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登校

説明はまだ続きます。

7月中旬、学生も成人も夏用の、生地の薄い制服に着慣れ、どこからか蝉の鳴き声も聞こえ始めてきた頃の平日の朝。

別のホームでのアナウンス案内や人々の足音が駅のBGMの役割を担っている駅のホームの、行列の最前列で各駅停車を待っていると、突然後ろから肩を掌でポンと叩かれ、声をかけられた。

「おはよー興野。いつにも増して眠そうだね」

「おぉ、シノか。おはよ」

まだ残る眠気のせいで半目になりながら、声の主の方へ首だけを回し、言葉を交わした。


俺がシノと呼んだこの男の名前は東雲那月。九百合高校2年A組の、俺のクラスメイトだ。

こいつとは小学校からの親友で、何から何まで趣味が合うもんだから毎日飽きることなく遊んでいた。今はシノの部活の関係で遊ぶ機会がめっきり減ったが、それでもスケジュールが空いたら遊んでいる。

そして俺は興野童。シノと同じ九百合高校2年A組だ。

「《ヴァルヴァル》を1話から観直しててさ……。おかげで2時間しか寝れんかったよ」

「はは、《ヴァルヴァル》は『EARTH』ユーザー全員の期待通りの神アニメだからね。分かるよその気持ち」

俺達の仲を繋ぐ共通の話題は、やはり世界で、日本で計り知れない人気を得ているオンラインゲーム、『EARTH』だ。

当然他のゲームやアニメ、映画等───

スポーツからアイドルまで、相手がどんな趣味であろうと話を合わせることが出来る程度の知識や経験、趣味を持ち合わせているが、7年前──小学4年生から流行に影響されてパソコンで落とした『EARTH』というMMORPGをシノと同時期に始めてから、この話題が圧倒的に多くなった。

「《ヴァルヴァル》と言えばさシノ」

「うん?」

俺の真横に、シノが並んだ。

「〝ヴァルキリー〟の最終ダンジョンの情報、集めといたぜ」

「おぉ、流石興野。じゃ、学校着いたら作戦会議だね」


〝ヴァルキリー〟


それは昨年の夏、『EARTH』のアップデートにより追加された、〝前代未聞の超鬼畜ステージ〟である。

ダンジョンのトラップなどは一切無い、宮殿を舞台としたダンジョンだが、ダンジョンの出現モンスターが笑えないくらい強く、ボスにすらたどり着けずに潜入して30秒で全滅したり、初期から中級プレイヤーが経験値稼ぎとして世話になるイノシシ型モンスターに一撃で沈められたりするという話もタコが出来るくらい聞いたことがある。


超鬼畜ステージと呼ばれるネタを明かすと、以下のようになる。


『EARTH』のモンスターは普通、体毛の色や、体躯のサイズでランク付けがされている。弱いモンスターは地味な色で身体も小さく、強いランクになるほど派手な色の体毛になったり、巨体になる。

しかし〝ヴァルキリー〟ステージでは、いわゆる雑魚キャラの色彩、容貌は皆、〝初期に出てくる見た目〟で、〝ステータスだけが大幅に引き上げられている〟のだ。

別のゲームで例えると、最弱モンスターのスライムが、見た目は普通なのに、ステータスはラスボスクラスと言った感じだ。

そのため、事前情報も無しに入ったプレイヤーが雑魚キャラに遭遇し、慢心した直後に返り討ちに合う、いわゆる初見殺しを狙ったような設計になっている。


そんな刹那の油断も許されないダンジョンをくぐり抜けると、とうとうボス部屋にたどり着ける。

そこには、皆もある程度予想はついているんだろうけど、〝道中がぬるく感じるレベル〟のボス戦が待ち受けていて、ボスを倒してやっと、ステージクリアとなる。


最後に、〝ヴァルキリー〟ステージの数はなんと50。そしてオンラインゲームで定番の、開放されるごとにそのダンジョンの難易度は上がっていくというタイプだ。


これらが、〝ヴァルキリー〟が極悪難易度ステージと呼ばれている所以である。


そのうちの49のステージが、全国の廃人プレイヤーの手によって解放された。

しかし、問題は最後のダンジョン。2ヶ月前にラストダンジョンの解放告知、そして、〝報酬一覧〟が来ると、全国のプレイヤーは目の色を変えた。


注目されたのは言うまでもなく〝報酬一覧〟で、その内容は

『クリアしたパーティの、全プレイヤーそれぞれの望む通りのアイテムを5つまで』


運営からの知らせの続きはこれだ。

『クリアしたメンバーの望みを実現して差し上げます!

たとえもう手に入らなくなった期間限定イベントのアイテムでも!このゲームに存在しない、作って欲しい架空のアイテムでも!俺TUEEEEになりかねない痛々しい設定の武器でも!なんでもござれです!

我々運営が総動員して!そのプレイヤーのご希望を叶えます!』


運営の堂々たる宣言に、プレイヤーは誰1人文句を言わなくなり、ユーザーは皆クリアを目指して鍛錬に励んでいる。


勿論俺も、シノも、だ。


【間もなく、2番線に各駅停車が到着します。黄色い線の内側に、下がってお待ちください】


人と機械を足して2で割ったような声がホームに響く。

電車がホームに着き、聞き慣れた扉の開く音が鼓膜を刺激する。電車から降りる人が減るのをその場で少し待ってから、電車に入り、空席を見つけたので座った。

説明が長くなっちゃったかな?続きます!

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