突撃
とある音ゲーにハマったり絵描いたりして遅れました!ごめんなさい!
〝アリアドネの糸〟1つの犠牲により、一瞬で〝ヴァルキリー〟ステージの入口と出口の役割を担う扉の前にワープした俺は、少ない消費魔力で使用できる移動系魔法を使い、俺の拠点に戻り、改めて装備、持ち物を整えた。
そしてメニューウィンドウを開き、再度持ち物を確認してから、シノと神奈にチャットを送った。ログインしていれば、すぐに返信が来るはずだが…。
《ナツ:もう入口でスタンバイしているよー》
《カンナ:眠い》
思惑通り、2人からの返信は、30秒と経たずに返ってきた。
もう既に準備は完了してるようだ。
そしてチャット欄を閉じ、移動系魔法を唱えて、〝ヴァルキリー〟50ステージに向かった。
《ナツ:お、来た来た》
《カンナ:眠い》
再び50ステージの宮殿入口に到着すると、2つのアバターが待ち構えていた。
〝英雄〟の項目職に就いているシノのアバター、ナツと、〝賢者〟に就いている神奈のアバターであるカンナが、俺と同様、それぞれの項目職をフルに活かせる装備を身に纏っている。
お互い、普段はなかなか見られないガチ装備である。
そしてカンナはそれしかチャット出来ないのか。チャット履歴を5日遡ってみてもそれしか入力してないぞあいつ。
《カンナ:私がそれしか喋れないと思われてるとは酷く心外だなー、ドー君》
《ナツ:キェァァァェェェェァァァァァァァァァァ》
《ドー:シャァベッタァァァァァァァ!!!》
カンナのチャット履歴に!新しい単語が追加された!喋った!カンナが喋った!てかなんで俺がそう考えていると分かったんだ?!エスパーかあいつ!エスパー神奈か?!
《ナツ:まあ、こんな茶番はさておいて、そろそろ凸しようよ》
《ドー:そうだな、行こ行こ》
《カンナ:明日2人の机が涎でベットべトになってても知らないよ》
《ドー:おいやめろ》
《ナツ:え、俺も?!》
《カンナ:ついでに2人が付き合っている事実を捏造して学校にばら撒くよ》
《ドー:社会的に死ぬからやめろ》
《ナツ:社会的に死ぬからやめて》
カンナのチャットログに新しい単語が追加されるに連れて、会話がどんどん汚くなっていく。誰かこの腐女子の暴走を止めてくれ。
あれから5分ほど話は長引き、遂に〝ヴァルキリー〟ステージの舞台─宮殿に足を踏み入れた。当然、入口の扉を開けた時点で数体のモンスターが戦闘態勢でこちらを睨んでいる。
このステージに強制エンカウントはなく、特定のモンスターを倒さないと進めないなんてギミックは存在しないため、ボスに向かうまでモンスターは全てスルーし、雑魚敵との戦闘に余計な労力は使わないことが理想だ。
宮殿の扉が閉まる音が響くと同時に放たれる直接攻撃や遠距離魔法を、コントローラーを駆使して全て躱し切り、俺達3人はボスに向かって走った。
その後にも当然、雑魚敵の猛攻は途切れることなく続くが、最低限の反撃に留め、ひたすら走り続ける。
そして俺がさっきアリアドネの糸を使った地点もノーダメージを維持したまま通過し、過程は順調だった。
順調と思った束の間、他の雑魚敵とは明らかに違う攻撃が、正面から飛んできた。
「?!」
咄嗟にコントローラーを操作し、ドーとナツは回避に成功した。が、カンナが見事に直撃をもらってしまった。
カンナに視点を合わせると、カンナの体力ゲージが一撃で半分に減らされ、カンナは緑色の粘液に絡めとられていた。
リアルではエロい絵面になっていたのだろうな…。チッ。
緑色の粘液によって、カンナは〝猛毒〟〝行動不可能〟の2つの状態異常に冒されていた。どちらも極めて危険な状態異常で、〝行動不可能〟は、一定時間文字通り全ての行動が完全封印され、モンスターからされるがまま(健全な意味で)にされてしまう。持続時間も30秒とかなり長く、解除方法はない。ソロでこれを食らったらゲームオーバー確定だ。
そして〝猛毒〟。これが『EARTH』に存在する状態異常の中で、最も恐ろしい状態異常だ。
〝猛毒〟は〝毒〟の完全上位互換で、毒と同じく体力ゲージを削り取っていくものなのだが、恐ろしさの格が違う。
〝毒〟は使用したモンスターの攻撃力に比例した一定ダメージを、一定間隔で体力を減らしていく。つまり体力が高ければ、その分耐えることができ、その間に落ち着いて解毒することが可能だ。
しかし〝猛毒〟は違う。〝猛毒〟は一定ダメージではなく、割合ダメージ─1割につき1秒のペース─で減っていく。つまり体力がいくら高くても、最高で10秒しか耐久できず、カンナの場合、残された時間はあと5秒しかない。
その間に速やかに解毒しなければならないが、〝猛毒〟は、魔法以外の解毒方法がほとんどない。
一応、〝解毒草〟〝解毒薬〟といった解毒アイテムが、街などのアイテムショップでお手頃価格で販売しているが、これらは〝毒〟を対象にしたアイテムで、〝猛毒〟は無慈悲なことに対象外である。
〝解毒薬〟に何らかのアイテムを合成すると〝猛毒〟用の薬が出来上がるらしいが、これは〝職人職〟の中でも上位の項目職の専門のため、詳しくはよく分からない。〝職人職〟にも一応少し手を付けてみたのだが、なんか凄い複雑だったから、めんどくさくなって投げた。
やっぱ〝戦士職〟はいいね。単純で分かりやすい。
そして〝猛毒〟で効果てきめんな解毒方法が魔法なのだが、戦士職では解毒魔法は使用出来ない。
〝マジックウォリアー〟は確かに魔法が使えるが、覚えるのは低ランクの体力回復魔法と、こちらのパラメータを上げる魔法、そして高ランクの攻撃魔法だ。
さて、ここで察しが付いた者も中にはいるだろう。
今の状況を整理するとこんな感じだ。
カンナが状態異常にかかってしまった。
猛毒を治さないと死んでしまう。
しかし解毒できるのはカンナだけ。
当の本人は魔法を封じられている。
つまりカンナは、俺達の手の打ちようがないまま、猛毒を浴び続けなければならないのだ。
《カンナ が死亡しました》
やがてカンナの体力ゲージが尽き、不吉な赤文字で画面中央に通知のバナーが表れた。
そして地面に伏したカンナ──神奈のアバターは、無数のポリゴンとなって、霧散した。
ドーとナツは、その様子をただ眺めるだけしか出来なかった。