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UMBRELLA

作者: 蒼原悠






 傘。

 かさ。

 カサ。


 真っ黒で重たい、

 大きくて立派な、

 わたしの傘。




 どんよりと垂れ込んだ空の下、

 お気に入りの傘を持ち出した。


 レインコートを着た綺麗なお姉さんが、

 「午前中いっぱいは雨でしょう」と、

 テレビの画面の中で笑っていた。

 だから、ねぇ。今日は傘を持って行ってもいいんでしょう?


 しとしとと降り注ぐ雨。

 すんと嗅いだ鼻は、雨の匂いを敏感に感じて。

 濡れる路面を、じっと眺めていた。

 水たまりに映る通行人の顔が、邪魔そうにわたしを見ていた。




 傘。

 かさ。

 カサ。


 真っ黒で重たい、

 大きくて立派な、

 わたしの傘。




 広げた傘はとても大きくて、

 真っ黒な膜がわたしの視界を奪う。


 見えるのはぴちゃぴちゃと跳ねる水飛沫と、

 しっとりと艶の光った革靴だけ。

 長靴で水たまりを蹴っ飛ばしたら、

 嫌そうな顔の人は見えなくなった。


 見上げれば空を覆う、真っ黒な傘。

 見下ろせば水に映る、真っ黒な傘。

 上下の世界は繋がって、わたしは傘に囲まれる。

 ねぇ、素敵でしょ?




 傘。

 かさ。

 カサ。


 真っ黒で重たい、

 大きくて立派な、

 わたしの傘。




 行き交う人の声も聞こえなくて、

 行き交う人の目も見えなくて。

 

 何も見なくていい、

 何も聞かなくていい、

 何も考えなくていい。

 ただ、雨音に合わせて踊ればいいの。


 わたしが他人を見られないなら、

 他人もわたしを見られない。

 この真っ黒な傘の下で、

 ねぇ、わたしは自由になる。




 ねえ、不思議だね。

 自由ってこんなに楽しくて、

         寂しくて、

         不安になるんだね。


 いつか世界のすべてを覆い尽すぐらい、

 大きな大きな傘ができたなら。

 その時、わたしはみんなの仲間になれるのかな。

     一人分の傘なんて要らなくなるのかな。




 真っ黒なこの傘に閉じこもる幸せも、なくなるのかな。




 傘。

 かさ。

 カサ。


 真っ黒で重たい、

 大きくて立派な、

 わたしの傘。

 



 レインコートを着た綺麗なお姉さんが、

 「午前中いっぱいは雨でしょう」と、

 テレビの画面の中で笑っていた。

 

 だから、ねぇ。今日は傘を持って行ってもいいんでしょう?

















あなたも一緒に、傘の世界に飲み込まれてみませんか。



蒼旗悠

2016/5/21

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