ふぁいゔ
「あっ、夕紀ー!おかえり。ねぇねぇどうだった?」
図書室に入って来た私に目を輝かせる小春。
「変な人だった」
率直な感想を言った。
「あ、あら、そうだったの。でも結構かっこいいよね」
「うーん、思っていたより普通で期待はずれだったかも」
「あなたいったいどんな想像を」
「もやし」
「も、もやし⁉」
「うん」
「そ、そっか。えっと、どんな話だったの?」
「あー、付き合ってくれって」
「やっぱりっ。それで、返事は?」
「断ったよ」
「そっかぁ。でも変な人は嫌だよね」
「うん。じゃ、そろそろ行こうか」
にこっと笑ってみせる。小春みたいに上手にはできないけど。
「うん!」
顏全部を使った優しい笑顔が返ってきた。
現在、私と小春は私が提案したアイス屋さんの中。
「わぁ、おいしい!」
コーンに乗った2つのアイスを嬉しそうに頬張る小春。
苺が大好きな小春は2つとも苺味だ。
「こっちもおいしいよ。」
私のは抹茶とバニラ。迷った時はいつもこの味。
「ちょっと交換しよ~」
「ん」
小春の頼んだ苺味のアイスは果肉がそのまま入っていておいしかった。
「苺もおいしいね」
「でしょ!抹茶もさっぱりしていて飽きないね~」
「でしょ」
アイスを食べ終わってからも雑貨屋や服屋を見るなどであちこち歩き回った。
「あ~、楽しかった」
「歩きすぎて足が…」
「パンパンだよね。さっき撮ったプリ、切ったから半分あげるね」
上手に表情をつくる小春と、全部同じ顔のあたしが写っているプリクラを小春から貰う。
「ありがと、大事にする」
「うん!じゃあ、電車くるから行くね。また明日!ばいば~い」
「じゃあね」
小春が電車に乗るところ見て、私も帰り道を急ぐ。小春ほど家が学校から遠くないので、私は徒歩通学だ。
学校が終わるのが早かった日とはいえ、たくさん遊んだからもう外は暗い。
それに、今日は録画予約を忘れたアニメが入る日。
急がなくては行けない。
私はうっかりして、何も考えずに最短ルートに足を進めた。
時間を気にしながら小走りをしていると後ろから手を引かれた。
「え…?」
恐る恐る振り返ってみると超笑顔の長谷雅がいた。優しい笑顔じゃなくて、黒い感じの笑顔。
「さっきから声かけてるのに無視しないでよー」
「ごめんごめん。全然気づかなかった。じゃあ、急いでるから」
とりあえず謝って歩く速さを強めた。
ぐいっ。
ん?……あ。長谷雅に手を掴まれていることを忘れていた。
「放して」
「やだ」
「今すぐ放しなさい」
「何で?」
子犬のような目で見つめてくる。
凄く整っている顔でこんな表情をするのはずるい。
残念なことに子犬の可愛さをうまく表現している。
「な、なんででも」
「別にいいじゃん」
「よくない。あーもう、時間ヤバいから放して」
「…家に早く着けばいいんでしょ?」
何か企んでいる顔。
「ま、まあそうだけど」
「よし、じゃあ行こう!」
「えっ?ちょっ、まっ」
長谷雅は私の手を掴んだまま走り出した。
ぐいぐい引っ張られる。
「これで速く着くでしょ~」
言葉が出ないほど辛いスピードが出る。
どれくらいたっただろうか。
きっとそんなに長くはないけど、私には凄く凄く長く感じた。
「す、こし…止まっ…息、が」
「あっ、ごめんごめん。夕紀ちゃんは運動音痴だったね。忘れてた」
間違いない、これはさっきの仕返しだ。私が気付かなかったことを根に持ってるんだ。
「……あんた…わざと、でしょ…はぁ」
「まあまあ、そう言わずに。ほら、もう着いたからさ」
「え…」
下を向いて息を整えるのを中断して顔を上げると、そこには見慣れた家が。
表札は御山。
「じゃ、俺はもう帰るよ。バイバーイ」
「え、あ、うん」
長谷雅の恐ろしさに触れた。