すりー
学校からの帰り道。図書室で勉強するのも悪くないなと思っていると後ろから肩を叩かれた。
振り向くと長谷雅がいた。
「夕紀ちゃんって結構帰るの遅いんだね~」
隣に厚化粧な女性を引き連れている。
「雅くーん。この子誰ー?」
甘ったるい声で長谷雅の腕を組む。
「ケンの妹だよ」
長谷雅は兄のことをケンと呼ぶ。
「あー、御山のね」
「デートですか。それではあたしは失礼します」
早くこの場から逃げたい一心だ。
「ちょっと待って、俺もそっちだから」
「えっ、今日はこれからあたしの家に行く予定じゃん」
「ごめん、麻耶。やっぱなし」
「どうしてよ⁉」
麻耶って人が声を荒げた。
「ごめんねー。でもやっぱ気分じゃないや。」
「何それ!?あたしのこと綺麗だねって行ってくれたじゃない!」
「あんなのジョーダンだよー。俺、麻耶みたいなケバい女無理なんだよねー」
「酷いわ…」
気づくのが遅すぎましたね。
「ごめーん。でも楽しかったんでしょ?それでいいじゃん。はい、バイバイ」
ここにいても仕方ないのであたしは無言で歩き始めた。本当に長谷雅は最低男だ。
「そ、そんな…」
後ろで麻耶のすすり泣きが聞こえる。可哀想に、あんな男に惑わされたばっかりに。
スタスタ歩くあたしの背中を追って、長谷雅はかけてきた。
「ねぇ、夕紀ちゃん。ねーねー、無視しないでよー」
無言を貫くあたしの腕をツンツンと押しながら付きまとう。
「嫌なとこ見せて悪かったよ。ごめんね」
「謝るぐらいなら、遊びで女の人と関わるのやめたら?」
「夕紀ちゃんが僕の恋人になってくれるならね。」
「馬鹿なこと言わないで。」
「だよね〜」
今すぐこのチャラ男の頭を引っ叩きたい
「夕紀ちゃん、好きな人いないの?」
「いな……いるに決まってるでしょ」
嘘。本当はいない。
でも、いないって言ったら長谷雅の思う壺になっちゃいそうでつい。
長谷雅は一瞬だけ驚いた顔をしたけれど、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「いるんだ~。誰??」
「言ってもわかんないじゃん」
早くこの話題を変えたい。
「そういえばそっか。じゃあ、どんな男か教えてよ」
「嫌」
「えー、夕紀ちゃんのケチ」
頬を膨らませる大学生。いい年して子供っぽいことはしないでいただきたい。
「ケチで結構」
「つれないなー。じゃ、俺はこっちだから。またね」
また会うことになりませんように。
この時間のこの道はできるだけ避けたほうがいいかもしれない。