しっくす
寒い寒いと言っている間に冬休みに突入した。
「夕紀~、会えなくなると寂しいよー」
私に抱きつきながら小春が言ってくれる。
「私もだよ。冬休みも遊ぼう」
「うん!」
「小春ー」
山下君が小春を迎えに来た。月曜日と木曜日は一緒に帰ることになってるらしい。
「あ、和弥君!すぐ行くよー。じゃあ、またねっ!」
嬉しそうに山下君と歩く小春を見ると私まで頬が緩んだ。恋する乙女である。
2人が校門を出て行くのを教室の窓から眺めた後、帰ろうと立ち上がったとき、
「どいつもこいつも宮島かよ」
後ろの席で帰り支度をしている沢田がぼそっと言った。
「ん?」
「山下君を取られて拗ねてるんだ」
「なっ、俺はそんな小せえ男じゃねーよ」
見た目は小さいけど。
「へー」
「今俺のこと身長は小さいのにって思っただろ」
ぷくーっと頬を膨らませて睨んでくる。あたしより小さいから子犬が威嚇しているようにしか見えない。
「ほんと子犬。」
「だーかーらー、子犬って言うなっ」
「ふふっ、はーい。それで、本当はなんで拗ねてるの?」
「別に」
「せっかく聞いてあげようと思ったのに。話したくないならいいよ、帰るから」
「えっ、ちょっ……あーもう、御山の言う通り、俺寂しいのー」
「やっぱ犬じゃん」
飼い主が構ってくれなくていじける子犬。
「最近、和弥が宮島ばっかだし。一緒に帰る日減ったし。今まで和弥に彼女ができたことなんて1度もなかったのにぃ」
「山下君、彼女できたことなかったの⁉」
「そうだよ。だってアイツ女子苦手だもん」
「えっ!小春と付き合ってるじゃん」
「俺もびっくりだよ。しかも和弥から告ったし。宮島といると気が楽になって話しやすいらしーよ」
これは驚き。
「確かに。すごく温かい気持ちになるんだよね」
「ったく、どんな能力だよ」
「あんたさー、女子に嫉妬してどうすんのよ」
沢田の顔が赤くなった。
「はっ、べ別に、嫉妬なんて」
「してるでしょ。もしかしてあんた……こっちなの?」
手の甲を内側にして顔の斜め前で立てた。
つまりオネエなのかってこと。
「ちっ、ちげえよ!それだけは絶対ない!」
「あ、違うんだ。」
「当たり前だろ!」
「はいはい。月曜と木曜は一緒に帰ってあげるから。」
「まじ?」
目を輝かせる沢田。ついでに尻尾も振ってるな。
「うん。どうせ方向一緒でしょ」
「よっしゃ!」
素直なのか単純なのか。どっちもか。
いつもは1人で歩く道を沢田と歩く。こいつとは、私が今の家に引っ越してから知り合った。小学4年生からの付き合いで、うるさいご近所さんだ。
「小学生以来だなー」
「そうだね」
「御山はさー、寂しくないの?」
「なんで?」
「宮島が和弥と付き合って。」
「寂しいわけないじゃん。小春がずっと好きだった人と両想いになれんたんだから、むしろ嬉しい」
「すげーなー、おまえ。俺はそんな大人になれねーっ」
小さな犬が鳴いてるみたいだな。自分の飼い主が他の人といるのはやっぱり辛いものなのか。
「いつかなれるんじゃない」
「だといーな。そーだ、御山は好きなやついねーのか?」
「いないよ」
「初恋はいつだ」
「まだだけど」
「まじか…ブファッ今時いるんだな、ハハハッ、御山らしすぎてハハッ、おっかしアハハハーっ」
爆笑し始める沢田。世の中の恋がまだの女子を敵に回したな。
「失礼な。そう言うあんたはどうなのよ?」
「俺か?ふふーん、俺はいるもんねー、好きな人」
こんなワンコでもいるのか。
「意外、誰か教えてよ」
内緒話をする時の、いわゆるコショコショ話の形で聞いた沢田の好きな人は、今は遠い所にいる私たちの幼なじみの名前だった。
「内緒だぞ!誰にも言うなよ!?絶対にだぞ!」
「はいはい」
耳元で話されたから凄くくすぐったかった。