メイル:秘めたるもの
メイルとダイは、夜のレストランに来ていた。
昼間は街を見ていくだけで精一杯で、食事を摂れていなかったメイルは色々と注文していた。
「なんで、君も一緒なんだ。勝手にしろとは言ったが、付いてきていいとは言ってないぞ」
「ライバルが一緒じゃ飯も食えないってか? 戦士あるもの、何時如何なる時も食事は大事だ」
「そうじゃない。行くとこ来るとこ居られたら、僕の行動が制限されるだろう」
「ありゃ? 俺の事なんかどうでもいいんだろ? 俺が何処に居ようが、どうでもいいんだろ?」
ダイは飄々とした態度で食事を摂る。メイルが頼んだ料理もお構い無くだ。
「……君の目的は何だ。僕に固執する理由は何だ。目的を話せ……このままでは、色々と警戒せざるを得ないぞ」
「俺に興味津々? ようやくライバルの存在を認めたか」
「勘違いをするな。僕は、君に興味ない。忘れるな」
「まあいい。……お前をライバル視している理由は、同じ〈精進の儀〉を受けている十歳だからだ」
「僕をどこで知った?」
「俺、ちょくちょくお前の住む街へと足を運ぶんだ。そんときに、広場で遊んでいたお前を見掛けたんだ。そして確信したんだ……ライバルとして申し分ない君を見たとき、俺のライバルになるとな」
「それだけの理由で、僕は追われていたのか」
「理由なんて所詮は、理屈の一部に過ぎない。説明なんて無駄なことだ」
「く、食えない奴だ」
「そう簡単に食われてたまるかってやつだ。ライバルよ」
「目的は何だ?」
「ライバルを超すために修業も兼ねて旅をしている。この街に来たのだってちゃんとした理由もある」
「何だ」
「核の修業だ」
「核? ……何なんだ? 核とは」
「核を知らない!? そいつは驚いた」
「ちっ……。いいから説明しろ! 僕を怒らせると、ろくなことにならんぞ」
「分かった。特別に教えてやろうじゃないか、核の事を、ね」
ダイはテーブルの上に両手を広げて見せてきた。
メイルの表情が徐々に眉間に皺を作っていた。
「ほら、触ってみな」
ダイに促され戸惑いながらもメイルは触れる。
ダイの両手は異常に冷たく、メイルは理解が出来なかった。
「……冷え性なのか?」
「そう思う? ところがどっこい」
「!?」
ダイの両手が急激に熱くなる。メイルは戸惑いを隠せない。そんなメイルの反応に、ダイはクスクスと笑いながらからかっていた。
「これが核の片鱗。核とは、人間なら誰でも秘めている力の事だ。核を目覚めさせたいのなら努力が一番の近道だ」
「どう努力すればいい?」
「おや? 俺のことなんか興味ないんじゃなかったっけ」
「チッ! 僕がわざわざ君の話を聞いてあげているんだ。僕と会話できることに感謝するべきだぞ。さあ、コツを教えるんだ」
「偉そうに……人から教えを請う態度じゃないよ」
「フン! その気がないのなら、話をするな」
「そうやってふて腐れない。誰も教えないとは言ってないじゃないか」
メイルをからかうのを楽しんでいたダイだが、これ以上メイルの機嫌を損ねるのは危険と思ったのか、態度を改めて、メイルに向かい合う。
「俺、正直いって、人に何かを教えるのは苦手で。
俺の師匠なら上手いことやるんだけど、師匠は気分屋だし、居場所も分からない。そんな俺でも良ければ、力になってあげてもいいよ」
「クッ……! 誰かに下手に出るのは抵抗あるが、それでも僕はチャンスを逃がす訳にはいかないんだ」
「……決まりだね。そうと決まれば、早速だけど……」
「何だ」
「……俺のことを〝師匠〟と呼びたまえ!」
「クッ……クソッタレ」
メイルは、自分のプライドと戦っていた。そんなメイルを見ながら、ダイは食事に舌鼓を打っていた。