごめんね。もっと早く助けに行けばよかった。」
長谷雅は何も悪くないのに、また優しい声で私に謝った。
「ごめん、あんたは悪くない…。私の八つ当たりだから。だから、えっと、苦しいんだけど。」
「あっ、ごめん、つい」
長谷雅の腕から解放されて、たくさん酸素を吸い込む。
「じゃ、気をつけて帰って」
少しでも速く長谷雅と離れたくてドアに手をかけた。
「あ、ちょっと待って。はい」
雑貨屋さんの袋を渡された。
「何これ?」
「一緒に出かけてくれたお礼」
「これ、彼女にあげるんじゃなかったの?」
「彼女?いないよ~。言ってなかったっけ?」
「聞いてない。てか、お礼なんていらないよ、大したことしてないし、助けてもらったし」
「いいのいいの。俺が貰って欲しいの。いらないなら捨てといてー」
「…うん、そうする」
「え、捨てるのっ?」
「冗談ですー、ありがたく頂戴いたします」
「良かった。じゃあ、また今度ね!バイバーイ」
「うん。」
いつもの優しい笑顔で手を振る長谷雅に、気づいたら頬が緩んでいて、頬をバシバシ叩いた。
家に入るとお母さんが帰って来ていた。
「おかえりー、どこ行ってたの?」
「買い物。小春の誕生日プレゼントとか」
「あらそう、もうすぐ小春ちゃんの誕生日なのね。また家に連れて来なさいよ~」
お母さんは小春が大好きだ。小動物みたいで可愛いらしいからと。その点ではお母さんと気が合うようだ。
「はいはーい」
適当に返事をして自分の部屋のドアを開けた。バタンとドアを閉める。
「はぁーーー」
大きな溜息が出た。幸せ逃げるって言うけどそれどころじゃない。
「なにこれ…」
さっきから心臓がバクバクして止まらないたぶん長谷雅に抱きしめられた時からだ。
「あー、変だなー」
小春に聞きたいけど今は部活の合宿に行っている。携帯を開き小春にメールを打った。
【小春の誕生日、空いてる?】
送信。休憩時間とかだったら返信がくるかもしれない。
ピコン。
予想以上に速かった。
【空いてるよ~】
良かった。
【じゃあその日に映画見に行かない?雪だるまが冒険するやつ見たいって言ってたよね】
送信。
ピコン。
【いいねいいね!そうそう、あの雪だるま凄く可愛いの!】
確かに、小さな雪だるまがちょこまか歩く姿を宣伝で見たけど可愛かった。
【お母さんがチケット貰ったって言ってたから買わなくていいからね。合宿頑張って!ばいばい】
送信。
ピコン。
【ありがとう♡楽しみにしてるね!バイバーイ(=゜ω゜)ノ】
この変な気持ちの理由を小春に聞いてみよう。
そういえば、と長谷雅に貰った袋を開けてみると中には私が雑貨屋さんで見ていたミサンガが入っていた。
また胸がきゅうっと締め付けられた。