ティタ:向上心
ティタを乗せた馬車は、無事に街へと着いていた。
老人は、ティタを宿屋に寝かせ、自分は椅子に腰掛けていた。
「ん?」
「あの~、私、寝ちゃったんですか? だとしたらごめんなさい」
ティタは起きてくるなり詫びをする。老人は大丈夫だと反応して立ち上がった。
「お嬢ちゃん、コーヒーは飲めるかね?」
「甘いのなら」
「甘いのだね。承ったよ、座っていなさい」
老人の、人の心を和ませるような声にティタも安心感を覚えた。言葉に甘え椅子に座ると、老人の淹れるコーヒーの香りが部屋に漂う。
「オジサン、随分と手慣れているけど、毎日コーヒーは飲むの?」
「こんな老いぼれの唯一の楽しみだ。毎朝、コーヒーの香りを鼻で楽しみ、苦味とコクを舌で楽しむ。
お嬢ちゃんにはまだ早い話だ」
「何か良いですね……そういうの」
「ふふ、まあ大目に見てくれ」
老人はティタにコーヒーを差し出すと座り込む。
向かい合う老人と少女。端から見れば祖父と孫だろう。差し出されたコーヒーをゆっくり飲み始める。ティタは、ゆっくりと目を閉じてコーヒーを楽しんでいた。
「ところでお嬢ちゃん。実は話があるのだ」
「何です?」
「お嬢ちゃんは、核というのを知っておるかな?」
「こあ? いえ……初めて聞きました。何ですか、その……核って」
「むー。簡単に言えば、人に眠っている力、かの。その力を核と言うんじゃ」
「……それと私に何の関係が?」
「お嬢ちゃんはまだ若い。核を目覚めさせるにも十分な年齢だ。お嬢ちゃんには可能性が眠っている……ワシはそう思うのだ」
「オジサン、何者なの」
「ショウという名の只の老人だよ。お嬢ちゃん」
「ショウさん。私に、どんな可能性が?」
「それは分からないの。核が目覚めないことには何とも言えんのだ」
「そうなんだ」
ティタは考える。思う。自分に本当にショウが言うような力が眠っているのなら、是非とも目覚めさせたいと。しかし、本当にそんな力が自分に眠っているのかという疑問も湧いた。
「ワシは、人に物事を教えるのは得意でな。お嬢ちゃんが望むのなら、ワシが手助けをしてあげれるが……」
「私、出来るの?」
「それは、お嬢ちゃん次第だの」
全ては自分自身。自分次第。それを聞いたティタのなかに、一つの答えが出ていた。
「ショウさん。私、やります! やってみたいの! 今の自分に鞭を打ってでも、出来ることがあるのなら」
「そうか。分かったよ。お嬢ちゃんの熱意にワシも応えようではないか」
「よ、よろしくお願いします!」
ティタは頭を下げる。今まで、人に頭を下げたことはなかった。けれど、そうまでしてでも試してみたかったのだ。ティタの瞳に、一筋の光が燃え上がった。




