えいと
私は今、可愛い雑貨屋さんを物色している。いっぱい商品があって、どこ見ればいいかわからないくらいだ。
「…あ」
目にとまったのは、ミサンガ。黄色とピンクの糸で編んであって、明るくて綺麗。
ついつい眺めてしまっていたけど、私には不似合いなので当初の目的であるマスコットコーナーへ。
クマやウサギの小さなぬいぐるみが凄く可愛い。もちろん、ストラップ付きだから使い勝手がいい。
「夕紀ちゃん、こういうの好きなんだー」
「好きは好きなんだけど、これは友達の誕生日プレゼント」
来週は小春の誕生日だからね。小春はやっぱりウサギかな。
「そっかそっか、俺も何か買おうかなー」
長谷雅はフラフラとどこかに行った。周りの女子たちが2度見、いや3度見している。見た目はモデルみたいなもんだから当たり前か。
性格は超超タラシだけど。
小春によく似た白色のウサギのマスコットを買ってお店を出た。長谷雅はまだ店内のはず。さすがに別のお店には行ってないと思うけど、そこらへんの美人さんをナンパしてどこかに行った可能性もなくは…
「夕紀ちゃん、発見~」
普通にお店から出てきた。ナンパしてなかったのが意外。手にはこのお店のオレンジ色の袋。彼女にプレゼントでも買ったのかな。
「えっと、次は文房具ね」
ノートとペンのインク買わないと。
「はいはーい」
長谷雅は遠足に来た小学生の様に元気に返事をした。
「最近の女子高生はこんな可愛いの使ってるんだ~」
大量のカラフルなペンを眺めながら長谷雅が呟いた。
手には、自分で買った雑貨屋の袋と私が小春に買ったマスコットが入っている袋が握られている。
自分で持つって言ったのに、どうしても荷物持ちがしたいって譲らなかったのだ。
「お父さんみたいなこと言わないでよ。女子大生でも使うでしょ」
「そうかもー」
「そうかもって、あんたの周りは女だらけじゃん。見てないわけないでしょ」
「見てないよ~」
のほほんと言いやがる。いったいこの男の女付き合いはどうなっているんだ。
「ペン貸してもらったりしないの?」
「しない。」
「あんたって本当よくわかんない。」
「ならこれから教えるよ~。どこから言えばいい?好きなタイプ?好きな食べ物?」
「言わなくていいからっ」
「そういえば、ケンに頼まれてるものあるんだった。ちょっと行ってくるね」
そう言って長谷雅は爽やかにどこかに行った。
「あれっ、御山じゃん」
急に名前を呼ぶ声がして、後ろに見覚えのある顔があった。
「久しぶり、だね。彩華。」
「まじ久しぶりー、相変わらずムカつく顔してるじゃん。」
彩華は私と同じ中学校出身で、よく嫌がらせを受けた。表情が変わらない私を見るとイライラするから泣かせたい、という単純な理由で。
「誰こいつー?」
彩華の取り巻きみたいなケバい女が言った。
「中学一緒だったやつ。」
「へー。」
そう言って取り巻きは何か思いついたようにニヤッと笑った。
「ちょうどいいじゃん。ちょっと付き合ってもらおうよ。」
彩華もニヤリと笑った。
「本当だー。うちら今からカラオケなんだけど人数合わせであんたも来なよ。」
ただのお誘いではないことくらい一目瞭然だ。絶対何か企んでる。
「遠慮しとく。」
「は?あんたに拒否権ないから。」
友達と来てるからって言おうとした時、柄の悪い男達が彩華達のところに来た。
「何してんの?お、結構美人じゃん。こいつも連れてくのか?」
私の頭から足までを舐めるように見て気持ち悪く言い放った。
「まあね。でも断られたから無理にでも連れてってよ。コイツのこと好きにしていいから。」
「おう。お前ら手伝え。」
男は他の男達に命令し、3人で私に近づいてきた。連れて行かれたらタダじゃ済まされないだろう。
じりじり後ずさり、壁にぶつかってしまった。
「じゃ、行こっか。カラオケ」
相変わらずニヤニヤしている男達。本当に気持ち悪い。
「何してるの?」
聞きなれた声がした。
そして、長谷雅がいた。
「は?誰だよお前。」
「誰でしょー?」
「知るかよ。行こうぜ」
男が私の腕を掴んだ。
「ちょっと待ってくれないかなー。夕紀ちゃんは俺の彼女なんだよね」
え?何言ってるの。
「そんなの関係ねーよ。今日だけ貸せよ」
「えー、嫌だよ。しつこいとモテないよ?」
「よ、余計なお世話だっつんだ!彼氏とか気取ってるけどそんな細い体で俺たちに勝てんのか?」
文房具屋で何をしてるんだこの男達は。しかも若干怖がっている。
「逃げないならいいよ。…警備員さーん、こっちこっち」
「なっ、警備員だと⁉おまえら行くぞ!」
意外にも度胸がない男達は尻尾を巻いて帰って行った。彩華もその後を追っていった。
「はぁー」
安堵のため息が溢れる。
「大丈夫?」
「大丈夫に決まってるでしょ」
本当は結構怖かった。体中の力が抜けて、立っているのが少しキツイ。
「強がらないのー。震えてるよ?」
「い、言わなくていいっ。それより、警備員は?」
「あ、嘘だよ」
「はあ?」
「警備員って言えば逃げるかなーと思って。俺の演技うまかったでしょ?」
「逃げなかったらどうするつもりだったのよ」
「強行突破。大暴れはできないけどね。俺結構強いんだよ~」
本当かは定かじゃないな。でも、助けてくれたし少しは見直した、かな。
「……ありがと。」
凄く小さな声で言うと長谷雅はニコッと笑った。
「どういたしまして」
少しだけ、ほんの少しだけ長谷雅がかっこよく見えた。
「あれ?顔赤いよ。もしかして、俺に惚れた~?」
「なっ、そんなわけないでしょ!そういえば、さっき私を彼女って言ったやつ、どういうつもりよ。」
「だってその方が面白いじゃ~ん。夕紀ちゃんだって、俺が彼氏だったら嬉しいでしょ?」
「そ、そんなことないから!」
前言撤回だ。